Silvan Note 12  森のうまみ

 

白樺の森を歩いていると、

何かが口の中で無邪気に跳ねるような気がした。

 

「パチパチ、パチパチ・・・」

 

ブータン・ヒマラヤを歩いた時のことだ。

初日のキャンプ地で、二十日以上にわたるトレッキングに備えて

同行した馬子たちはシャカムを作るという。

松の枝で即席に作った長方形の枠組の上に、細長い牛の肉片を並る。

その下で焚き火をして、火の上にジンという枝をのせると、

葉の間からもくもくと煙がでて、肉片が燻される。

シャカムとは燻製のことだった。一時間ほど燻すと完成らしい。

黒ずんだ肉片から香ばしい匂いが放たれてる。

きっと昔から伝わる生肉の保存方法なのだろう。 

 

トレッキング中は、毎日のように、その燻製にお世話になった。

噛みちぎるごとに少し苦みのある自然の風味が舌に伝わった。

 

そういえば、白樺も、燻製材として使われる。

クセはないが、素材にうまみをだす。

自然が育んだ風味が素材を包みこむのだろう。

 

「パチ、パチ」

 

舌の上で爽快な空気の粒が無数にはじける。森の放つ風味が飛び跳ねる。

 

「パチ、パッチン」

 

幼な子が嬉しそうに舌の上で遊んでいるかのようだ。

 


Silvan
's Monologue

芳香剤などで、森の香りの中に、「ピトンチット」という成分が表示されていることがあります。森林浴なんかでも、使われる言葉のような気がします。その言葉の響きから、木々から放たれる良い空気が、なんだかパチパチ飛び跳ねるような印象が、私にはあります。実際、化学的には、違うのかもしれないのですが・・・・。早いもので、この連載がはじまって一年が経ちました。四季折々、いろんな森の姿に出会えることができました。自然は、奥が深いです。森の表情を、もう少し見続ける機会をあたえてくれることになりました。更に五感を研ぎ澄ませ、森の声や匂い、色彩や風味、肌触りを表現していこうと思っています。


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