「器」の確保





このところ、声高に主張しているのだが、21世紀は間違いなく「人間の器」が勝負のカギになる時代となる。20世紀のような「近代社会」では、人間も組織という機械の部品という位置付けで済んだので、いわばスペックでモノを判断するような「偏差値主義」の人間評価が大手を振って罷り通った。しかし、当然のコトながら、試験では人間の器を見ることはできない。だから、この方法はもはや「ヒトを選ぶ」ためには通用しない。すでに、試験の点数が社会的に何も意味を持たないことは、実社会の風に当っているヒトなら従々承知だろう。

それなら面接ならいいかというと、これもそうは問屋がおろさない。いつも言っているが、人間評価には常に「バカの壁」が立ちはだかる。「人間は、自分より能力の劣る人間しか客観評価できない」という構造的問題だ。自分よりスゴいヒトが二人いた場合、スゴいヒトであることはわかっても、どっちがどれだけスゴいかは評価し得ない。順番をつけたとしても、それは好き嫌いの問題だ。だから面接でも、よほど器の大きいヒトしか、限られた時間の中では客観的に判断できない。

さらに時代は変化している。今社会的に必要とされるのは、余人をもって代えがたいオリジナリティー溢れる個性があり、アイディアや創造性に富み、付加価値を生み出せる人材である。こういう人材が欲しいのなら、定量的な点数で図れる採用法は意味がない。点数で採るというのは、誰でもできる作業をソツなくこなす、組織内の匿名の構成員が欲しい場合にのみ有効な方法だからだ。

その意味で、その存在の意味はさておき、公務員が試験の点数により採用されるというのは、きわめて当然の成り行きといえるだろう。しかしこれからの企業は、そういう人材の集団でははやっていけない。そういう定型作業は、そもそもITにより機械で処理するか、専門会社にアウトソーシングすべきモノである。それを社員がやるのはもっての外といわざるを得ない。そういう経営をしていたのでは、とても付加価値を生み出すことなどできない。

では、どうしたらいいか。それは、人間の器がどうやって決るかを考えてみればいい。人間の器は、その多くの部分を遺伝的ミームに負っている。より具体的にいえば、人間の器は、親から直接的に受け継いだ遺伝的な才能と、主として親が与えてくれる「育った環境」の両者によって決定づけられるということだ。もちろん、この話は大きな母集団をベースにした確率的な議論であり、個人レベルで100%決定付けられるというものではない。

しかし、マクロレベルの確率論においては、親が器の大きい人間であれば、子供も器が大きく育つ可能性が高いし、親が器が小さい人間の場合、子供が器の大きい人間になる可能性は低いことは間違いない。ということは、特定の一人を採用するというのではなく、ある程度のヴォリュームを確保する限りにおいては、器の大きい人間をより多く取りたければ、本人ではなく親を見ればいいといいことになる。親は、すでにある程度、社会生活における実績をつんでいるだけに、その器も評価しやすい。

すなわち、親が「すでにある程度器のある人間だ」と認められているヒトの子供だけを採用するようにすれば、リスクは減る。これこそが、器のある人材を採用するための最善の方法といえる。このためには、世襲か縁故しかない。試験や面接では、器のあるいい人材を採用するには、リスクがありすぎる。器のある人間をとるためには、器のない人間がどうしても一定の率で紛れ込んできてしまうからだ。すでに親が実績を上げている人材の子供だけを選んで採用すれば、そのリスクは低減できる。

もちろん、ことが確率的な問題だけに、それでもどうしようもない人間は、あるパーセンテージでは入ってくるだろう。しかし、全体の中で器の大きい人間が占める割合は確実に向上するし、極めて器の大きい優秀な人材を取れる可能性も飛躍的に高まる。試験にしろ、面接にしろ、大量の応募者から選考すると、どうしても正規分布になってしまう。それで優秀な人材が取れないわけではないが、優秀な人材を、世の中に存在する確率以上に確保することは難しい。

採用というのが、ひとまずの可能性の確保である以上、その手段の評価は、可能性が高いか低いかで図られるべきである。そういう視点に立つならば、20世紀の近代社会において「常道」とも言える手法だった、「試験」や「面接」という手段は、ランダムサンプリングと同じような可能性しか担保しない以上、効率的とはいえない。将来的には何かすばらしい判定法が生まれるとは思うが、それが今だ確立していない21世紀初頭の現状においては、「世襲」か「縁故」というのが、器のある人材を確保するためのNext to Bestな方策なのだ。


(04/12/24)

(c)2004 FUJII Yoshihiko


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