「検索」しない人達
スマホの普及により、個人ベースでのインターネットの普及率はほぼ100%となった。このように「当たり前のインフラ」となったことにより、インターネットの利用形態や利用目的も大きく変化した。普通の人が普通の時に、普通に使うメディアになったのだ。簡単に言えば「大衆化」が完成形になったということである。これは00年代のようにまだ普及期にあった頃との大きな違いである。
「無料・暇潰し」中心の利用というのは、すでに00年代の普及期から見られる傾向であった。それがさらに強化されたのはもちろんだが、それだけでなく情報が「タテの流れ」から「ヨコの流れ」を中心に伝播してゆくポスト・キャズム時代の特徴を反映して、利用もWeb基本からSNS基本になった。そしてSNSの利用法も、それに合わせて大きく変化してきた。
それはインターネットを利用した情報収集のあり方が、「大衆化」と共に全く違うものになったからだ。かつて90年代の普及初期から00年代までは、情報収集といえば、自分が何かを作り出したりモノを考えるためのプロセスであった。検索エンジンによる検索が典型的だが、問題意識に合わせて検索ワードや検索式を作り、自分が求めている情報にアクセスするやり方である。
しかし「大衆化」してからの情報収集の特徴は、それまでのように能動的にプル型で答えにアクセスするモノではなくなった。自分が明確な問題意識を持たないまま何となく画面を見てゆく中から、何も考えずに面白そうなものに食いつき、それをパクるやり方が主流となったのだ。暇つぶしで漫然と見ている中から、やりたいこと、欲しいモノを見つけるツールとなった。
これを特徴づけるのが「おすすめコンテンツ」が自動的に出てくるタイムラインだ。このような機能は、あくまでも何かの目的のための手段としてコンテンツを利用している人にとっては無駄でしかない。興味のないコンテンツが溢れるだけだからだ。しかし、流れてくるコンテンツを見て暇を潰したい人にとっては、時々気になるネタが出てくればそれは実に楽しいものとなる。
よく考えると、この機能はかつての女性ファッション誌と同じである。女性ファッション誌は、載っている画像を単純に比較する分には、ファッションブランドのカタログに似ている。カタログは明らかに先に欲しいモノや物欲があって、その対象を選ぶための手段である。しかしファッション誌の使われ方は、共通する部分も一部あるものの基本的にはカタログとは全く異なる。
ファッション誌はそもそも買う気がない人でも、そこから選ぶわけではなくても、見ているだけで楽しいし、色々ファッションに対するイマジネーションや想いが広がる。そこから段々と「これと同じようなのが欲しい」という気持ちが沸き起こってくるのが特徴だ。というより、そもそもそれを目的としてそういう感情をくすぐるように編集されている。
そのプロセスまで含め、それが楽しくて分厚い雑誌を買っていたわけだし、自分がワクワクする記事が多い雑誌を選んで買う分、ターゲットのクラスタリングも明確になってくる。すると相乗効果で、さらにハマる記事、刺さる記事が増えてゆくことになる。まさに「おすすめコンテンツ」が自動的に出てくるタイムラインも、ファッション誌と同じような目的でコンテンツに触れたい人のためのものと言える。
今はそこまでやっているサービスは少数派だとは思われ、まだまだ客観的な情報提供や過去の履歴からの類推で機械に任せた選択をやっているサービスプロバイダが多いが、受け手の側のスタンスがこういう受け身のものになった以上、人為的に意図的な選択をしたコンテンツ提供をすることでさらに大きな販促効果を上げることが可能になる。有能な編集者には、AIに教え込むことも含めて仕事が増えるであろう。
(24/08/30)
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