競争市場に利権無し





かなり前から、ここでは「21世紀においては政治的対立軸としてイデオロギーは意味を失い、「自立・自己責任の小さな政府」か「甘え・無責任の大きな政府」かという本人の生き方とその源泉になるバラ撒きへの願望がクローズアップされてくると主張してきた。確かに20年以降の状況をみると、個別具体的な対立点こそいろいろあるものの、その根底に潜んでいる断層がこの対立軸であることがくっきりと見えてきた。

「大きい政府によるバラ撒き」を望む人達は、野党もちろん、与党の中にもかなり多く含まれている。公明党は完全にバラ撒き指向だし、自民党の中にもかつての族議員の流れを汲む多くのバラ撒き支持者が存在する。参議院に多い各種業界団体の組織内議員などはその典型だ。昨今問題になっている「公金チューチュー」なるNPO法人や一般社団法人への業務委託の形式を纏ったバラ撒きなど、超党派でスキームが作られたものが多い。

その一方で今や社会の中枢となってきたアラフィフ層を中心に、世紀の変わり目を挟んだ「日本の金融危機」から「ネットバブル」の時代を若手社会人として過ごしただけに、新自由主義的な競争原理の徹底こそフェアでクリーンな経済社会を築くという信念を持っている人もかなりの数が存在する。彼等は今ではけっこう日本維新の会に票を入れているし自民党の中でも小泉元首相の時代に政治家となった人にはこのような主張を持つ議員はそれなりにいる。

こうやって見てゆくと、確かにかつてのような「右・左」という軸は意味を持たなくなってきたし、その代わりに「小さな政府か大きな政府か」という選択が問われる機会が増えてきていることがわかる。変化はすでに「見える」ところまで来ているのだ。この変化をもたらしたものは何だろうか。それは、日本経済が第二次大戦後のダイナミックな右肩上がりの成長基調から、スタティックな豊かな安定へと移行してきたことに求められるであろう。

それは二つの面から影響をもたらした。一つは高度成長からバブルへと続く好況期を通して社会インフラが充実し、歴然とした所得差や資産差こそあるものの、かつてのような「食うに困る」人達はほとんど存在しなくなったことである。マズローの欲求五段階説で言う生活生理欲求や安全確保欲求のレベルの人達は、もはや例外的にしかいない。しかしそもそも共産主義というのはこの2レベルの人達に「食い物をたらふく食える夢」を見せるシステムなので、これでは左翼が支持されなくなるのも当り前である。

もう一つの面は、バラ撒きの原資である。右肩上がりの高度成長の頃は今年より来年の方が税収は放っておいても拡大する。それならば左うちわでヨッシャヨッシャとバラ撒きを約束できるわけである。バラ撒きを支持しない層からしても、それだけ原資が余っているのならば、まあ多少はバラ撒いてもいいかなと目くじら立てずに大らかに見ていられる余裕がある。かくして官僚はバラ撒いて天下りの利権を作り、政治家はバラ撒きで票を獲得し、人々はバラ撒き補助金で潤うという田中角栄方式の利権が生まれた。

これが安定成長になってからは、目論見通りに行かなくなった。税収はそのままでは増えないのだ。これでは利権は拡大しなくなってしまう。このため財務省の官僚は何とか屁理屈をつけて増税に躍起になり、増税を成し遂げた官僚は出世するという21世紀スタイルの霞が関の掟が出来上がった。しかしこれでは「バラ撒きの原資」という手の内が丸見えになってしまう。かくしてこれを許すか許さないか、それが政治・行政の体制を問う上での最大の問題となったのだ。

この後者のポイントは重要である。「金」はある意味中立公明正大な存在だからこそ、その流れから世の中の矛盾を浮き彫りにしてしまう。官僚が行政の中枢を握っている限り、自らのイスと利権を減らすことを意味する「小さな政府」が実現することはない。いかに政治主導で改革しようとしても、彼等は骨抜きにしてしまうことは、今まで何度も行われた「行革」で立証されている。「外圧」で直接改革を実現しようとしても、彼等は全力を挙げて抵抗するだろう。

しかし、「金」を味方に付ければ兵糧責めにすることができる。それにはなにより競争原理に基づくフェアなマーケットを実現すればよい。そしてグローバルスタンダードは、フェアな競争マーケットなのだ。これならば、外圧で実現することが可能なのも、過去の日本の歴史が示している。霞が関が死守する「利権の巨塔」にほころびを生じさせるもの。それは直接的な改革ではなく、フェアな競争市場の実現なのだ。急がば回れ。ここが門戸開放されれば、もはや大きな政府は続かない。まあ、「中くらいの政府」ならば妥協点もあるとは思うのだが。



(23/11/10)

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