男のサガ





男というのは、なんともむなしいモノである。なんともあほらしいモノである。目の前にニンジンをぶる下げられた馬よろしく、ある状況下に入ってしまうと、虚無の地獄が待っているとわかっていながらも、どんどん自分から落ちて行ってしまう。それは、何人かの男たちが「閉じた系」の中で、「モテるか、モテないか」を問われる状況だ。

たとえば、男4人に女1人で飲みに行ったとする。男の中の一人はその女のコに気がある。他の男たちは、もともとその女のコにはハナから興味はない。だがそんな状況下で、興味のある男がマジに女のコにアタックを始めたとする。この途端、状況は一変する。もともと興味がなかったはずの男たちも、相手にされずにはいられなくなるのだ。なんとか女のコに取り入って、モテたい、ちやほやされたい。そういう欲望が、理性や論理を飛び越えて、体内に充満し、そして爆発する。

もちろん、だからどうこうというモノではそもそもない。それどころか、こんな競争の果てにあるのは、レミングスの集団自殺よろしい、足の引っ張り合いによる集団自滅だけだ。女のコはいいよ。笑ってみてりゃいいんだから。でも男のコは、赤い布を振られた闘牛場の牛のように、地獄に向かって突進していくだけ。

これで笑うに笑えない状況は、中高一貫教育の男子校でよく引き起こされる。ぼくもそういう学校の出身なのだが、こういった思春期の男のコばっかりの集団では、当然のようにホモっけのあるヤツが出てくる。そうすると、これまた当然のように、そういう嗜好のある連中から特に人気のある可愛いコ、すなわち「アイドル」が出てくる。

こうなるともう大変。元来ヘテロ一本槍で、ホモっけのないはずのヤツまで、そういう「アイドル」のコにモテようと、競争に参戦してしまうのだ。ああ、なんとも悲しいお話。モテてどうこうというのでもないし、その「アイドル」のコとホットな関係になりたいわけでもない。ただただひたすら、「競争」があると、本能的に参戦し、勝ち残ることでだけ自分のアイデンティティーを示したがるのだ。

老人ホームでは、人気の女性がいると、ボケ爺さんもシャキッとしてしまうだけでなく、元気になりすぎて、その女性を取り合って殺人事件まで起こった例もあるという。ああ、こればかりは、男に生まれた限りいくつになっても治らないらしい。ほんとにむなしい男のサガである。文字通り「男はつらいよ」でんな。


(97/08/21)



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