長いものに巻かれたい人





何かに取り組む際に自分が腹をくくって決断し、全ての責任を背負ってそれを実行する。そのような行動は、ベンチャースピリットとか、企業家精神とか呼ばれ、ビル・ゲイツ氏やスティーブ・ジョブス氏のような傑物でないとできないことのように思われがちである。あこがれるけれど自分にはとてもできそうにないと思っている人も多いのではないだろうか。しかし、実はそれはとんだ思い違いである。

人に迎合したりおもねたりせず、自分が本当にやりたいことを、他人が何と言おうとやるというのは、人間としての生き方の基本である。他人のことなど気にせず、自分を貫けば自分のやりたいことはできる。どうせ他人なんて最後には足を引っ張るだけなのだから、最初から期待せず無視してかかればいいのだ。シカトするのに特別な能力はいらない。

よく引き合いに出される、みんな最初に「とりあえずビール」というヤツがある。もちろん死ぬほどビールが飲みたくて、この瞬間を待って満を持してビールを注文する人も結構多いとは思う。しかし、実はハイボールやワインが飲みたい人も、なんかわざわざ自分の欲しいモノを注文するのが面倒で億劫になって、「ビール」と言ってしまう人もけっこう多いと思われる。

そんな時に遠慮する必要はない。多数に対して忖度しているつもりかもしれないが、別に多数側はそんなあなたの意見など、コレっぽっちも気にしていない。まあ、そこでドンペリを頼んでしまったら空気が読めないアスペだとは思うが、たとえば飲み放題でどれを注文しても変わりがないのなら、ソフトドリンクでもハイボールでも飲みたいものを注文すればいいだけである。

では、なんでここで「僕も」「私も」になってしまうのか。それは自分の意見を言うには何らかの努力が必要となるからだ。しかし、努力は面倒臭いし、面倒くさいことはできるだけやりたくない。だからいつでも長いものに巻かれてしまいたいと思っている人がいる。多数の圧力を恐れているわけでもなく、多数におもねっているわけでもなく、自分が表に出るのが面倒だから多数の側に身を寄せて風除けにつかってしまうのだ。

この「面倒くさいから安易に流れる」という人が、現代の日本人にはあまりに多いのだ。これははっきり言って甘えである。組織なり社会なりに対して甘えて、自分がやるべき努力を放棄してしまっているのだ。かつてのツービートのギャグで「赤信号皆で渡れば恐くない」というのがあったが、まさに甘えてやるべきことをやらない人の方が多くなってしまえば、決してとがめられることはなくなる。

このように皆で甘え合うことを社会的に認めてしまう体質があることが、日本社会が持つ一番の構造的問題である。日本の「男性社会」は、マッチョでタフな男性主義の跋扈する世界ではなく、「甘え・無責任」で他人依存な表に出たがらないチキンな野郎共の集合である。これも、この相互に甘え合う体質が純粋培養され、それに特化した組織文化が生まれたものと考えられる。

日本は集団主義的と批判される一方で、リーダーシップに欠けるとも批判されることが多い。リーダーが上意下達型で命令してそれに従うからこそ集団主義が成り立つわけで、これらの指摘が同時に成り立つということは、西欧的な組織論からすると矛盾している。そういう意味では、集団主義ではなく個々人が集団に甘える「集団依存」こそが日本の組織の構造的特徴である。これなら、リーダーシップのなさとも整合性が高い。

そういうバックグラウンドがわかってくれば、別に迎合したりおもねったりしなかったとしても、それに対して積極的なバッシングを始める人はいないことはすぐわかる。バッシングには努力が必要だが、そもそもそういう努力が嫌いな人達ばかり集まっているからだ。まあ、村八分みたいな消極的なバッシングはあるかもしれないが、自分で何かをやろうという人にとっては、それは別に何の影響もない。

だからこそ、やりたいことが明確にある人は、自分でそれをやってしまえばいいだけだ。相手に迷惑がかからないのであれば、こちらが何かやっても見てみぬふりをするだけである。まあ、多少気を使って「一緒にやるならこの指とまれ」ぐらいは言ってもいいかもしれない。言ったところでほとんどリアクションはないだろうし、一応声掛けをしておけば「あの時声を掛けたのに乗ってこなかった」とエクスキューズになる。

長いものに巻かれたい人は、互いに巻かれ合ってゴロゴロしてればいい。それもまた「勝手にどうぞ」である。ボリュームゾーンに何も求めず何も期待しないのであれば、放って置けばいいだけだ。ウサギとカメで昼寝している間に追い抜くようなもの。そのうち距離が離れすぎて、こっちの姿が視野から消えれば何事もなかったようになる。実はやったモン勝ち。自分の意見を言う努力は必ず報われるのだ。


(18/12/28)

(c)2018 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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