選挙祭り





バラ撒き期待の左翼リベラル支持者はさておき、多くの「無党派層」にとっては、この20年ほど選挙とはある種の参加型ゲームである。それはギャンブルのようなもので、どちらがアタリかを当てるゲームである。オマケにアタリ自体を、参加者によって決めることができる。これはある意味面白いゲームである。競り合って伯仲すればするほど、自分の一票が勝ち負けを決めることになるから、参加したくなる。

この傾向は世界的に見られる。トランプ大統領を生み出したのもこういうメカニズムだし、世界各国の大統領や議員の選挙で「当選したら面白い」候補の方が結果的に勝つという現象は顕著になっている。英国のEU脱退の国民投票も同じである。貧しい開発途上国はさておき、先進国においてはこの傾向は明らかだ。主義主張や政策で見るからよくわからないだけで、面白いかどうかという視点から見れば極めて一貫している。

「小泉劇場」といわれ「小泉チルドレン」の新人議員が多数当選した2005年の郵政選挙の時、私は当時勤めていた電通で生活者インサイトチームを含む部門の責任者であった。その時生活者分析手法を用いて、「無党派層」の実態を分析した。一言で言ってしまえば、政策論争やイデオロギー的な主義主張に全く興味がないから「無党派層」なのであり、この層は「面白いかどうか」「楽しいかどうか」でしか選挙を見ていないということが把握できた。

これは信頼性のあるデータに基づき、実績ある分析手法を用いることで導き出された結論であり、非常に角度の高い結論である。しかし当時の有識者やジャーナリストは「無党派層」を「既存の党派のもつ政策理念やイデオロギーの枠組みに収まらない理念や志向を持つ人達」であり、「比較的リベラルな若者層」と全く見当はずれの枠組みで捉えていた。どっちが実態を正しくつかんでいたかは、その後の歴史の流れを見れば明らかであろう。

ちなみに今となっては「若い層ほど保守」というのは常識になっているが、この時すでに「生まれた時から日本が豊かな国」だった世代が有権者となっており、その層の間では「現状に極めて満足」しており「今手にしているものを失いたくない」という志向が極めて強いこともきっちり読み取れた。今いろいろ言われている有権者の政治的傾向は、ある意味十数年前から起こっていたことなのである。

だが永田町の常識やジャーナリストの常識では、それを読み取ること、感じ取ることができなかったというだけなのである。唯一その兆候を動物的な勘というか本能で感じ取っていたのは、小沢一郎氏だけであろう。「政権が交代したらどうなるのか面白い」と選挙を「政権交代祭」にしてしまえば、面白がって「政権交代」出来てしまうだろうと見抜き、実際それを2009年の総選挙で実現してしまった。

もっとも本来手段であるはずの政権交代自体が目的化し、いざ政権をとってみても、90年代に自民党が分裂した際に離党したころと比べるとあまりにも野党の人材が劣化していたこともあって、何もできないどころか恥さらしになってしまったというのは笑うに笑えないお粗末さではあったが。いずれにしろ、今や40代以下の有権者の大多数はそういう発想で選挙を見ているし、投票をしているというのは歴然たる事実である。

これに対し、学識者やジャーナリストは「間違っている」とか「啓蒙すべきだ」とか、極めて上から目線で有権者を見下した態度を取りがちである。しかし、彼等は自分のやり方に信念を持っているのだ。この傾向は誰が何と言おうと変わることはない。マーケティングにおいては、顧客の意志がなにより大切である。顧客を「教育」したり、ましてや「啓蒙」したりという発想では、そっぽを向かれるだけだ。

そうであるならば、政治もこういう有権者の指向を前提に選挙を組み立ててゆくべきだろう。それをポピュリズムと批判するのは自由だが、普通選挙に基づく代議制を取る限り、選挙のマーケティングとしては有権者の指向を理解しそれに合わせない限り票は取れない。賢人政治を求めて現状の批判をしたいのであれば、その対象は有権者ではなく、議会制民主主義という政治システムの方だ。それなら話は理解できる。

議会制民主主義も、あまたある政治システムの一つに過ぎない。議会制であっても、制限選挙や普通選挙といった選挙権対象者の違いもあるし、身分制議会のようにそれぞれがそれぞれの代表を選ぶやり方もある。また、議会そのものを持たない政治制度もいろいろある。そろそろ議会や選挙といったシステム自体が耐用年数を越えているという見方もできる。それが唯一絶対なのではなく、情報化社会ならではのもっと時代に合ったやり方はないのか。より大きな視野を持って考えるべき時が来ているのであろう。


(18/11/23)

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