北の庫から '72夏 補遺 -1972年7月-
ここ2年以上、このシリーズではPhotoshopのAIカラー化のニューロフィルターのプラグインの鉄道写真への利用を実験を続けてきた。その間にAI君もバージョンアップして、かなりイケるカラー化を出してくるようになった。今回も前回の続きで、最初の北海道撮影旅行で1972年7月17日に行った苗穂機関区でのカットのカラー化の続きをやろうと思ったのだが、今まで紙焼きでも趣味誌上でもWebでも未発表というカットが大量に発見された。流石に本来のモノクロのを載せる前にカラー化したカットを掲載したのでは本末転倒なので、まずはモノクロ版を公開することにした。一連の苗穂機関区でのカットは、かつて「北の庫から '72夏」として発表したので、今回はその続きということで「補遺」。久々のオリジナル・モノクロバージョンをお楽しみください。

まずは給砂塔のあるアプローチ線から、転車台に向かう苗穂機関区のC57147号機。この角度から見るとLP405副灯こそついているものの、煙室先端の角型化や蓋付きのバイパス弁点検穴など、鷹取工場持ちのC57らしい特徴が色濃く残っています。こういう気遣いがリアル感を増すんですよね。誘導係は北海道の定位置たるフロントデッキ上。このカマは踏段改造がなされていないので(72年時点では、C57は未改造)、掴み棒を後ろ手に握り、足は解放テコとの間という、かなり苦しい姿勢です。降雪時の安全を考えると、踏段改造が広まったのも納得できます。まあ誘導係など地上職員が所属する国労が北海道では強かったというのもありますが。後ろのセキは「道外禁止」が入らない、初期型の黄帯ですね。

静々とターンテーブル上に進入するC57147号機。テンダーについては、ほぼ後部前照灯と増炭板だけの改造で、北海道仕様の特徴的な装備は付いていません。誘導係は「一旦停止」のところで停止した際に降車して、隣の線路のところで指差確認をしています。こうやって見ると、シャツは私服ですね。まあ、国労組合員はヒドい恰好してましたからね。下は制服のようなので、夏なので制服の上着を脱いでいるというところでしょうか。レイアウトの資料として、ターンテーブル廻りの雰囲気を撮影したカットでしょう。この一連の未発表カットには、明らかにこういう模型資料として撮影したものが多く、それゆえ写真としては公開していなかったのでしょう。

ターンテーブル上で向きを変えつつあるC57147号機。これもターンテーブルと147号機の資料という感じが強く、ディテールも良く捉えられています。最低限の装備の北海道仕様化が行われていますが、和歌山区当時の面影も強く残っていて、不思議な感じです。もともと関西のカマらしく、集煙装置・重油タンクを取り付けたいわゆる「重装備」仕様でした。集煙装置作動用のリンクがあった関係から逆止弁の位置が移設されており、その影響で北海道仕様の扇型の手摺りが通常と逆にドーム側に取り付けられているのが目立ちます。煙突も切り詰めているのですが、皿なしクルパーを取り付けているので、それと合わせてノーマルの長さのように見えますね。

公式側のキャブをアップで撮ります。これも模型用のディテール写真ですね。バタフライスクリーン、北海道型タブレットキャッチャーとそれに合わせた雨樋・手摺の改造。分配弁へのカバーの取り付け、凍結防止用のコンプレッサー排気のテンダーへの配管。あと、採光改良改造されたフロントウィンドウへの旋回窓の取り付けといったところが、北海道仕様への改造点です。キャブの吊り輪もあまり見ないタイプです。新製時から関西配置だったので鷹取工場での取付なのでしょうが、一般の鷹取タイプとは違いますね。あと防寒カーテン用のレールが取り付けられているのも面白いところ。模型の場合防寒カーテンを付けちゃうと機炭間が干渉してカーブを曲がらなくなる危険性がありますが、夏姿としてレールだけ付けるのもアリですね。

C57147号機は向きを変えて出発線の方に向かいました。後にはずっと留置線に留まっていた鷲別機関区のD511098号機が見えています。しかし前照灯のレンズが煤けたままというのは「鷲別機関区あるある」なんですが、安全上問題がありですね。副灯はそれでもいいけど、主灯のレンズくらいは磨いて欲しいものですが。逆にここが汚れたままというのは、鷲別ならではで、遠目で識別するポイントにもなっています。雨に濡れたターンテーブルの風情は良い感じ、運転室の外灯が味を出しています。こういう世界はジオラマで作ってみたいところですが、スケールで作ると転車台と扇形庫はすぐ四畳半でも入りきらなくなっていまいますからねえ。

出発線のところに戻って、再び小樽築港機関区のD5170号機を被写体とします。まずは真正面からのカット。蝦夷梅雨の最中のこの日は雨が降ったり止んだりで、激しく降り出したときは庫の中での撮影に切り替えたりしていました。そんなわけで線路の中には水たまりができています。そこに機関車のシルエットが写っているところを入れて撮りたかったのでしょう。マセた16歳だなあ。でもまあ雰囲気は良く掴めています。機関車に絡みつくスチームも、雨が上がったばかりの湿度の高さを感じさせます。真正面から見ると、デフを切り詰めているかどうかわかりませんから、あまり北海道のカマという感じがしませんね。ナメクジドームも見えないので、C59やC60のようにも見えます。

今回の最後は、D5170号機の顔のアップ。かなり情報を圧縮した構図ですが、北海道のナメクジという特徴的なポイントは、しっかり押さえられています。しかし、さすがに北海道筆頭の小樽築港機関区。しっかり磨かれた副灯LP405のリングは、まさに矜持ですね。主灯のLP403も先程の鷲別のカマとは大違い。レンズがキレイで反射板の輝きが伝わってくるのはもちろん、灯具全体もしっかり磨かれていてくすんでいません。苗穂工場製らしいナンバープレートも素朴な味わいがあり、北海道の大地に似合っています。小樽築港の一次型は電化区間の運用に就くことが多く、そのせいか「架線注意」の札も清掃が行き届いてますね。
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