20世紀という社会実験






今週は平成から令和へと改元がある週である。昭和天皇崩御のXデイの時には、新元号になるとともに、待ってましたとばかり「昭和回顧」の特番が各局でオンエア・ラッシュになっていた。今回は予定調和なので、この手のVTRライブラリの活用は制作費が安いので、最近のご時世にも合っていることもあり、平成最後の一ヶ月あまりは政治経済から芸能・スポーツと、ありとあらゆるジャンルで「平成を振り返る」特番が続いていた。

昭和の時代は戦争あり高度成長あり、そしてXデイがバブルの絶頂期に当ったこともあって、まさに昭和に流行ったテレビドラマ「おしん」よろしく、日本が二流の貧乏国ながら無理して背伸びをしていた頃から世界のG7の一角を占める経済大国になるまで、波乱万丈の歴史を見せる番組であった。昭和についてはすでに映像の時代だったので、当初から記録映像が残っていたことも迫力ある番組作りに役立った。

それに比べると平成の30年間は、いろいろ変化はあったし、時代も進化しているのだが、ある意味パラダイムシフトがない、いわばお釈迦様の手の上の孫悟空のような時代の流れだった感じが強く伝わってくる。30年前のシャツを着ても、単に個性・テイストの違いで済んでしまう。電車の中では皆スマホを持っているが、それは手の中にある物体が30年前のスポーツ新聞・マンガ雑誌からスマホに変わったというだけで、ひまつぶしという本質は変化していない。

気が付けば、21世紀になってもはや20年近く経っている。何かが変化しているはずだし、何かはすでに非可逆的に進んでしまっているはずである。後世の歴史家が指摘するはずの「21世紀らしさ」は、すでに社会に根付いているはずだ。しかし、20世紀の間の変化が急激過ぎたため、そこに気がついていないのかもしれない。改めて20世紀の変化を捉えなおすことで、21世紀の本質はどこにあるのかを考え直すことも必要だろう。

20世紀は変化が多かったということは、とりもなおさず分野を問わずいろいろなトライアルが行われ、それが篩にかけられてきた時代だったということである。美術・音楽・映画演劇など芸術の分野では、いろいろな表現や手法が生まれては試されてきた。その中から新しいメインストリームとして定着する方法論も多く生まれた。ファッションも然り、メディア・コンテンツも然りである。

こういう流行的なモノはわりと系譜図が理解しやすいが、実は政治・経済・社会の分野でもいろいろなトライアルが行われてきた。あるものは成功してそれなりの成果を残したが、あるものは結果的に受け入れられず破綻する。そういう意味では20世紀というのは壮大な社会実験の時代だったということができるだろう。産業革命で人類は巨大な生産力を手にした。しかし、それが生み出すものを受け止めるだけのノウハウは、それまでの人類にはなかった。

そのため19世紀の末期から、産業社会を機能させるための試みが行われるようになる。そしてそれを社会制度・社会システムとして現実社会の中に取り入れて、どう機能するか試行錯誤が繰り返されてきた。20世紀の初頭から西欧列強諸国で取り入れられるようになった普通選挙もそうである。男子普通選挙ながら日本でも1925年に普通選挙法が施行されたが、これは世界的に見ても決して遅くはない。

そういう意味では、民主主義は大衆社会をどうマネジメントしてゆくかという社会実験だった。歴史上、世界で最も民主的な社会と言われるワイマール憲法の元で、ナチス党が民主的合法プロセスにより政権を握ったというのは、まさに民主主義の持つ社会実験としての大きな成果の一つであろう。そういう意味では、共産主義も人類の目指すべきヴィジョンを描いた理念としては壮大なものだったが、社会実験という意味では機能しなかった。

20世紀は戦争の世紀とも言われる。これもまた、大きな犠牲を伴った社会実験だったということができる。そのプロセスがあるからこそ、20世紀後半に入ると冷戦という対立構造こそあったものの、実際の交戦は地域紛争的なものに限られるようになり、さらにはスーパーパワー対テロリストという国家間の衝突ではないものでしか実際の戦闘活動は行われないようになってしまった。

このように20世紀は、社会成長の歪みの中で幾多の社会実験の時代であった。その結論はすでに出ている。あとはこの結果をどう読み取って、情報社会の段階に進んだ21世紀に活かしてゆくかが大事なのである。イデオロギーが時代遅れのものになったのも、その一つの表れである。ノスタルジーから抜け出せない人は、勝手に懐古趣味の中に浸っていればいい。しかし時代を生きる人は、いつまでも20世紀的な社会実験にコダわるのではなく、その次の段階にいかなくてはならないのだ。

(19/05/03)

(c)2019 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


「Essay & Diary」にもどる


「Contents Index」にもどる


はじめにもどる