共同体的リテラシー





大家族で育った人と核家族で育った人では、刷り込まれた家庭に関するリテラシーが全く異なっている。大家族で育った人には、共同体的な家族リテラシーが刷り込まれることになる。このような人達は、他人や所属集団への依存心が極めて強い。大集団の中に埋没し、個が自立することなく、個人のアイデンティティーも充分に育たないまま成人になってしまうからだ。核家族に育ったからと言って必ず個が確立するわけではないが、個が確立するための前提条件にはなっている。

ある意味そのやり方が通じるのであれば、その方が他責・他力本願で格段に「楽」に生きることができる。このため、一旦こういうリテラシーがついてしまった人は組織依存から抜け出せなくなる。そしてそのような人達は、「類は友を呼ぶ」で寄り固まって集団を作ることにより、甘え・無責任の鉄壁組織を作り上げる。「失敗の本質」が分析したように農村出身者が過半数を占めてきた戦前の軍隊や官僚組織が、組織依存の無責任体制を築き上げたことはその典型だ。

江戸時代の町人文化と農村文化のように日本においては共同体的リテラシーは閉じた系を構成しており、それは明治以降の近代化の中でも大きくは変化しなかった。この構造を一気に崩したのは、高度成長期の集団就職に代表される労働人口の大移動である。農村の大家族で育った人が、単身都会に出てきて就職する。高度成長による大量の工場労働力に対するニーズの拡大により、農村共同体が抱えていた余剰人口が一気に都市部の工業地帯に流入してきた。

共同体的リテラシーしか持っていない彼等は、都会に一人放り出されてしまうと生きてゆけず、依存する何か大きなものが欲しいと強く感じるようになった。まずこれに目をつけて組織力のベースとしたのが、創価学会と共産党だ。それぞれ宗教とセクトという疑似共同体を、集団就職で都会に出てきた地方出身者に提供することで、その組織基盤を固めた。この両者がある意味、集団就職勢に対する精神的基盤を作ったのは間違いなく、それが高度成長に貢献したということもできる。

大企業でも同じである。企業が合理的組織ではなく、擬似共同体となることで、社員の忠誠心と依存心を高める。ユニオン・ショップ制を取ることで、労働組合もまた会社と表裏一体となって依存関係を強めてゆく上で役立った。部門や営業所・工場などのメンバーがうち揃って参加する「社員旅行」が広く行われ受け入れられたのも、組織の擬似共同体性の現れである。職場の飲み会で上司が部下におごるのが当たり前だったのも、親子関係を模したものと考えられる。

一方中小企業では、それこそ擬似共同体以上に関係性が深い擬似大家族となることで、このような人達をうまく受け入れた。職場の基本を家族主義に置いたところは大企業でもあるが、高度成長期前半の中卒での集団就職が中心だった時代では、町工場や個人商店などでは擬似どころか実際にオーナー家族と一緒の家に住み込みとなり、三食を共にして大家族そのものを構成しているシーンも、東京オリンピック以前の昭和30年代では日常的な風景だった。

こういう戦時中生まれから団塊世代に至る「集団就職世代」も、ライフステージが上がると、都会に出てきた以上核家族を作らざるを得なくなる。都会生まれ・都会育ちの人たちは、明治・大正期から核家族が一般的だったが、これは江戸時代の町人家族からの伝統である。そういう家系では日本的な核家族的リテラシーが受け継がれていた。しかし、「集団就職世代」は共同体的リテラシーしか持たないまま、核家族を構成せざるを得ないというジレンマに取り憑かれることとなった。

これが団塊世代の「ニューファミリー」である。共同体的リテラシーを受け継ぐ、依存性の高い人間による核家族。ここにおいては個の自立が不充分なまま、家族構成だけは核家族という家庭が作られていた。このため共同体的リテラシーは、団塊Jr.世代にも受け継がれた。この世代で「ニート・引き籠り」が問題となったのは、子の依存心の強さに加えて、親が大家族的に面倒を見てしまったからだ。事実、時代とともにこの問題はフェードアウトし、社会的問題とはならなくなった。

そして今や団塊孫世代が労働人口化している時代だ。ここまでくると家庭内で受け継がれている共同体的リテラシーは希薄になる。事実Z世代は、かなり個の確立が進んでおり、現状をありのままに受け入れるという行動様式からは、自己責任の高まりも感じさせる。いまや21世紀の情報社会である。共同体的リテラシーを持った人間が過半数を占めるという、20世紀産業社会の日本の常識とはサヨナラすべき時が来た。左翼もマスコミも、そこに依存しすぎたツケがきているということができるだろう。


(26/03/27)

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