ITはアホを暴く



民主主義は、情報化社会と結びつくことでで大化けする可能性を持っている。どうも政治の世界では、「人は過去の発言や行動を覚えていない」というのが大原則となっていた感がある。政治家の中もブレない自分のポリシーをしっかり持っている人は少ない。それは一部の論客の実力派議員に限られる。多くの議員さんはそういうポリシーを持っていないので、発言はどうしても思いつきによる場当たり的なリップサービスが多くなる。それがいわゆる「失言問題」を引き起こす。

昨今野党の皆さんには「ブーメラン」と呼ばれる、自分の発言が結果的に自分の足を引っ張ることになる現象が良く見られる。根本的な原因は自らの政治理念やヴィジョンを持たず、目立てばいいとばかり場当たり的な「反対のための反対」のスタンドプレイに終始するところにある。かつて過去の発言は都合よく忘れられて責任を追及されることがなかったため、それに慣れ切ってその場限りで場当たり的な調子のいい発言を繰り返すのが癖になってしまったのだ。

こういう場当たり的な対応を繰り返していると、人間の不完全さをいいことに「そのうち忘れる」ことを前提に、発言や行動を取るかどうかを判断するようになる。20世紀のように社会の情報処理能力が低い時代なら、過去の発言についてキチンとアフターフォローができなかったためうやむやにすれば逃げ切れた。しかし、デジタルでネットワーク上に記録が残る情報化時代となるとそうは問屋がおろさない。

すでにSNSなどでは、その場その場で場当たり的な発言をし、本人が気付かない間に発言内容が自己矛盾をきたしているような人については、過去の書き込みを引っ張り出してきて責任を追及する動きが増えている。公的な存在に対しては、すでにそういう形で本人がドサクサ紛れに過去の発言を消去しても、logから過去の書き込みを引っ張り出したり、スクリーンショットで再掲載したりというカタチで発言の証拠を突きつける事例が増えている。

そもそもコンピュータネットワークは「消せない」し「忘れない」モノなのだ。ブロックチェーンのような仕組みをわざわざ作らなくても、多くの人の目に触れた書き込みやデータは誰かが保存しているものだ。消したと思っていい気になっていると、どこからか消したはずの発言が出てくる。これに対し本人がもぐら叩きを始めれば始めるほど、証拠は雨後の竹の子のようにどんどん出てくる。

本人がその発言を忘れてしまっていても、聞いたほうはいつまでも忘れてないし、記録を引っ張り出せる。ある意味、これはデジタルネットワークの基本的なリテラシーである。それを理解せずに、20世紀のカビの生えた常識しかもっていないから、こういう恥さらしなことになるのだ。わざわざ恥をさらすくらいなら、最初から分不相応のデジタルメディアなど使わなければいい。

さて情報社会が高度化すると、政治において変わってくるのは議員の政治家先生だけではない。有権者もまた変わらざるを得ない。有権者においても、自分の考えをしっかり持ち、毎回ブレない判断に基づき選ぶ候補者を決めるという人は少ない。面白そうとか、話題になっているとか、基本的にその場限りの人気投票みたいに対応している人がほとんどであろう。その証拠に自分が過去の選挙で誰に入れたか覚えている人はごく少ない。

ところが情報社会となった今では、各個人の情報行動をビッグデータとして記録しておき、何かが起こってから後追いでフォローすることは可能かつ容易となった。つまり誰がこの候補を当選させたかを、記録として遡ることができるようになった。過去の選挙方式は、このような仕組みが取れないからこそ、無責任な無記名投票を取らざるを得なかった。しかし高度に情報化した社会なら、一票の責任を永遠に問える仕組みが作れるのだ。

いままでの議会制民主主義の問題点は、馬鹿や無能な議員を選んだ有権者の責任が問われない点である。例えば、ポピュリストのバカな政治家が多数の票を集め、無謀なことをやっても今までなら「そいつに誰が投票したのか」ということを後追いでチェックされることはなかった。しかし今ではそれが可能になった。問題が起きてから責任を問えるのだ。これができるようになると、「一票の重み」は決定的に異なるものとなる。

選んだ政治家が問題を起こせば、それを選んだ有権者にも責任が及ぶとなれば、誰もが皆、いい加減な気分で投票したりせず、きちんとよく考えてふさわしい人を選ぶようになる。ポピュリズムに陥る危険性を防ぐには、この有権者の責任を追及できるようにすることで、一票の重みを格段に重いものとすることが有効である。とにかく政治が無責任な理由は、人は都合よく忘れるという問題にある。ここをITでカバーできるなら、それは間違いなく人類が一歩先へ踏み出した証ということができる。




(20/06/19)

(c)2020 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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