経済活性化のカギ






長引く景気の低迷に、いまさら「景気が悪い」というのもマンネリな昨今ではあるが、世の中で「景気」について語られる時には、いつも経済に関する根本的な勘違いが感じられる。それは、悪平等的な再配分は景気にマイナスということが認知されていない点だ。これは、日本の大衆の思い込みやマスコミの論調が、社会主義的ユートピアイズムに汚染されているせいなのだろう。経済は平等では発展しない。ケ小平の経済発展理論ではないが、いいところがまず発展し、それが全体を引っ張って行く必要がある。。

悪平等がいけないことは、日本の80年代、90年代が何よりも良く示しているではないか。補助金行政、公共事業による公的資金の投入は、冷戦崩壊後、世界でも唯一の社会主義的経済政策である。そして言うまでもなく、今の日本の停滞は、その悪平等政策のなれの果てである。なんとも皮肉なコトだが、同時期に政治においては「共産主義」を標榜している「はず」の、中国共産党のとった経済政策が、極めて自由競争的なものであったのと好対照ではないか。そしてその結果は見ての通りである。

景気が良くなるとはどう言うことか。それは単に社会全体のお金の回転が盛んになるということではないはずだ。単に右から左へという動きではなく、付加価値をどれだけ生み出しつつお金が回転するかという点が問題になる。マスプロの大量生産製品がいくら数が出て、スケールとして大きくなっても、それは社会的な付加価値の増加を意味しない。大量生産である以上価格競争を必然的に伴う。だから数が出れば出るほど、生み出す付加価値は減少してしまう。

景気が良くなるためには、付加価値逓減が働く「数でこなす」大衆商品ではない、高付加価値商品がどれだけ「動く」かがカギになる。同じ1億の市場といっても、100万円の大衆車が100台売れるよりも、1000万円の高級車が10台売れる方が景気に対する刺激は大きい。生活必需品では、いくら売れ行きが増しても景気を良くならない。しかし、マクロ経済はマスプロの生産しか見ていない。このボタンの掛け違いが、悪平等社会日本のガンである。悪平等的に再配分され、すべての人が平準的に支出を増しても、けっして景気は良くならないのだ。

これは、近年のアメリカ、イギリスの例を見ても良くわかる。各々80年代、70年代には、アメリカ病、イギリス病と呼ばれた深刻な構造不況に犯されていた。しかし、その後停滞を脱し、再び経済を活性化させた。そんな90年代の復活したアメリカでは、高所得者ほど所得の伸びが高いコトが特徴となっている。その一方で中・低所得者は、逆に所得が減少した。ここに本質が潜んでいる。所得格差が増し、富める者がますます富んではじめて、経済が活性化するのだ。逆に福祉政策や社会主義的悪平等政策で平準化が進めば進むほど、経済は停滞する。これもイギリス病の「症例」が示している点である。

もっと言うと、企業の被雇用者がこれだけ比率として高いこともおかしい。健全な経済のためには、個人に雇用される人がもっと多くなくてはいけない。高所得者層の家庭内でのサービス労働に従事する人達がもっと多くならなくてはならない。戦前の上流層の生活を想像することは難しくなっているが、たとえば東京都庭園美術館になっている旧朝香宮邸の構造を見れば、その片鱗はうかがえる。その構造は、公務を行う領域と、プライベートな領域にわかれているのだが、そのプライベートな領域を良く見ると、かなりの使用人を雇用していたことがわかる。

そもそも、中・低所得者層の消費パターンは、その人間が企業に雇用されようと、個人に雇用されようと、基本的には変わらない。おまけにその層も、それなりに高い貯蓄率である。多少所得が減ろうと、貯蓄に回る額は減るかもしれないが、消費そのものはあまり変わらないと考えられる。したがって、所得格差が開き、高所得者層に中・低所得者層が雇用されるモデルになったとしても、それら「大衆」の領域の経済効果はそんなに変化はないであろう。それに、この数年の価格破壊デフレで、そういう層の「B級贅沢」の消費は、かなり消滅している。

その一方で、高所得者層は、中・低所得者層の雇用を支えるとともに、自らの高付加価値消費の主体となる。この購買力が景気にものを言うのだ。高いものがより高く売れる。そのためには、付加価値を見極め、それに対し支出をおしまない層が必要である。そして、その購買力が高まれば高まるほど、もともと高付加価値商品は供給弾力性がない分、さらに付加価値の評価が高まり、価格は上昇する。今求められているのは、こういう景気浮揚効果である。大衆型消費市場から、貴族型消費市場へ。産業社会の終焉とともに、消費モデルも変化する必要がある。


(02/10/18)

(c)2002 FUJII Yoshihiko


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