インターネットdeちやほや





他人からちやほやされることで、自分を見失うこと。これがクリエイターにとっての、大衆化したインターネットの危険さだ。SNSでもYoutubeでもWebでも何でもいいが、インターネットにアップロードすることにより、ひとまず誰でもアクセスできる環境は担保される。おまけに多くの場合アクセスにはコストはかからない(まあ、プロバイダの費用はかかっていると言えばかかっているのだが)。これが他のメディアと大きく異なる点である。

この結果何が起こるかというと、ユーザーがある意味「意思を持って」コンテンツに接している有料の出版物などと違って、通りすがりだったり立ち見だったりとフラりと立ち寄って接するユーザーが非常に多くなる。確信犯的にプル型で検索してやってくるユーザより、こういう一見さんユーザーの方が圧倒的に多い。そして「いいね」したり「シェア」したりする。その結果、内容をキチンと評価したものではない「無責任な票」がいっぱい入ることになる。

確かに衆議院議員選挙ならそれでいいだろう。有権者の一票は、それがどういう基準に基づいたものであっても一票の価値を持つし、少しでも多く票を獲得した候補者が当選するというルールになっているからだ。しかし、創作物の評価はそれとは違う。人気がある、話題になっているという意味では、人気投票の結果も意味があるかもしれない。売れるかどうかという判断なら、その結果に近いだろう。だが、それと作品としての良し悪しとは関係がない。

才能のあるアーティストなら、意図的に売れるものを作ることは可能である。かつての歌謡曲の大御所の作詞家・作曲家などはその最たるものだろう。だが、売れるために作ったものが時代を代表してエバーグリーンになることは少ない。もちろん、そういう商業作品の中からも時代を越えて生き残る名作が生まれることはある。しかし商業的成功と、表現作品としての価値とは基本的に異なる軸なのである。表現作品としての評価と売上とは基準が異なるのだ。

そういう意味では、インターネットでの評価というのは、この「売れるかどうか」に近いものである。従って、「売れ線」ならぬ「ウケ線」を狙って、ネット上で大いにバズらせるコンテンツを作ることも可能である。実際すでに人気のある芸人がYoutubeチャンネルを持つ場合など、このノリでコンテンツを作って人気を集めている。しかし、何百万フォロワーから何百万の「いいね」を貰ったからといって、それがいい作品であるということにはならないのだ。

クリエイターにとっては、インターネットでの評価というものが、あくまでも量的なものであって質的なものではないということを、常に意識して対峙する必要がある。eコマースではロングテールが捕まえられるのがインタラクティブのメリットだったが、芸人にとっては一気にショートヘッドを捕まえられるのがインタラクティブのメリットなのだ。しかし、猫も杓子もスマホでヒマつぶしをする時代になると、エンタテインメントに於てはインタラクティブメディアこそ最もベタなメディアとなってしまったのだ。

これにより、人気芸人を目指す才能ある若者が、00年代のように吉本の養成所からスタートするのではなく、直接ユーチューバーとして自分の芸やネタを直接アップロードし、一気に人気者になることも可能になった。こういうキャリアパスを目指すのであれば、「ウケ線」を狙って「嵐を呼ぶ」ことも全く問題はない。それどころか、エスタブリッシュされた「芸能界」の枠に入りきらないような才能も、一気にメジャーになれるチャンスが生まれたということができる。

極めて面白いのだが、小劇場でのライブならいざ知らず、マスメディアではとてもオンエアできないような過激なネタを身上とする芸人など、今までは「電波の壁」に阻まれていたのが、忖度や自主規制することなくブレイクすることができるようになった。ある意味「下ネタで過激」というような、今までメジャーでやれなかった下世話にとんがった芸人が大ブレイクするチャンスが増えても、大衆向けのインタラクティブメディアからからは本当の意味でエッジなクリエイターは登場しにくくなったといってもいい。

まさにドッグイヤー。スマホの登場により10年もかからずして、インターネットはサブカル的でエッジな世界から、最もベタで大衆的な世界になった。この事実をしっかり受け入れて、それに合わせた対応ができるかどうかが、インターネットというメディアをクリエイターがどう活用するかのカギとなっている。表現者たるもの、インターネットでの評価や反応など気にせず、しっかりと自分の道を守って突き進めるかどうか。これが21世紀における創作活動の試練なのだ。


(21/12/10)

(c)2021 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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