ビジネスマンの能力格差







本来の管理職の役割の一つに、「部下を評価する」という機能がある。キチンと部下の能力や成果を把握している真っ当な管理職なら、部下の評価をするとき、その仕事の結果の差をまじまじと感じているだろう。もっとも、日本の組織においては、マネジメントの能力と関係なく、年功制で管理職になってしまうコトが多いので、そういう視点を持ち得ていない「管理職」が多数存在するのも確かだ。

「ウチの部下は、皆優秀で」などというヒトは、ロクな管理職ではない。そもそも自分が優秀でないから、部下が優秀に見えるのだ。人間は、自分以上の能力のある人間は、「スゴい」と思うことはできても、定量的に評価することはできない。あるレベル以上の成果を残せる人間を集めても、微細に見てゆけば、その中でも差はある。ましてや運不運も含めた「成果」では、差がつくのが当たり前なのだ。

その一方で、ほとんどの組織では、人材は玉石混交である。ランダムにサンプリングすれば、能力の分布は正規分布に近くなる。そもそもペーパーテストの結果は、そのヒトの人間力とは関係ないため、「テストの結果」は人間力から見ればランダムサンプリングに近い。面接で採用するにしても、その組織の管理職が面接官となることが多く、けっきょくヒトを見る目がない場合が多い。いずれにしろ、採用はランダムサンプリングなのだ。

かくして日本の組織では、能力の高い人間が2割、どうしようもないダメ人間が2割、可もなく不可もない人間が6割、という構成になってしまう。この傾向は、確率的集団で考えるなら、仕事の成果にも反映される。結果、すばらしい仕事をした人間が2割、言われたことだけはこなす、ただ「いる」だけの人間が6割、周囲の足を引っ張る、いないほうがいいお荷物人間が2割、ということになる。

この、良い成果を残した人間と、組織の足を引っ張った人間とを、組織にもたらす貢献度で比較してみよう。どう考えても、百倍以上の差がある。処遇についても、百倍以上差があってもおかしくない。日本でも企業経営が利益主義になってきて、この問題が浮上してきた。右肩上がりの時代は、利益を出す必要がなかった。したがって、足を引っ張る人材を抱えていても、特に問題を問われなかった。

この結果生まれたものが、世界にしおう「日本のホワイトカラーの生産性の悪さ」である。日本企業の工場現場での生産性の高さは、世界でも特筆すべきものがある。実は日本の誇る「モノ作り」とは、技術でも開発力でもなく、この生産性なのだ。しかし、企業全体の生産性で見ると、日本企業は欧米のエクセレント・カンパニーに遠く及ばない。それは、工場の生産性の高さを、ホワイトカラーの生産性の悪さが食いつぶしているからだ。

その代表が、メーカーの営業職である。彼らは、基本的になにも仕事をしない。単に、仕事をするフリをしているだけだ。彼らがいてもいなくても、売上そのものはそんなに変わらない。このルーツは、高度成長期にある。右肩上がりなら、営業努力をしなくても、ノルマが達成できる。かくして、何一つ努力しなくても達成できるレベルを目標とし、いかにも苦労しました、と取り繕うことが「仕事」になってしまった。

戦後昭和の平日の昼間、繁華街の巷の様子を思い起こして欲しい。大手メーカーの外回りの営業マンの多くが、映画館で寝ていたり、喫茶店で涼んでいたりしたではないか。まあ、このくらいは、仕事が早く終わってしまったり、取引先からアポをキャンセルされたり、ということで手待ち時間ができてしまい、それを潰していることもある。必ずしも「確信犯」とはいえず、まだいいほうである。

当時は、午前中から風俗産業やパチンコ屋は繁盛していた。その頃トルコ風呂と呼ばれていた風俗店など、朝や午前中から、サービスタイム、ハッピーアワーとして客引きに精を出していた。ということは、そこにお客さんがいたのである。これらの店のターゲットは、夜勤明け対象の、「朝の立ち飲み屋」とは違い、おサボり営業マンであった。こういう商売のやり方ができたのも、仕事をしないでも、時間さえつぶしていれば、給料がもらえた、こういう営業職のヒトが多かったからだ。

それは、いまでも払拭されていない。日本の企業には、まだまだムダなコストでしかない「いらないヒト」が多い。既得権益化して、その役得にぶるさがっているだけの人々。その多くは、そもそも能力の低い人材である。企業が、能力のない人間を抱えておくことは、経済がグローバル化した今では許されないコトだ。能力に応じて働き、分配を受ける。これが、本来の姿である。仕事をしない人は、ヤメるか、さもなくば、働きに応じた給料で甘んじるか。日本再生のカギは、ここにある。




(07/04/13)

(c)2007 FUJII Yoshihiko


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