左翼はカルト





安倍元首相暗殺事件の背景としてカルト宗教による家族の崩壊があったことから、昨今またカルト宗教が話題になっている。もともとエキセントリックなカルト宗教が社会と軋轢を生み問題を起こす事件は、数年に一回のペースで起こっており、決して特異な事件というわけではない。というより、カルト宗教的なものに嵌って世間から離れたいと思っている人は決して少なくないし、それなりの「需要」は必ずある。

さて「カルト宗教」とはなんぞや、一般の既成宗教とどこが違うのかということになると、国際的なカルトの定義として知られている、フランスで1995年に出された「セクト調査委員会報告書」が基準になる。この報告書では宗教団体を名乗る運動体がセクト(日本語でいうカルト)であるかどうかを判断するための指標として、10個の指標を上げている。この10個の指標は「セクト構成要件の10項目」として知られており、これに当てはまる度合いが高いほどカルト性が高いということになる。

10個の指標とは、具体的には次のような項目からなっている。「1.精神の不安定化を図る(洗脳、マインドコントロール等)」「2.法外な金銭的要求を行う(多額の寄付金要求等)」「3.住み慣れた生活環境から離脱させる(監禁、出家等)」「4.肉体的に損傷を負わせる(精神的暴力も含む暴力)」「5.子供の囲い込み(子供の洗脳、宗教2世化等)」「6.反社会的な言説を主張する」「7.公秩序の攪乱を図る」「8.訴訟を起こされることが多い」「9.社会的なの経済活動から逸脱する」「10.公権力への浸透を試みる」。

確かに怪しい新興宗教に共通する活動が列挙されているが、活動にこのような特徴を持つ組織は必ずしも宗教だけに限らない。表向きの看板は市民運動だったりNPOだったり、あるいは政治団体だったりしても、このような特徴をもつ組織は結構多い。ヴィーガンや自然保護団体にも紛れている。というより世の中の一般常識と異なる独自の主張を持つ組織は、多かれ少なかれこういう傾向を持ちがちだし、それが独りよがりになってエキセントリック化すると、カルト宗教とうり二つのものとなってしまう。

そういう意味では、これらの項目が当てはまりほぼカルトといえる典型が左翼の活動家の組織である。かつて世の中を騒がせた「連合赤軍」など、ほとんどこの定義が当てはまる。まあ彼等はあまりに極端すぎて、もはや政治活動というよりも宗教といった方がいい「信仰」だったので、納得できるところである。そこまでいかなくとも、学生運動が衰退してからの80年代以降の新左翼もかなり似たようなところがある。杉並区の中核派の区議などまさに「公権力への浸透を試み」ているわけだ。

それらは極端な例だとしても、左翼政党主導の反戦運動、護憲運動、反核運動なども、本来理性的・論理的であるのが特徴だった古典的な左翼論調ではなく、感情やモラルに訴える極めて宗教的な要素が強い活動となっている。このような運動の活動家はすっかり「洗脳」されてしまっているので、マトモな議論をしようにも全くかみ合わない。その結果、市民運動のオルグは、原理をはじめとするカルト宗教の布教とうり二つのものとなっている。

これはコミンテルン的な共産主義が、宗教の布教のような形で世界に共産主義を広めようとしたところから始まっている。そのルーツはどこにあるのか。元々のマルクスの著書はいつも言っているように哲学であって政治的アジテーションではない。マルクスの主張を巧みに捻じ曲げ、単なる政治的アジテーションにしてしまったのはここでも何度か論じてきたように政治活動家であったエンゲルスの罪である。そしてそれを実際に政治的手段として具現化して見せたのがレーニンである。

共産主義は、エンゲルスが教典化し、レーニンが実際に信者のいる宗教に昇華した。ソビエトにおいて共産党が既存宗教を弾圧したのも、共産主義自体がカルト宗教であるがゆえの宗教戦争と考えれば合点が行く。共産主義とは人々の思考を停止させ、権力者へ絶対服従させることで、全体主義を確立するカルト宗教なのだ。もちろん、思想信条の自由・信仰の自由があるからこそ、他人に迷惑をかけない限りカルト宗教に嵌るのも自由である。

しかし、実態がカルト宗教であるものが、平和と平等を愛する政治活動といって同士をつのるでは詐欺である。まだ、見るからに怪しい装束や儀式を行うカルトらしいカルト宗教の方が、毒キノコが毒々しいのと同じで、罪が薄いかもしれない。とはいえ、日頃から「左翼やリベラルを主張する人達はカルトなんだ」と理解していれば、うっかり騙される危険も少ないだろう。もちろん、カルトということがわかって嵌るのなら、それはそれで結構。但し、他人に意見を押し付けたり迷惑を掛けたりするな。山の中のサティアンに籠ってろ。それが礼儀というものだ。



(22/07/29)

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