成人の日







1月12日は、今年の成人の日であった。休日制度の変更以降、三連休が増えたのはうれしい限りだが、12日というのはほとんど鏡開きではないか。なんとも中途半端に正月気分が残っているうちに連休というのは、なんかありがたさも中くらいになってしまう。それだけでなく、今年の正月休みは曜日のめぐりがよく、休みが長かっただけに、なんか正月の続きのような気分で、仕事始めの気勢をくじかれるような感じである。さて成人の日といえば、ここ数年は新成年の若者が騒ぐのがすっかり恒例となった。

昔は、そもそも役所のやる成人式の式典なんて参加しなかった。オジさん、オバさんの世代では、それが常識だ。当然ぼくも行っていない。だから、騒ぐ以前に、わざわざ参加して自体、昔の発想からすれば「管理されている」ことになる。それはそれとして、今の若者は従順なんだとあきらめれば、騒いでいる若者を見るとこっちもワクワクしてくる。とはいうものの、よく見ると、一部、本当に勇気のある若者以外、群集心理で騒ぐような連中は、本能的に壊して良い相手、叩いて良い相手を見分けて、そこでだけアバれている。

そもそも昔から、若者はそういうエネルギーを持っていた。そして、身近な「権力」に向かって、そのエネルギーを発散させた。それは「親」に代表される家族システムだったり、学校だったりした。その相手こそ、時代や状況によって変化したが、叛乱を起こして良い相手を近くに持ち、常にその相手とぶつかり、それを乗り越えて行くことで成長した。中には、エスカレートしすぎて、親を殺しちゃったり、学校に火をつけちゃったりしたヤツもいたりしたが、義賊ぶって親の金を盗んだり、管理への怒りの余り学校のガラスを割りまくるなんていうのは、なんともほほえましい。

見方を変えれば、成人式の式典自体は地方自治体がやっているので、一連の騒ぎは、そういう「許された敵」として、政官というか、地方自治体を捉えて騒いでいると考えられないこともない。そもそも、地方自治体は中央以上に利権構造の巣である。地元社会で生活していれば、地元の顔役の大人達は、みんな役所からカネを引きずり出してオイシイ思いをしようとしていることは、子供でも気付くはずだ。そもそも、その金自体が、中央からの交付金だったりするのだが。オマケにモラルの低い、仕事をしない地方公務員も目に余る。

主催者である地方公共団体やその関連団体が、一種の社会的害悪であることは、誰の目にも明らかである。これなら、叩いても問題ないということは、直感的にわかる。叩いて怒られそうなものには、そもそも近づかないというのが最近の若者心理だろう。しかし、叩こうが悪ふざけしようが、相手の方がより「悪い」分には免罪符になるとばかりに、ハシャギまくる気持ちはわからないでもない。誰も傷つかないし、誰も困らない。困るのは、利権に巣食う税金泥棒だけである。

まあ、そういう意味では、この行為自体がある種のガス抜きなのだろう。元気さが余って仕方ないので、ついマスターベーションをしてしまうようなものだ。それだけ元気のある若者がいるということは、この世の中喜ばしい限りだ。ちょっと前には、自分の殻に篭って出てこない、やる気もエネルギーもない若者ばかりが目立っていただけに、これだけ騒げるといういことは、団塊Jr.世代より下の世代は、もうちょっとは外向的に使えるエネルギーを持っているという明かしでもある。しかし、その折角のエネルギーを、単なるガス抜きで使ってしまっていいのだろうか。

本来そういうエネルギーは、もっと強力で手ごわい、エスタブリッシュされた敵に対して使うべきものである。勝ち目のない大きな敵に無謀にも挑む、自爆テロの蛮勇は、若さのみに許された勲章のはずだ。怒りを押さえられず、理性的な判断からは程遠い「怒りの暴発」こそ、若者にのみ与えられた特権である。そう考えれば、今の世の中でも、エネルギーのある若者がテロの対象とすべきものはいくらでもある。同じくニュースになるのならば、成人式で騒ぐより、自爆テロで歴史に残った方が、どれだけ世の中の人々の記憶に残るだろうか。

その一方で、相変わらずNHKは「青年の主張」コンクールをやっている。もちろん、思想信条の自由があるし、人の体験や人生は人それぞれなので、自分自身の稀有な体験を語ることは意義多いし、それに耳を傾けることも、自分の見聞を拡げ、世の中の広さを知るためには意味があることだと思う。しかしそれをコンクールにして順位をつけ、その上位にはpolitically correctというか、偽善的なまでな美談が独占してしまうのは如何なものだろうか。それは、どこから聞いても「若者」らしくない。「甘え・無責任」の日本人は、余程「お涙頂戴」の美談が好きということだろうか。



(04/01/16)

(c)2004 FUJII Yoshihiko


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