フリーエージェント





今年もフリーエージェントによる移籍での有力選手の巨人への入団が、スポーツマスコミの話題になっている。野球やってれば、巨人でプレーしたいのは、余程の偏屈モノでない限り当たり前だ。同じく競争がある以上、資金力のあるところがそれを競争力の源泉として使うというのも、「ビジネス」の本質が分かっている人間にとっては常識以前の基本だ。こういうところにケチをつける連中はさておき、フリーエージェントに関わるマスコミの巨人への批判には、どうにも変なところがある。意見はいろいろあっていいのだが、議論以前の変なところはきちんと指摘して、正しておく必要がある。それは悪平等主義者がフリーエージェント制を憎むが余り、フリーエージェント制を活用したチーム作り自体を目の敵にしている点だ。

フリーエージェント的なやり方は、少なくとも社会的には時代にフィットしている。いまや新人を採用して、それを一から教育して育ててゆくやり方が時代遅れになってしまったという事実は、ビジネス界では常識だ。そのやり方は、高度成長期で終身雇用が会社にとっても働く者にとってもメリットだった時代にはフィットしていた。だがもはや、今の時代にはそぐわなくなっている。高度成長期には、アベレージの人間を「とにかく頭数だけは安定的に確保」することが至上課題だった。そういう時代なら意味があった人事手法かもしれないが、今はコアコンピタンスに特化した少数精鋭が基本の時代だ。実績のある人材を、厚遇で採用し即戦力とする。これが人事のスタンダードとなりつつある。

この法則はスポーツにおいても同じこと。いやプロスポーツ界こそ、本来会社社会以上に実力主義でなくていはいけない世界だ。もっとこういう考えかたをはっきり打ち出す必要がある。実際過去においては日本の野球界でも、いわゆる「外人選手」はそういう視点で選ばれ、活躍してきた。外人枠の問題さえなければ、全て「助っ人」による最強のチーム作りという戦略だってあるはずだ。当然その延長上には、新人は採らず、FA等による実績ある有力選手の移籍を中心にチームを作っていこうという考えかたも有り得る。それができないのは、日本のアマチュアスポーツ界にはびこる悪しき精神主義や、年功序列に基づく悪平等主義の産物だろう。

要は考えかたの違いなのだ。メジャーリーグに精神主義や悪平等主義はない。あるのは実力主義だけだ。本来スポーツはこうでなくてはいけない。勝てないスポーツは、スポーツではないのだ。だからメジャーは強くて面白い。このカギになるのは、どういうチームにするのか、どういう攻撃体制、守備体制を基本パターンにするのかという戦略性の有無だ。すべての戦略は勝つためにある。精神主義をいくら振り回しても勝てないモノは勝てない。だから戦略がまず必要なのだ。それさえきちんとあれば、すでにでき上がっている人を採用する時にも、どういう人間が必要であるかというビジョンをきちんと持ち、採用可能な人材をその戦略的視点から評価することが可能になる。ここがしっかりしていれば、お買得なFA移籍も可能になる。

さて、こう考えてゆくと確かに巨人には問題がある。なんといっても問題なのは戦略性がないことだ。確かにこの点は、いかにも腑甲斐ない。無駄に金ばかり使って、アンチ巨人ファンを喜ばす移籍をやるだけといわれても仕方がない面がある。チーム経営のみならず、試合運びにも戦略がないのだから、困ったモノ。ほんとにV9時代がなつかしい限り。ここへの批判なら、ぼくも大いに納得するし、肩を持つ。ジャイアンツには、日本の体育会的なスポーツ界を越えて、メジャーと対等に渡り合える、グローバルスタンダードな強さを持ったチームになってもらいたいモノだ。管理野球といわれようと、華がないといわれようと、勝つ方が偉いし、面白いのだ。野球チームはギャグをカマすんじゃなく、試合をするのが務めなのだから。そうすれば、必ず人気は後からついてくる。その世界のリーダーなのだから、変に現状の人気に媚びず、先を見続けてもらいたい。

ジャイアンツは、どういうチームにするかという明確な戦略性を持った上で、どうせドラフト反対なのだから新人選手は取らず、国内で実績を上げた選手の移籍と外人選手の活用でチームを作ればいい。もちろんそのルールを面白くするには、ビジネス界と同様、当人の同意があれば、どの時点でも移籍が可能なよう、選手とチームは基本的に一年契約でそれ以上の不当な拘束を受けないようにすべきだろう。こうすれば、本当に強いチーム、いいチームにはどんどんいい選手が集まってくる。実力が落ちてきたら、すぐ次が出てくる。これはこれで理想的な展開ではないか。しかし、このマネジメントはかなり大変だ。選手上りの監督にはできないだろう。その意味でもフロントとグラウンドの分離は、まさにグローバルスタンダードとして必要になってくるのだろう。これやらないと、永遠に日米野球の格差は埋まらないよ。

(99/12/17)



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