能力の最適化






今や世の中は、最適化の時代。これは21世紀に入れば、もっと明確に意識されるようになるだろう。無駄をしない。効率が大事。それがクレバーでもっとも要領の良いやり方だと、あらゆる局面で意識されるようになる。売上のデカさより利益の大きさ。すべての行動基準がここにきている。工業社会は、とにかくスケールだけを追い求める「大艦巨砲主義」が跋扈していた。そのため大きいことはいいことだとばかり、採算分岐点を越えても規模を狙い続けるやり方が堂々と罷り通っていた。この矛盾を目隠ししていたのが、右肩上りの近代社会の経済成長だ。しかしそれももう続かない。大きさを追い求めるだけでは生きてゆけないの世の中になった。

これがいわゆる「パラダイムシフト」だ。名より実。見てくれのでかさより、内容の濃さ。きっちり中身がなくては勝ち残れない競争に、競争のルール自体が進化した。それにあわせて、企業や社会のカタチも変わろうとしている。これは人間も同じ。人間の能力においても、最適化という視点が求められる。たとえば努力。誰にとっても、どんな局面でも、努力することが正しいとはいいきれない。人間の能力とは、もともとヒトにないものをもっていたり、ヒトより高い能力を持っている人間が、それをのばすための努力をしてはじめて、モノになるものだ。言い換えればもともと能力のないヒトでは、いくらがんばって努力しても無理。そんな無駄はしない方がいい。

それは二番煎じ、ものマネが通用しない時代になったからだ。本物だけしかいらないし、ものにならない。二番煎じのものマネビジネスが成り立っていた時代なら、二番煎じの人間も使いようがあったかもしれない。それは楽だし、だからこそみんな二番煎じ狙いでパクり屋を目指した。いい学校を出て、そこでお勉強ができてというのは、ヒトの猿真似をいかにウマくやるかという鍛錬だった。その猿真似さえできれば、それで通用する「会社」があったから学歴社会が生まれた。今じゃそういう会社自体が負け組だ。能力があっても努力しないヒトはダメ。いくら努力しても、そもそも能力がなければダメ。さらに能力がなくて、努力もしないのでは、言語道断。そんな無駄な努力は、もうヤメた方がいい。

もっとも、それは人並み以上の成功は得られないというだけで、それでいいんだと開き直ってしまえるのなら、それも幸せだろう。立派なこと、スゴいことだけが生きがいではない。別の生きがいだってたくさんあるし、給料が少なくても、それなりの別の幸せの糧があれば、人間生きていけるのだから。数からいけば、こちらの生きかたを選ぶ方が多いだろう。努力すれば、勉強すれば、それなりに可能性があるというのは、一億総中流化、悪平等時代の幻想に過ぎない。元来人間の生涯って、そんなものではないはずだ。会社に入って偉くなる。いい仕事をして名を残す。そんなのは、組織の歯車に過ぎない人間を、騙して働かせるためにぶら下げた虚構のニンジンだ。人類の歴史では、人々はもっと自分らしく、楽しく生きてきたはずだ。

自分の本質的な能力を棚に上げ、ないものネダリをしまくる骨頂は、なんといっても高級官僚だろう。本人の能力やクリエーティビティーと関係なく、試験の成績だけで得られるポジションなど、この時代に通用するわけがない。絵に書いた餅。犬も喰わない。だからヤツらは、元来必要なく、世の中にとってはムダ以外のなにものでもない利権や規制を作り、それをタテにイバりまくる。それで自分が偉く、存在感のある人間のような気になって喜々としている。いうまでもなく、そんな地位に汲々としていること自体、自分達がいかに能力がなく、真剣勝負に自信がないかを語っている。井の中の蛙が、虚勢を張っているだけだ。その存在自体が時代に矛盾しているのだから、自己崩壊をまねいて不祥事を起こしまくっているのもむべなるかなというべきだろう。

自分が持って生まれたものはどうしようもない。それは自分が背負わざるをえない定めなのだから、そこから逃げたり目をつぶったりせず、正面きって向かい合うべきだ。自分の能力というものが先天的に決められている以上、自分に向いたものを見つけ、それを伸ばして賭けるしかない。今は無謀に夢だけを追いかけても、むなしく終わらざるを得ない時代なのだ。自分のやりたいことより、自分のやれること。自分の能力を活かしてやることでて差別化できることでなくては、やってもむなしい努力となってしまう。限られた時間と努力を、自分のいいところをのばすために最適化できるかできないかが、今後を決める。自分の強みをきちんと知っている人だけが生き残れる。これはコアコンピタンスをきちんと磨いている企業だけが生き残れるのと同じだ。

(00/04/07)

(c)2000 FUJII Yoshihiko


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