ドラフトと競争原理





今年もドラフトは、番狂わせな結果に終わった。横浜高校の松坂投手は、意中の横浜ベイスターズが当りくじを引けず、交渉権は西武ライオンズに渡った。沖縄水産高校の新垣投手の場合には、交渉権を得たオリックス・ブルーウェーブのスカウト担当編成部長の自殺という自体まで引き起こした。ドラフトにまつわる話題はどれも、とてもアン・ハッピーな話になってしまうが、これらは起こるべくして起こった悲劇ということもできる。これらの問題は今年起きたいろいろなスポーツ界の事件と同様、日本スポーツ界の持っている体質が、世の中が向かいつつあるグローバル・スタンダードの市場原理から最も遠いところにあるがゆえの矛盾から引き起こされたモノだからだ。

そもそも球団そのものに、経営の原理が働いていない。ビジネスとしていかに成り立たせるか。いかに野球で儲けるか。その発想が先になくてはいけない。「いい試合かどうか」などという議論をする方がおかしい。プロスポーツは、アマチュアの腐った精神論とは違う。お客さまのいるエンターテイメントビジネスだ。いかに面白く楽しい試合を見せるか。これができてはじめて、球団は儲かることになる。なにより試合がコンテンツとして、金を出して楽しむに足るクオリティーがあるかどうかがカギになる。

そのためにはマーケティングが重要だ。どういう球団カラーにするか。どう差別化するか。強さに徹するのもいいだろう。スターに徹するのもいいだろう。あるいは、徹底的に3の線でボケ役に徹するのも面白いかもしれない。お客さまが魅力を感じてお金を払ってくれるだけの差別化ができていなくては、誰も足を運ばないし、テレビ中継も見ない。野球ファンがいて、必ず見てくれることを前提にしては、じり貧になるだけだ。一方、激しい競争にさらされる、人気商売、エンターテイメント商売として切磋琢磨していれば、おのずと各球団毎の売りどころや魅力が生まれてくる。それができない球団は脱落してしまうからだ。

一方、球団経営への参入や撤退も自由でなくてはいけない。日本のスポーツ界は権威付けが好きなせいか、何でもすぐ囲い込んで利権にしたがる傾向にある。だが、これも人気という意味では逆効果だ。競争に負けたモノに対しても、淘汰が働かなくなってしまうからだ。競争原理が繰り広げられていれば、球界ももっと風通しがよく、エンターテイメントビジネスとしてもウマく回転していたに違いない。しかし、過去の悪癖の残滓が積もり積もってしまった今となっては、ダイオキシンの発生源となった産敗処理場よろしく、手の付けようがない死の海となっている。

もちろん、選手の側にも競争原理は働く必要がある。プロ選手は、体育会的な選手とは違う。一人一人の個性と能力が売り物の、スタープレイヤーなのだ。ある目標を黙々と自分を押し殺して達成しても、それは自己満足のアマチュアの評価でしかない。プロなら、同じ選手は二人といらない。第二の誰々では、そうなった時点でもうプロ失格だ。今までにない個性が光ってはじめて、プロたり得る素材となるし、それゆえにお金ももらえる。そう考えれば選手もまた、自分ならではの強みを伸ばし、差別化を図らなくては生き残れないということだ。

競争原理が働いていれば、球団も選手も、自分ならではの個性を磨かなくては生き残れないのだ。ここまで来ればもうわかるだろう。競争原理が成り立っている市場をベースとするならば、ベストマッチングというのはおのずと決まってくる。誰も彼もがどこか一極に集中してしまうのは、自然な市場原理が働かず、歪んだ利権構造が成り立っているからこそ起こること。この点、最近の選手は自分のカラーをわかっている人も多く、逆指名する球団も、なるほどと納得できる場合が多いのは喜ばしい傾向ではある。

自由競争にすると、資金力の勝負になってつまらないという声もある。しかし、それは間違っている。そもそも、資金力をかけたからといって、チームがよくなるわけではない。あくまでも先に優れた戦略があって、資金はそれを実現するのに必要なだけだ。さらに、コンテンツとは資金力だけで勝負が決まるモノではない。客を呼び、人気を集めるのはアイディア次第。それに競争原理が働いているならば、野球の試合に勝つことより、経営競争に勝つことの方が大事な以上、無意味な投資など誰もしなくなるだろう。

このように、新人スカウトで問題があるとするならば、それは「競争原理が不充分」だからこそ起こっているということができる。すべてが市場原理で処理されるようになれば、おのずと問題は解決する。現状の問題は、そもそも自由化が不充分だから起こった問題を、更なる規制により問題を先伸ばしにして対処しようとした発想にある。そう考えてゆくと、これは何も野球界、スポーツ界だけの問題でないことに気付く。どうして日本人はこう利権にすがりつきたがるのだろう。まさに日本社会自体の醜い姿そのものだ。ここから脱皮しない限り、日本人は永遠に世界ののけ者だろう。バカは死ななきゃ治らないっていうし。

(98/12/04)



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