二つのコンサル





AIの使い方として、コンサルや士業の使い方が参考になると言った手前、実際に00年代にコンサルビジネスに関わっていた経験から、その使い方のポイントを簡単に説明してみたい。コンサルティング・ビジネスを標榜している企業にも、詳しく見てゆけば実際にはいろいろな業態がある。それぞれの持つ強みを見抜いて、自分が求める目的に対して最も適切なところはどこなのかを選ぶのは、クライアント側の務めでもある。

その中でも最も大きなポイントは、「概念だけを提案する事業」をやっているのか「具体的なソリューションまで落とし込んで提案する事業」をやっているのかというところにある。この両者はビジネスモデルが全く異なるからだ。いわゆる「戦略コンサルティング」を標榜しているところは前者のビジネスモデルを採用している。これに対し特定の分野に強みがあり、その領域における実務作業まで行うところは後者のビジネスモデルになる。

ITであってもコミュニケーションであっても、コンサルティングで提案した内容に沿ったカタチで、実際に成果を上げる「作業」を実施できる業種の場合は、その作業実施を落としどころとして金を稼ぐことができる。従って提案内容は具体的なソリューションを提供することを最終的な目的としており、そこにランディングするためのクライアント社内でのコンセンサス作りとしてコンサルティングを行うことになる。

ITコンサルが典型的だが、こういう業態ではコンサルティングでもフィーは請求するもののここは必ずしも利益の源泉ではなく、ビジネスとしてはシステム構築や運用というソリューションの提供が本質ということになる。中にはコンサルティングは「営業活動」とばかりに、かつての富士通の「0円入札」が典型だが、運用のところが取れれば長期にわたって安定的に日銭が稼げるので、コンサルティングとシステム構築は無料という提案さえあった。

一方、「概念だけを提案する事業」を行うのは経営戦略コンサルティングファームだ。これは、本来のクライアントニーズがソリューションの提案ではなく社内でのコンセンサス作りが目的となっているため、戦略コンサルは何一つ具体的な作業は実施しない。トップが自分の戦略を社内に浸透させるため、客観的な正しさを纏わせるための手段として外部のコンサルを活用するのだ。海外企業でのコンサルの使い方は、こちらの方が多かった。

このようにコンサルを使う目的がはっきりしているのなら、それに合ったファームを選んでそこに依頼すれば、金はかかるだろうがそれなりの効果は上がるだろう。システム構築なりブランド価値向上なり具体的な成果が欲しければそれが得られるし、社長の独断ではなく「外部からのお墨付き」が必要ならきちんとそのハクを付けてくれる。これはAIの使い方で述べたように、士業の使い方とも似ている。

しかしこと日本においては、コンサルの使い方には別の問題があった。日本の企業においては、経営者自身が自分ではどうしたらいいかわからないから、考える部分を丸投げして答えを出してもらおうという使い方が多かったのだ。前にも述べたように、本来経営者は責任を取って、肚をくくって、決断するのが役割である。しかし「年功序列・終身雇用」の日本型経営企業においては、自分で物が考えられなく、他人に教わったり知恵を出してもらったりして生きている人間も年の功で社長になってしまうからだ。

だが、所詮コンサルは第三者である。責任を持って答えを出せるわけがない。経営戦略を提案してもらおうとしても、あくまでも当り障りのない一般論しか提案できない。これでは何も問題の解決になっていないが、そもそもクライアント自身が問題を把握できていないので、それでもありがたがって金を出してしまうことが多かった。その分、後になってから「コンサルは役に立たない」などと愚痴をこぼしたりするのだが、それは使い方が間違っていただけである。

まあ、コンサルティングでさえそうだったのだから、前回説明したように同じ構造を持っているAIの活用においても、全く同じ間違いが起こり意味のない騒動を引き起こすのは間違いない。しかし、それは使う方がわかっていないから起こる間違いなのだ。クルマは便利だが、クルマの運転を知らなかったり理解していない人が走らすと、人殺しの凶器になってしまう。それと同じことである。責任を取って、肚をくくって、決断することができることを保証する「経営者免許」でも出した方がいいのでは。



(23/03/17)

(c)2023 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


「Essay & Diary」にもどる


「Contents Index」にもどる


はじめにもどる