変るホビーマーケット







まさに強烈な求心力で、一枚岩の塊になっているからこそその呼び名が生まれた団塊の世代。しかし、現実にはこの世代ももはや一丸とはいえず、内部での分化が始まっている。いわゆる団塊を特徴づけきた、「群れて横並び」という日本型大衆の中核としてのメンタリティーを持つ層が、これからも多数派であることは変わりないだろう。しかし、そうでない人たちも、この世代の中で無視できなくなってきたということである。特に、金融危機以降のリストラクチャリングの嵐の中で、虚構としての総中流化=横並び競争を続けることの無意味さを感じ出した人たちが、かなりの頻度で現れてきた。

団塊の世代の中でも、「となりの芝は青い」とばかりに目を両隣に向け、廻りの人たちをリファレンスとして生きるのではなく、自分らしさに忠実に生きるべきと考える人たちが無視できない存在になっているのだ。もちろん、この世代の中でも、最初から群れずに生きているヒトはいるわけで、そういうヒトも含めれば、もはやこれは例外とは言えず、かなり顕著な傾向として読み取ることが可能だ。さらに団塊の世代は母数が多いだけに、少数派であっても、絶対数としてはかなりのヴォリュームになる。

団塊の世代の、特にオジさんは元気がない人達の象徴のようにいわれている。確かにそういう人が多数を占めるとしても、全てではない。中には羽振りのいい人もいる。そういう人をターゲットとして取りこむだけで、既存市場が大きく変ってしまうマーケットも少なくない。団塊世代の流入は、その母体が余りにデカいがゆえに、興味を持つヒトのごく一部がアクティブになるだけでも、市場規模が大きく変ることになる。団塊の世代を主語としてみれば、極めて例外的な少数派であっても、それが彼等が参入してくるマーケットの規模から見れば、大きなインパクトとなるということだ。

これから、団塊の世代が定年を迎えるにあたり、この傾向が無視できなくなる市場は多い。その典型がホビー市場である。日本のホビー市場では、マニアックなものはアクティブなユーザーが数千のオーダーというものが多い。もちろんライトなユーザーや興味を持っているヒトはそれより多いという市場も多々あると思うが、市場を作り出すコアになっているユーザーで見れば、大体そういうレベルである。卑近な例でいえば、ヴィンテージギターを持っているヒトの総数とか、16番のユーザーとか、間違いなく数千、それも手前側の数千である。

どちらかというと、現在のホビー市場は、団塊より下の現在40代の層が支えている感が強い。この層は、もともと多軸的な価値観を持っているので、仕事もやるしホビーもやるという「共生」ができる。そういう層が、社会人になった頃から離れていた趣味に対し、子供がある程度大きくなって、手取り足取りという手間を取られなくなった90年代半ばから出戻っている。彼らが、現在のホビー市場のメインユーザーである。商品企画も、明らかにこのあたりの層がもっとも喜びそうなネタが中心になっていることからもわかる。

団塊はこれに対して一本勝負というか、一時には一つしか軸を持てないタイプが主流である。現状においては、特に団塊男性では「仕事」がその軸になっている。したがって、現状では、必ずしもホビー市場の主流とはなっていない。しかし定年と共に仕事から離れると、それに代る柱が欲しくなる。そうなると、自分のアイデンティティーとしてホビーに取り組む人が多くなる。この場合の思い入れは、現在のホビー市場を支えている40代のハマり方とは比較にならないほど濃くなると思われる。

さらに団塊の世代は、もともとモノや道具にこだわりを持つヒトが多い。また、団塊の世代が少年少女だった50年代には、そもそもホビーというモノ自体がDIY的要素が強く、そのノウハウや技術のバックグラウンドが違う。土地感という意味で、「男のコ」系のホビーを中心にして語るが、たとえば、半田付けなどというのは典型だろう。ブラスモデルの組みたてのような高度なものはさておき、ディスクリートの配線レベルであれば、この世代は「できる、やったことがある」ヒトの方が多数派である。

それだけではない。背負っている体験も違う。たとえば、実際に飛行するUコンとかラジコンとかいった飛行機の模型。製作し飛ばしてという実体験を持つ人は、都市部でもまだこういう模型を飛ばせた時代に少年時代を過ごしたこの世代が、圧倒的に中核を占める。子供の頃の実際に飛ばした経験。それに裏打ちされた、飛ばすためのノウハウ。やったことがないヒトが、見よう見真似でトライしても、なかなかウマく行かない領域である。そこに基礎があるヒトが、出戻ってくるのである。マーケットに大きなインパクトがないわけがない。

実際、建築関係者に話を聞くと、子供の独立、リタイアメントを睨んで家を建て直す人にの中には、ホビーを実現する場として、家の構造や、ホビールームヘの異常なまでのこだわりを示す人が目立っているという。たとえば、写真が趣味なので本格的な暗室を作る人。コレクションを展示したりジオラマを作れたりできる部屋を作る人。陶芸等のアトリエを作る人などである。こういう人々は、全体からすれば少数かもしれないが、日本のホビー市場からすればものスゴいヴォリュームになる。たとえば、自前の陶芸の窯を持つ人など、倍増以上の伸びになる可能性もあるということだ。

団塊=マス・大衆=ヴォリュームゾーンという考えかたは、濡れ手に粟の「一攫千金」にはフィットするかもしれないが、そういうスキームが成り立つ時代ではない。それより、団塊の世代のヴォリュームは、特異点のような少数派でもかなりの嵩があり、マーケットに対するインパクトが大きい点に着目すべきである。団塊世代の1000万の0.1%であっても1万人である。そして、全国マーケットが1万人ない業界も、ホビーをはじめ日本には溢れるほどある。ここにフォーカスを当て、市場の変化を読めれば、大きなチャンスがある。それこそ、オーディオマニアの復活とかも、充分考えられるのだ。



(03/02/07)

(c)2003 FUJII Yoshihiko


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