護憲の甘え





護憲主義者・反戦活動家といった左翼・リベラル系の人達に共通する特徴として、「自助努力の欠如」というものがある。誰かがやってくれる。お上がやってくれる。その内に「やってくれて当然だし、自分達にはやってもらう権利がある」と主張がエスカレートしてくる。そもそもこういう人は最初からやる気がない。自分がやらなくてもいいという発想になるし、他人にやってもらうため、やらせるためならば、ありとあらゆる屁理屈を総動員してこじつけてくる。

そもそも世の中の悪いことは全部他人のせいで、自分は被害者なんだという意識からスタートしている以上、自分でなんとか努力するという発想が端から無い。それだけでなく、自分に都合のいいことも誰かがきっとやってくれるだろうという勝手な期待さえ持つようになる。それはもはや妄想に近いが、そうならないのも「相手が悪い」という結論になってしまうのだから始末に悪い。自分の尻は自分で拭くものだということがわかっていない甘えん坊なのだ。

そう考えると自助努力を否定するという意味では、護憲主義者や反戦活動家の「9条原理主義」「反自衛隊主義」は首尾一貫しているといえないこともない。独立国であり続けるということは、そのベースとなる主義主張を問わず、自分の国は自分で守ることでその存在を維持することである。平和を守るためにはコストがかかるのだ。リスクを取らない者にチャンスは永遠にやってこないように、自分で自分の身を守る努力をしなければ平和は手に入らない。

20世紀の後半に、日本が自分で自分の身を守る努力を怠っても何とかやって行けたのは、冷戦体制という特異な国際情勢と、日本列島が置かれた地政学上の特徴による。何よりも物理的に共産圏の防波堤となっていたので、アメリカをはじめとするいわゆる西側の先進国は、日本がそこにあるだけで自らの勢力圏を防衛することができた。このように抑止力を他国に依存できたため、必要最低限の防衛力(といっても、周囲が海のためそれなりの規模が必要)で済んだのである。

このような世界情勢を考慮せず、アプリオリに「自助努力は必要ない」となってしまった反戦主義者は、まさに平和ボケである。軍隊とは戦争をするためにあるのではない。自国を、そして自国の平和を守るために存在している。類まれな実力は持っていても、それを行使しないで済むことを願うのが軍人の務めでもある。銃を与えるとすぐに撃ちたがるのは、単なるガンマニアだ。軍隊とは、本来戦争を起こさないために存在しているのだ。優秀な軍人ほど、自分達が「活躍」する場が来て欲しくはないと願っている。

米軍では、戦略核ミサイル部隊に最も意志強固で優秀な兵士を配属する。自分達が「活躍」してはいけないということをきちんと理解して、それを守れる兵士でなくてはこのポジションは務まらないからだ。とはいえ、最後の最後にはきちんと任務を遂行することも求められる。自分がいなくてはならないが、活躍する時が来てはならないことを理解しそれを守る。これを両立させることは、軍人としての規律を極めて高度に遵守できる人材でなくては務まらない。軍人魂とはそういうものなのだ。

自分が軍人になりたくないのなら、そう言えばいいのだ。いろんな主義主張があっていいし、軍人にあこがれる人も、軍人はイヤだという人も、どっちもいて構わない。米軍などはかつて徴兵していた時代も、個々人の性格を良く分析して、適材適所で配置していた。軍人に向かない人間を前線に送ってしまったら手が掛かるばかりで、味方を危険に晒す結果となってしまう。組織論としてここがわかっていなかったから、旧日本軍は属人的に優秀な部隊からどうしようもない部隊まで出来上がってしまったのだ。

自分がやりたいかやりたくないかは、自分で決めればいい問題であり、その結果を相手に押し付けるものではない。だから勝手に「私がやるのはイヤだ」といえれば問題ない。それを「戦争反対」とか一般論化して正当化し、他人にも押し付けようとするから問題が起きる。そもそも誰もそんなチキンなヤツに軍人になってもらおうとは思わない。おまけにそういう奴ほど、オモチャをあたえるとすぐ実際に使ってみたがるものである。

結局、すべてが甘えなのである。自分がやりたくないのを正当化するために、屁理屈をこねまわしている。世の中はあなた方みたいな「全体主義者」ばかりではなく、多様な意見の併存を認める人の方が多いのだ。だから、野党のような存在も認められている。実は自分達を守っていてくれる一番重要な「思想信条の自由」に自らタガを嵌めようとしているのだ。思想信条の自由を認めない共産主義者にも、それなりに発言の自由を与えている自由主義者の心の寛さだけは最低限知るべきである。


(21/06/18)

(c)2021 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


「Essay & Diary」にもどる


「Contents Index」にもどる


はじめにもどる