団塊Jr.問題






昨今議論になることの多い、ニート、引きこもりといった問題は、団塊Jr.世代が成人に達するとともに顕在化してきた。もちろん、ある率では他の世代でも起こりうるし、事実、職につかず引きこもる青年は、50年前にもいた。だが問題は、その数が例外とはいえないぐらい多くなり、社会的に無視できない傾向となったことである。そういう意味では、団塊Jr.世代に特徴的に見られる問題といえるだろう。

団塊Jr.世代は、デモグラフィック的にみれば、現在のM1・F1層とオーバーラップするところが多い。実際、いろいろな市場調査・社会調査のデータを分析し、過去の同種のデータを比較すると、特に現状のM1層には、統計的に優位な「歪み」が生じていることを見て取れる。少なくとも、団塊Jr.世代の男性については、明確な社会問題ということができる。ではなぜ、こういう現状が起こったのだろうか。

まず第一の理由は、「リトルリーグ効果」と呼べる現象である。団塊Jr.世代が少年と呼べる年令に達した80年代以降、草野球をやる少年は激減した。子供たちの通常の遊びとしての「野球」は絶滅したといってもいいだろう。その一方で、リトルリーグで活躍する少年の数は減っていないし、場合によっては増えているとも言える。それだけでなく、その技術レベルは際立って高まっており、プロ野球や学生野球への指定席も出来上がっている。

最近のハヤり言葉でいえば、かつては中位に固まっていた集団が、高レベルだが少数の「ショートヘッド」と、低レベルで多数のロングテールへ分化したということになる。その意味では、ショートヘッドの部分は、世代による差がない。上級者の状況は変わっていない以上、それ以前の世代との構造的な世代差は、中位集団が、レベルの低い「ロングテール」の部分に移行したこころにある。この現象は、野球に限らず生活のあらゆる面でみることができる。

第二の理由は、雇用状況と雇用可能人数の問題である。バブル崩壊以降、約20年が経過したが、この間に日本経済は右肩上がりの高度成長型から、横ばい・微減の安定成長型に変わった。さらに、このような状況下においては、生産性の向上を図ることが必須である。このため、かつての日本的経営の特徴だった「労働集約型生産」を脱し、より効率的な生産を目指し、少ない人数で高付加価値生産を行うようになった。

これはとりもなおさず、雇用可能人数そのものが、横ばいまたは減少することを意味している。団塊Jr.世代は、それ以前の世代よりも、それ以降の世代よりも人数が多い。しかし、雇用可能な人数が増えるどころか、減ってしまっている。団塊Jr.世代は、雇用状況に関しては、構造的にゼロサムの「椅子取りゲーム」世代なのだ。競争が厳しくなるのだから、より悪い条件の雇用に甘んじたり、雇用そのもののチャンスが得られなかったりしても、ある意味当たり前なのだ。

第三の理由は、彼らの親にあたる「団塊世代の罪」である。この20年間に渡る、バブル→バブル崩壊→失われた10年→金融危機という、日本経済・日本社会のダッチロール。この混乱をもたらした張本人こそ、最後の高度成長世代たる団塊世代である。80年代、すでに破綻していた高度成長型モデルに固執し、団塊世代の特徴である「上昇志向の強い求心力」を維持しようとしたことが、バブル経済の狂乱を呼び起こした。バブル崩壊以降は、自分達が高度成長期に獲得した既得権を死守しようとし、経済の低迷を引き起こした。

この結果、子供たちである団塊Jr.世代にチャンスを与えられなかった。いわば、一子相伝で免許皆伝できなかったのだ。この世代交代の引け際のまずさもまた、団塊Jr.世代の雇用状況を悪化させた要因である。その結果、既得権にしがみつく親に、子供がパラサイトとしてしがみつく「既得権」に固執することになったのは、なんとも皮肉である。また、団塊世代はその育った環境から「共同体志向」が強く、家にいる子供の面倒を当たり前のように見てしまうことも、これを増長した。

さて、気になるのはニート、引きこもりといった問題が、今後どうなるかである。これを考えるには、これから社会人となる「新人類Jr.世代」において、これらの与件がどう変化してゆくかを見てゆく必要がある。新人類Jr.世代は、団塊Jr.世代より、人口の絶対数が少ない。団塊Jr.世代のほうが、5割近く多い。この人数の差がどこにあるのかを見てゆくことがカギになる。そのポイントは、「リトルリーグ効果」を読み取るところにある。

ショートヘッドたる、天才的な能力を発揮するハイパフォーマンス層から、標準以上の社会性を発揮できる正社員層、健康で文化的な生活をする上で必要とされる収入は確保できる非正規社員層ぐらいまでは、団塊Jr.世代と、新人類Jr.世代との間で、絶対数でみるなら差はない。これ以下の下流パラサイト層や、ニート・引きこもりの厚みの差が、団塊Jr.世代と、新人類Jr.世代との人数差を生み出している。

さらに、第二・第三の理由は、団塊Jr.世代固有の要因に基づくものであり、新人類Jr.世代には影響がない。全人口が少ない分、椅子取りゲームにはならないし、新人類Jr.世代が就職するとき、団塊世代はもはや企業にはいない。こう考えてゆけばニート、引きこもり、ワーキングプアといった問題は、団塊Jr.世代(の男性)に特有の問題であり、今後時間が解決してしまうことが理解できる。もっとも、団塊Jr.世代の中高年化とともに、老ニート、老ひきこもり、老パラサイトという問題は起こるのだろうが。



(07/06/29)

(c)2007 FUJII Yoshihiko


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