言われてやるんじゃない人達





70年代の「マイコン革命」と共に、世界的にベンチャーブームが沸き起こった。当然これは日本にも飛び火し、日本では第一次ベンチャーブームが沸き起こり、パソコンソフト開発を中心に多くの若者が自ら起業して新しい時代を切り開いていった。60年代末から70年代半ばにかけての「Youthquake(若者革命)」を通り抜け世の中の価値観が大きく変わった時代だったからこそ、それまでの企業観からは出てこないような新業態が生まれてきたということもできる。

もちろん今で言うハイテク関連が中心ではあったが、ベンチャースピリットは塾などの教育ビジネスやセレクトショップなどのアパレルビジネスになどもどんどん広がり起業が続いた。ぼくはその時代を代表する孫正義氏や西和彦氏と同世代なので、日本のハイテクベンチャーの創世記であった70年代から半世紀にわたり、その浮沈をリアルタイムでずっと見続けてきた。実際、その業界には友人も多いし、自分自身かなり深く関わってきたことも確かなので、単なる傍観者ではない視点からその実態を把握してきた。

そこで気がつくことは、特にデジタル・ハイテク関係でベンチャービジネスを立ち上げ成功する人たちには、一つの共通類型があることだ。それはその事業に取り組むモチベーションがどこから出てくるのかという点である。誰かに言われたり、論理的に可能性があるからやるんじゃなくて、単に面白いから、興味があるからそこを深堀する。そこを深掘すると何が出てくるかわからないからこそ深掘りする。鉱脈があるから掘るのではなく、掘るのが好きだから、掘るのが面白いから掘るのだ。

そういう意味では「遊びだか仕事だかわからない」からこそ燃えるということもできる。そして、このように費用対効果を超越したモチベーションに突き動かされているからこそ、成果や業績は結果としてついてくるものでしかない。だからこそ、ビジネスマンや官僚のような「仕事」としてやっていたのでは超えられないボトルネックを突き破って、革命的なブレークスルーをもたらすことができるのだ。ここが企業人とベンチャー起業家の最大の違いである。

彼らの特徴として、大体において「新しいガジェットが大好き」というのがある。一体何に使えるのか、果たして役に立つのかわからない、宇宙人の置き土産のような新ジャンルの新製品。わからないからこそ、自分で使ってみて確かめたい。何か面白い使い方を発見したい。かくして彼らは新しいガジェットのアーリーアダプターとなる。そして、その元々の製作者が予想だにしなかったような面白い利用法を見つけて仲間内で流行らせてしまう。スマホもドローンも最初はそうだった。

ある意味、これは理系の分野での「ユニークな発明・発見がどこから生まれるか」というのと双子の関係にある。既存の知識からロジカルかつ演繹的に大発明が生まれる可能性は低い。その反面、何が起こるのか何が出てくるかわからないカオスの中から突如として大発明が降ってくることは往々にして起こる。既存の要素の延長上からは予定調和なものしか生まれないが、有象無象の要素の混沌の中からは予期せぬものが生まれるからだ。

近代以降、日本の理系的リソースはその多くが西欧先進国への「追いつき、追い越せ」という動きに投入されてきた。しかし、日本にも近代の歴史に残るユニークな発明・発見はある。それは「遊びだか仕事だかわからない」からこそ燃える人たちがいたからこそ成せた業績であり、日本の「生み出したモノ」の原点もやはりそこにある。欧米先進国をベンチマークして必死に「追いつこう」とした秀才エリートとは違う、自分のしたいことをする流れがそこにあったのだ。

言われてやるんじゃない人たち。自分のしたいことを勝手にする人たち。こういうタイプの人がいるからこそ、自然科学や工学の新しいページが開かれる。これからの時代、言われてやることはAIとコンピュータシステムに任せればいい。今までの理系教育のあり方を考えると、理系的素養を持っている人の中には、潜在的にある程度こちらのタイプの人材が潜んでいるにもかかわらず、それを発揮することなく埋もれてきていたものと考えられる。

文系的素養を持っている人に対しては、責任を持ってリーダーシップを発揮できる人材を見つけて育てることが重要なのと同じように、理系的素養を持っている人に対しては、自分のしたいことなら費用対効果を度外視して深掘りできる人材を見つけて育てることが必要だ。教えるのではなく、自分らしくさせて選別する。情報社会となった21世紀の「教育」のあり方は、こういうコペルニクス的な転換を遂げることが求められているのだ。


(24/01/12)

(c)2024 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


「Essay & Diary」にもどる


「Contents Index」にもどる


はじめにもどる