栄養費問題






またぞろ、プロ野球球団からアマチュア選手に支払われた、「栄養費」の問題が沸き起こっている。何度対策をとっても、この手の事件が繰り返し起こっていることからもわかるように、これはドラフトとか制度的なものによって引き起こされるものではなく、プロ・アマ含めた日本のスポーツ界の体質も含めて、もっと根深いところにその原因があると見るべきだろう。

金を持つ球団と、金がほしい選手がいる限り、どんなルールを作ったところで、より巧妙な抜け穴ができるだけのことだ。もし本気で改善する気ならば、もっと抜本的な対策が必要だ。それは、契約における「完全自由競争」の実現と、そのプロセスの「完全なディスクローズ」を実現することだ。球団の側も、選手の側も、どういう交渉があり、どういう契約に落ち着いたかを全て公開する。

この問題では、必ずしも球団だけが「クロ」なワケではなく、もらった選手の側にも、それなりの責任がある。しかし今までの対策は、ほとんど球団の側だけに責任を負わせるものだった。これでは、解決になるはずがない。どちら側にどういう責任があるのかも含め、誰もが全てを第三者的にチェックできる仕組みを作ってはじめて、この問題を解決することができる。

基本的には、ドラフトとかの制度も一切廃止し、すべての契約は、当事者同士の自由交渉に任せる。ただし、そこで出された条件や経過、最終的な契約内容等は、全て誰でも自由にアクセス可能な情報として公開する。球団側が提示した契約金や年俸、実際に契約に至った金額も全てディスクローズする。当然、他人に提示した条件を横目で見ながら交渉を進めることも可能になる。

こうなると、市場原理が働き、みんなが入りたがる人気やブランド力のある球団ならば、今出している金額より低額でも契約できる可能性が強くなる。「市場価格」というカタチで、それぞれの球団の「ブランド力」の水準がわかるようになる。こういう状況下で、より高い金額を提示した「不人気球団」と契約すれば、その選手は「金になびいた」という定評が立ってしまう。

こうなると、入団の基準は金額の多寡ではなく、「入りたい球団か」というブランド力になる。球団も、金にモノをいわせるのではなく、球団の魅力、ブランド力をどう高めるか、という戦略を競うことになる。実は、この選手にとって入りたい球団というブランド力は、選手のみならず、全てのステークホールダーにとって価値を持つ。これを達成した球団は、あらゆる意味で「良い球団」なのだ。


ブランド力のある優良企業は、顧客、株主、従業員、相互に元来は利害が対立するはずの3つのステークホールダーを、すべて同時に満足させられる。いわゆる、トリプルボトムラインである。球団についても、同じコトがいえる。ブランド力のある球団とは、観客、選手、オーナー、この三者がすべて満足する球団になることである。考えてみれば、これが本来のあり方ではないか。

常勝軍団になるのも、勝つことやペナントが目的なのではない。それを通してブランド価値の向上を実現する、一つの手段であり、ツールに過ぎない。このブランド価値の強化を競い合うようになってこそ、プロ野球自体の人気や価値も高まる。そのためにも、ブランド価値がストレートに評価されるシステムが必要だ。それには、選手との契約の自由競争化とディスクロージャーが、なにより役に立つのだ。


(07/03/30)

(c)2007 FUJII Yoshihiko


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