知的階級社会を目指せ






インターネット時代こそ、人間の能力の差がクリティカルになる時代である。それは、仕組みがフラットである上に、出入りの敷居が低く、結果も速く出るなど、かつては理論上でしか得られなかった「完全競争」が実現するからだ。「完全競争」が実現すれば、その結果は完全な実力勝負に限りなく近づく。勝負の場数を重ねれば、最終的には、運やフロックは排除され、本来の能力差がストレートに反映されるようになる。その時点では、かつて述べたような「天才と非才」の違いはたちどころにあらわになる。最近顕著になりつつある、「あなた創るヒト、わたし使うヒト」という「クリエイターと消費者の分離」傾向も、この情勢を先取りしているものということができるだろう。

最近、大衆インターネット時代を迎え、新しい環境に対応した著作権のあり方についての議論が盛んに行なわれている。しかし、この議論には構造的な矛盾がある。そもそも著作権とは、匿名の人間により構成される大衆社会で、なおかつ物事が量で評価される産業社会のスキームの元で、個人の能力に依存する創造物に関わる権利をいかにに保護するかという苦肉の策として生まれてきたもの。だからこそ産業革命とともに現れ、大衆社会の進展とともに、著作物が大きな産業化するに従って、どんどん複雑なシステムになっていった。このように、著作権という権利は、大衆社会、産業社会という社会構造と切っても切れない関係にあるといえる。

従って、そもそも優れた知的アイディアに対し質的な優位性・対価性を認めるコトをベースとしている情報社会においては、著作権という考えかたがそのまま必要とされ、かつ通用するものではない。実は、いま問題にされている議論は、これからも産業社会・大衆社会型のスキームをベースにして社会運営をしていくのか、これからの情報社会に最適化を図った新しいスキームをベースにしていくのかという、より大きな構造的議論の一部分なのだ。その対立・矛盾が、もっとも尖鋭に現れてくるのが知的財産権の部分であり、それが「インフラの変化がとくに激しい領域での著作権の扱い」というところに、象徴的に現れてきたものといえる。

この問題がわかりにくいのは、「人間がクリエイトした創作物の付加価値をどう認めるか」という軸とは別に、「付加価値の大小と関係なく創作物の権利を認める「著作権」というシステムが時代にふさわしいかどうか」という全く異った視点の軸もクロスしている点である。この異質の議論が「著作権是か非か」という単純な論戦の中で、混同され曖昧になっている。場合によっては、あえて曖昧にしている場合もあるかもしれない。しかし、議論すべきはそんな単純な話ではない。実はこの議論は、これからの時代に人間が創造する付加価値をどう評価し、どうそれに報いるかという社会システムの問題である。

だから、コピー防止装置がどうのこうのという問題ではない。クリエイトする能力を持った人間は、その領域において付加価値を生み出すことのでき、そうでない消費するだけの人間より能力において優れた存在であることを社会的に認めるコトが先である。情報化社会においては、クリエイトできる人間、価値を生み出せる人間は、そうでない人間より絶対的に上であり、価値があることを認める社会にならなくてはならない。そうなれば著作者は、法律や権利以前に、社会的に尊敬され、おのずと無断借用されることもなくなるはずである。

これはイヤだといっても仕方がない。誰がクリエートできる人間で、クリエイトできない人間かは、一目瞭然だからだ。情報化社会では、情報はオープンでフラットである。だから嘘やゴマかしはできない。その人が、ゼロから価値を生み出せる能力を持っていない場合、それをゴマかす手立てはない。一方、そのアイディアを生み出したのは誰か、そして、そのアイディアがどのくらい支持を得られるものなのかは、たちどころにあからさまになってしまう。だからこそ、能力のある人間はディスクロージャーを推進し、能力のない人間は「プライバシーの尊重」を叫ぶ。それは本能的な対応である。

創造性を持つ人間は、住んでいる世界が違い、絶対的な上下関係がある。端的に言えば、それを社会的コンセンサスにできるかどうかの問題である。中世や古代における聖職者や貴族と同じ。そういう時代での「聖性」と同様、情報化社会においては、クリエイティブな人間は尊敬され、付加価値の高いアイディアは貴重なものとしてありがたがられる、そういう規範を作ることが大切なのだ。従って、著作物に対する課金とか権利ではなく、クリエイターに対する階級の違いとして処理するべき問題である。中世と近代が違うように、20世紀までと21世紀からは時代が違う。そして求められているのは、新しい21世紀のスキームなのだ。

(02/07/19)

(c)2002 FUJII Yoshihiko


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