ダメなものはダメ





シュンペーターのイノベーター、企業家精神とは、見方を変えれば、自己否定とクリエーティビティーをクルマの両輪のように持ち合わせた人間ということができる。これは、ベンチャー的に新たに事業をはじめるだけでなく、企業をマネジメントし、業績を発展させていく上では欠くべからざること。まさに、企業経営の基本である。こういう能力がある人物がマネジメントとしてトップに立ち、会社の組織や社員をリードしてゆくからこそ、会社組織で事業を行なう意味がある。いわば機関車と貨車、トラクターとトレーラーの関係だ。どんなに企業家精神にあふれる人材でも、一人でできる業務には限界がある。だから、リーダーの持つ企業家精神を具現化するための手下を集める必要がある。これが企業なのだ。

高度成長期は、競争劣位者でもそれなりに収益を上げられた。本質的には競争の中で淘汰されるべき企業が、生き残ってしまった。市場からすれば、存在自体が資源の無駄遣いであるような企業が存在している。企業の中での事業でもそうだ。ない方が収益に貢献するような商品がどうどうとラインナップされる。その地域の商圏で成り立つ以上の軒数のスーパーマーケットやコンビニが林立してしまう。企業全体としては相対優位に立っていても、各事業・商品レベルでは、まだまだ最適化は不充分なところが多い。だからこそ、一層の「選択と集中」が求められることになる。まさに、企業家精神のカケラすら持たない従業員とマネジメントで構成される企業や部門があることが、問題なのだ。

日本的経営とか日本企業のあり方とか、無前提に議論することが多い。しかし日本企業の中には、もともとこういう「競争劣位者」や「競争劣位部門」が多く含まれている。それを十把一からげにして、そこから何かを見出そうとしても無理だ。「運が良かった」だけの企業の事例から学べることはない。あえて言うなら「反面教師」程度のものだろう。もともとの競争力とは何だったのか、それはどこからやってきたのかをキチンと見極める必要がある。そう見ていけば、それらの競争力を持つ企業は、今でも勝ち組としてそれなりの業績を残していることに気付く。今問われている「日本の問題」とは、「競争劣位」企業を増殖させ、それを生き長らえさせ、のさばらしてしまったことに尽きる。

80年代の安定成長期に入ると、それらの「競争劣位」企業は、当然厳しい状況になる。ここで起こった現象が、言わずと知れた「寄らば大樹の陰」の官頼みである。おりしも日本が経済大国となり、それまでのような産業の保護・育成という目標を失っていた官と、新たに甘えられる大樹を求めていた「競争劣位」企業とのニーズが合致したところに生まれたのが、今問題となっている規制・利権による既得権主義である。実は、このように政財官が「悪のトライアングル」を築き始めたのは、そう古いことではない。少なくとも戦後の復興期には、今「社会主義的」として批判されている政策も、それなりに合理性があったし、それなりにメリットもあったが、経済の成長と共に形骸化し腐敗したのだ。

その典型例が雪印事件だろう。日本の農政は、バラ撒き、保護主義の最たるものとして知られている。やる気のない人を守り、やる気のある人の足を引っ張る。その結果、ビジネスとしての農業をやるのではなく、利権としての「形だけの農家」であることに固執する兼業農家が主流となり、産業としての農業はどんどん衰退した。公共の補助を最大の収益源とする「ビジネスモデル」が、競争力のあるプロダクトを生み出すわけがない。こう考えると、雪印の問題も、実は雪印という企業自体が酪農農家の権益保護のために作られた、「保護農政の申し子」だったことにある。農業界の持つ利権安住型の体質が、色濃くそのDNAの中に入っているからこそ、次々と事件を起こした。いわば必然的帰結である。

能力を出した人は報われる。能力を出さなかった人には報わない。これをキチンとやることがフェアであり、真の意味で平等なのだ。それができる社会になれば、企業家精神を持つ人間はおのずとリーダー、マネジメントとなり、そういう能力を持ち合わせていない人材が、年功だけでそういうポジションを占めることもなくなる。これを実現することは、実はそれほど難しいことではない。能力を持つ人達が、どんどん自分達だけで「この指とまれ」で新しいスキームを作り、そこで成功した成果は能力を持ち合わせない人達に分け与えなければ良い。それだけのことだ。唯一、「既存スキーム」にとらわれないという意味においてのみ、ベンチャー的な考えは意味を持つ。しかし、それでなくてはできないということではない。守旧派を排除するのではなく、文字通り今のままにおいておくだけでこのスキームは実現できるのだから。

(02/02/22)

(c)2002 FUJII Yoshihiko


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