どうした、アメリカ







このところ、いろいろな面でアメリカの雲行きが悪くなっている。形勢もよくない。政治でも経済でも、浮き足立った行動が目立つ。たとえば国際関係でも、アフガン侵攻まではまだしも、いまさらイラクに攻め込もうといっても理由が立たない。911以降の一年間で何が変わったのか。それは、景気後退、アメリカンバブルの崩壊もあるせいか、世界の中でのアメリカの勇み足ばかりが目立ってきた一年間と言うことができる。勝っているときと、形勢が悪くなってからと、言う事が変わったのでは、誰も信じなくなる。それでは「世界のリーダー」はとても勤まらない。

本当に市場原理、競争原理なら、自分が負けそうになってもルールを変えてはいけない。あくまでも正攻法でがんばるか、勝ち目がないと踏んだら、早くリタイヤするかである。競争原理、市場原理を主張していたはずのアメリカが、自らそのルールを踏みにじることは、競争原理、市場原理に対するイメージダウンであり、その信頼を失わせるものとなる。ご都合主義は決して市場原理と相入れない。市場原理は「フェアさ」に基づくルールである。市場原理が都合の良いときだけ市場原理を主張するというのは、明らかにフェアではない。

確かに湾岸戦争の「戦闘」では、アメリカは勝ったかもしれない。しかし、アメリカとイラクの「勝負」は、湾岸戦争だけで決められるものではない。それは第一回戦であり、本当の勝負はその後のラウンドも含めてのものである。そしていまだにフセインがその地位に生き残っている以上、その後の持久戦ではアメリカは負けている。その負けを認めず、ルールを変えてまで泥仕合を引きずり、自分に都合のいい結果に持ちこもうというのは、競争原理的な意味でのフェアさからは程遠い。

市場原理は、イデオロギーや主義主張と一番遠いところにあるからこそフェアなのだ。勝ったものは勝ち、負けたものは負け。どんなへ理屈をつけようと、その結果は変りようがないし、みなその競争の結果である勝敗に従う。だからアプリオリにアメリカが正しく、イラクが間違っているというのは、市場原理から程遠い。正々堂々とルールに従って競い、結果的にアメリカが競争に勝ってはじめて「正しい」ことが証明される。これが市場原理である。最初から自分が正しく、相手が間違っているというのは市場原理ではない。

百歩譲って、勝手に主張する自由は誰にでもあるので、自分に都合が良いのが「フェア」だと主張することは自由だ。負け惜しみを言って、減らず口を叩く自由はもちろんある。しかし、それで周りから支持が得られることはない。あくまでも試合のルールは、はじめる前に決めなくてはいけない。そして、決めたルールには従わなくてはいけない。これは競争原理の基本ルールだ。味方を増やしたいがために、自分のご都合主義を隠し、あたかも公明正大な競争原理の信奉者であるがごとく振舞っていたというのでは、誰からも信用されなくなる。

別にアメリカの言うことだからみんながついてきたのではない。少なくとも90年代後半においてアメリカが主張してきたことは、こと経済の分野においていうのなら、それなりに筋が通っていたからついてきただけのことである。いまや試合のフェーズは変わった。アメリカは競争原理を踏みにじった。どう考えても、常に一定のスタンスをキープしつづけてきたヨーロッパなり、WTO加盟を決め、グローバルなルールに合わせてきた中国なりのほうが、ずっとフェアで競争原理にのっとっているプレイヤーということができる。

こうなると、世界の競争主義者、市場主義者が、みんなアメリカにブーイングを送り出すことになる。それなら、ロシア流の市場原理、中国流の市場原理のほうが、余程フェアで純粋な市場原理というわけだ。中国なんて、さすがは四千年の商人の歴史を持つ国。商売においては、イデオロギーを一切抜いた上で、何でもありの異種格闘技ルールの市場で戦い、そこで勝ち残ってはじめてマーケットの勝者となる。確かに今の中国の消費市場の競争の激しさは、想像を絶するものがあり、かなり徹底した市場主義と考えられる。

どう考えても、最近のアメリカはおかしくなっている。もともとおかしくて、調子がいいときだけ「フェア」になるのか。それとも自信を失った分、一時的にブレが出ているのか。もともとアメリカには「誰にもチャンスがあるアメリカンドリーム」があると同時に、「激しい人種差別」も歴然とある。確かにアンビバレンスな国なのだ。だが、今までの産業社会とは違い、右肩上がりの成長がその矛盾をウヤムヤにしてくれる時代は終わった。どちらに振れるにしろ、この岐路をどう切り抜けるかが、21世紀のアメリカの立ち位置やプレゼンスを決めることになるのだろう。


(02/09/27)

(c)2002 FUJII Yoshihiko


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