自分の価値観を持つ





21世紀においては、秀才的な知識や勉強といった後天的な努力で何とかなる能力ではAIにかなわないし、そこで評価されることはなくなるということを、この何回かを通してみてきた。これは別にコペルニクス的転換でもなんでもない。今まででも、秀才の使い方というのはそういうものであった。リーダーシップを持つものが、秀才をうまく使う。それによりリーダーの決断できる範囲が広がる。能吏とはそのように使うものであった。

これは経営者がどううまく戦略コンサルタントを使っているかを見てもわかる。そもそも有能な経営者にはビジョンや戦略がある。こういう人たちは、それを説明したり検証したりするデータを集めるためにコンサルタントを使うのである。コンサルタントは官僚と同じで、「はじめに答えありき」でそれを正当化するためのデータを集めたりロジック構築したりすることには長けている。こういう使い方であれば、非常に効率がよい。

その一方で、自分はノーアイディアで戦略コンサルタントに何らかの答えを出してもらおうとする経営者もいる。しかし、秀才は絶対に自分に責任が及ぶようなアウトプットは出さないので、そんなことを求めても答えのようで答えになっていない、一般論、正論が返ってくるだけである。そんなものはMBAの教科書に書いてある。もともとアイディアのない人は、これでも喜んで高い費用を払ってしまったりする。

そういう感じで、自分としての意志を明確に持ち、それを検証したり広げたりする手段としてAIを使えばいいのだ。これが情報社会における人間と機械の役割分担の望ましい姿である。別に難しいことでもないし、新しいことでもない。やっている人は昔からやっていることである。問題なのは、そういう視点や問題意識が全くなくても、それなりに乗り切れてしまった20世紀産業社会の「ユルさ」にある。

では、そのカギはどこにあるのかを考えてみよう。自分として肚をくくり、自分なりのビジョンや戦略を持っているかどうか。その分かれ目は、自分としての価値観をしっかり持っているかどうかにかかっている。誰かの意見を聞いて受け売りをしたり、多勢に無勢で付和雷同したりではなく、自分としてどう思うのか、自分として何をしたいのか、それを常に意識して毎日を生きているかどうかによるのだ。

その前提となるのが、やはり多様な価値観を認めることである。他人の意見を聞いたときに、「なるほどそれは一理あるし、私も賛成できる」とか、「そういう意見があってもいいが、私はそうは思わない」とか、相手の意見と自分の意見の二者択一ではなく、その共通性と違いをきっちり捉えられるか。ここが第一の関門となる。これができていれば、主体的に自分の意見を持つことに繋がる。

次にポイントとなるのは、自分なりに考えることである。人の話を鵜呑みにしたり、受け売りをしたりするのではなく、まず聞いて自分なりに考える。そこで何か考えておけば、そこから自分なりの意見が生まれてくるものである。こういう習慣がある人は、子供の頃から情報に接するとまず自分なりに考えるようにしている。確かに何も考えずに丸呑みしてしまったほうが楽といえば楽だろう。しかし、人生にはその楽さのしっぺ返しがあるのだ。

最近の世の中は、とにかく長いものに巻かれてルールを守っていればいいという気風に満ちてしまっている。そこそこ豊かで、そこそこ安定している社会の中で生まれ、育てば、そういう安易なほうに流れがちということもあるだろう。しかし、善悪判断というのは本来人によって違うべきものだ。自分にとってどういう価値なのかという基準は、社会一般とは全くことなる。違法とされていても、自分にとって意味があるなら、それはけっして悪いことではないのだ。

肚をくくれる人は、肝が据わっているので、社会一般ではなく自分を基準にした判断ができる。俗に「清濁併せ呑む」といわれるが、これは付和雷同せず自分の判断ができるということと同値だ。実はこれができないと、リーダーシップは取れない。ある意味サラリーマン社長の判断はAIで代替できるが、起業家ファウンダーの判断は人間でなくてはできないものであるのは、これゆえである。

世の中に迎合せず、毅然と自分の判断ができる。これが、情報化社会に求められる人間らしさである。そのためには自分なりの価値観を持つことが必要である。そういう力をつけるには、甘えないことが第一である。情報に接する前に、まず自分なりに考えて結論を出し、その上で情報を利用する。こういう意識を持つだけでも、かなり自分の価値観は研ぎ澄まされる。人に聞けばなんとかなる、ではなく、まず自分で考える。これこそ、情報社会を渡ってゆく上のカギである。


(20/02/14)

(c)2020 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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