これからのマーケティング






前回は、「これからの広告」についてコメントしたが、それを語った以上、「これからのマーケティング」についても語る必要があるだろう。結論から言ってしまえば、「高度成長期に特化したマーケティング」はもはや行き詰まってしまったが、「本来の売るためのアイディアとしてのマーケティング」は、これからは今まで以上に重要になる、ということである。当然、「売るための仕掛け作り」に割くコストも多くなるが、それとともに、それを的確に消費者に伝えるためのコストもそれなりに多くなる。インタラクティブとか言われだすと、コミュニケーションコストも売場作りのコストの中に吸収されるがごとき物言いをする人も多いが、それはマーケティングの本質を理解していない人間の発想だ。実際にモノが売れるとはどういうことなのか、体験を持たない人の論説である。

そんな意見がそれなりに支持されてしまうのは、まともなマーケティングをしたことがないメーカーが日本には多いからだ。高度成長期には、売る努力・売る知恵としてのマーケティングは必要なかった。基本的に飢えている人達がターゲットである。モノさえあれば、とにかく欲しいという人達だ。だから、「モノ」の中身がクリティカルに問われたり、「モノ」のデリバリー経路をどうこういったりすることはない。そんな時代に、そんなターゲットを対象として商売をしても、なんの知恵も努力も要らない。入れ食い状態なのだから、何をかいわんやである。そんな企業が、それなりの業績を上げられたのが、高度成長期なのだ。ましてや、海外のバイヤーのOEMをやっていれば良かった輸出中心の企業など、企業としての商品企画力が皆無でもやっていけたのだ。

結果として多くの日本企業は、オリジナリティーのない二番煎じのモノまね商品しかつくる能力がなく、販路開拓にしても「安く売る」以外の手法は持っていなかった。それでもそれなりに業績が上げられた。というより、日本の戦後の産業を引っ張ってきた業界、家電業界にしても、自動車業界にしても、一流企業といわれてきたところの多くの実態がこのレベルでしかない。日本の高度成長は、あたかもすばらしい奇跡のように鳴り物入りで喧伝されるが、その実態はこんなものである。結果として、企業としてのコンピタンスは空っぽのまま、安定成長への構造変化を迎えることになる。

もちろん、キチンと強みを見極め、それを強化・育成してきた企業もある。トヨタ、ホンダ、ソニー、松下など、現在グローバル企業といわれる日本企業の多くが、ヴィジョンを持った創業者の元、技術ベンチャーとも言えるスタートを切っている。こういう企業は、創業以来受け継いできたDNAがあったからこそ、時として紆余曲折はあるものの、時代ごとに強みを生み出すことができたといえる。しかし、もともとは「儲かるから」というモチベーションで、モノまねメーカーからスタートしたとしても、それなりに得てきた収益を活用し、自社ならではの強みを築いてきた企業も多い。

その一方で「選択と集中」をしようにも、自分のコア・コンピタンスが何かわかっていない企業群がある。そんな状態では、そもそも構造改革に取り掛かることもできない。これがTwo Economiesの実態だ。Two Economies というと、グローバルな競争原理で動く企業群と、利権・規制に群がる企業群という印象が強い。確かに、利権や規制を元に、官の支出におんぶに抱っこでなくては事業が成り立たないような業種は、皆、問題企業ばかりである。しかし、家電でも、自動車でも、情報機器でも、二層分離は起こっており、どの業種もそれなりに多くの問題企業を抱えている。実は、こちらの構造差のほうが大きく、問題も大きい。

モノ作りとは、物理的にものをつくることではない。「売れる物」をつくってはじめて「モノ作り」なのだ。それがわかっていない企業も、かつての規模の大きさだけで「一流企業」面が許されてしまうところに、今の日本の構造的問題がある。視点を変えれば、一般の企業人や経営者にとって、同一業種の中の「勝ち組と負け組」の違いをとらえる視点がないことが、問題を深くしている。しかし、これはそんなに難しいことではない。実際消費者は、直感的にこの両者の企業の違いを見分けている。同じジャンルの商品でも、それなりの高価格でもキチンと売れるモノと、価格破壊をしなくては売れないモノ。その付加価値の違い、マーケティングの有無は、ちゃんと見えているのだ。

これが、結果として付加価値の有無、ブランドエクイティーの高さにつながってくる。まさに企業の価値とは、企業活動の目的が、その主たる事業において収益を上げることである以上、ある意味マーケティングの結果なのである。今までの日本企業のマネジメントにおいては、余りにマーケティングを無視しすぎていた。あるいは、極めて定量的、計数的な問題としてしかマーケティングを考えていなかった。それではこれからのグローバルに通用する企業経営は成り立たない。これからは、日本企業の経営において、はじめて本当の意味でのマーケティングが重視され、問われる時代となる。マーケティングとは、商品の付加価値を高め、企業の収益性を高めるノウハウ。こう定義すれば、その重要性は理解できるだろう。


(01/12/21)

(c)2001 FUJII Yoshihiko


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