民主的は道を誤る





マーケティングにおいては、「数」は大事である。それはビジネスにおいては、売上と利益を拡大していかなくてはならないからだ。従って、正しいかどうか良いかどうかではなく、儲かるかどうかの一点において数が重視されるということができる。すなわち現状における「結果」という意味で数が重視されるに過ぎず、必ずしも「数」を頼りにして経営判断ができるわけではない。

それどころか数に頼っていると、肚をくくった決定ができなくなるリスクもある。もちろん今売れているものがこれ以降も売れ続ける保証はどこにもない。今日の売上、昨日の売上をベースとして明日の仕入れや仕込をすることは往々にしてある。しかしそれは漠然とドラスティックな変化はないだろうという希望的予測だけを頼りに、ひとまず昨日売れたものは今日も同じように売れるだろうと思っているだけである。

確かに、人々の意識や行動がある瞬間から180度変化してしまうということはまずない。変化するにしても漸進的にジワジワと変わってゆくので、徐々に売れ筋が変化するのを見切れるだろうとタカをくくっているのだ。それだけではない。過去の売り上げのPOSデータだけを頼りに発注を掛けると、今売れているものだけを売り続けることになってしまう。確かに短期的な「目先の利益」は確保できるかもしれないが、このやり方では次のヒット商品をつかまえることはできない。

今の売れ筋が燃え尽きてしまったら、それとともにジリ貧になってしまうからだ。駅前商店街がシャッター商店街になってしまった最大の理由は、この「お客さんの方を見ないため、自分の過去の経験だけでしかマーチャンタイズできない」ところにある。お客さんの欲しいものがわからなくなったら商売は成り立たない。マーケティング的にいえば、イオンモールはお客さんを奪ったのではなく、欲しい商品が置かれていない商店街に愛想を尽かしていた「買い物難民」の地方の消費者を救ったというだけのことである。

マーケティングにおいてすらそうなのだ。単なる数だけでなく、その向こう側にあるお客さんの気持ちや好みを見切らなくては成功はおぼつかない。ましてや人類の将来を決めるためには、数に頼っていいのかというととてもそうは言いきれない。それは数を集めることだけなら、それは決して難しいことではないからだ。庶民感覚とは、「明日の百円より今日の十円」であり、目先のおいしい利権に引きずられがちだからだ。

これだからこそ、バラ撒きとポピュリズムには切っても切れない縁がある。ヒトラーのナチスも、毛沢東の中国共産党も、山本太郎のれいわ新選組も、何よりもまずバラ撒きをその政策の筆頭におく。喰うに困った大衆は、バラ撒きには一も二もなく入れ食いで食いついてくるからだ。バラ撒きを渇望する「甘え・無責任」な人々にとっては、思想やイデオロギーなどどうでも良く、バラ撒いてくれる人が「良い人」なのだ。

だがこれでは数は集まっても、一瞬でありサステナブルではない。それはバラ撒きのタネが永遠に続くことは不可能だからだ。しかしポピュリズムに頼るリーダーは、もともとヴィジョンや思想があるワケではなく、単に権力志向・権力欲が強いというだけである。だからこそ、大衆受けがいいことなら何でもできるのだ。当然、一旦権力の座についてしまったら、その椅子に固執し何があってもしがみつくことになる。

その結果、バラ撒きができなくなったポピュリストは強権政治を生み出す。経済成長が怪しくなった中国で、習近平主席が締め付けを厳しくしているのはこのためである。「数」の論理をベースにしている以上、ポピュリズムに流れること、そしてポピュリズムは数を確保できなくなると、強権政治に変わること、これらは避けることができない必然的な結果なのだ。

これを防ぐためには、誰もが平等に「一人一票」ではなく、かつて階級社会の時代においてはそうだったように「納税額に応じた票数を持つ」とか、行政へのコミットメントの度合いに応じた発言権を持つようにすべきである。少なくとも、株式会社の株主総会では、所有する株式数に応じて議決権が配分される。これはこれで、システムとしては極めて平等である。

まあ、地方議会は元々「家の前の道路を舗装してくれ」みたいな利益誘導のためのシステムなので、ある意味ポピュリズム的になっても仕方ないかもしれない。しかし、国政それも右肩上がりの20世紀までとは違う21世紀的な社会での舵取りを決めるためには、やはり今までの産業社会・大衆社会的な政治システムでは不充分であろう。代議制を取るにしても、有権者としての責任と義務を果すような仕組みが必要となる。そろそろここにメスを入れるべき時がきているのではないだろうか。


(21/07/23)

(c)2021 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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