WBCが教えてくれた





第二回のWBCも、いろいろな波瀾と盛り上がりの末、日本の連続優勝という結果に終わった。第三回が果たして行われるのか、いろいろ問題もあるが、少なくとも日韓の代表チームの対戦というのは、名ライバルとして今度もキラーコンテンツ足りうるだろう。いっそのこと、毎年、ホームアンドアウェイで、両国で一戦づつ開催すれば、なかなかの盛り上がりが期待できるだろう。

そういう意味では、野球というスポーツには、まだまだ人々を沸かせるコンテンツとしてのパワーがあることを証明したということもできる。言いかたをかえれば、日本のプロ野球リーグが低迷しているのは、やはり「見せ方」の問題ということが明白になった。午前枠でも、チームや試合が面白ければ、30%の視聴率は取れるのだ。ゴールデンで一桁の視聴率しか取れないのは、面白くする努力に欠けていることの裏返しでしかない。

さてWBCでは、スポーツ新聞が、久々に野球の記事で湧いた。やはり、餅は餅屋である。野球によって育てられたともいえる日本のスポーツ新聞は、野球の記事が一番「熱い」。一面トップも、野球が似合っている。それはそれとしても、WBCに関連して、日刊スポーツに、ある意味では非常に日刊スポーツらしい、面白い記事が載っていた。それは、WBC決勝日の株価の変化である。

試合中は、さすがに取引が減り、平均株価も低迷していた。その日の昼飯時は、街も閑散としていたぐらいで、株の取引どころではなかったのだろう。しかし、優勝が決まるとともに、お祝いムードで買いが入り、株価もぐんぐん上がりだした様子を解説。また、その相場を引っ張った銘柄も、スポーツ関連企業や、WBCオフィシャルスポンサーといった「連想買い」であることを分析している。

要約すれば、こういうことだ。メデタい雰囲気でハイになると、みんな強気になって買いが入る。その銘柄も、みんなが気分的にノレそうなものに集中する。これは、株価に関するなかなかいい視点といえる。株価のメカニズムについては、経済学的視点からの分析・説明がされることが多い。それらは、ある意味正しいとは思うが、現実の株価の動きを見ていると、今ひとつリアリティーがないのも確かだ。

長期的なトレンドを作っている機関投資家の行動様式は、そのような経済学の理論で示されるものに近いかもしれない。だが、いわゆる相場を作っているのは、短期の投資家だ。彼らの行動原理は、そんなに理論的なものではない。もっと感情的、直接的なもの、つまり、儲かるかどうかという一点にかかっている。みんなが買えば上がる。だからその銘柄を買えば儲かる。買いの判断基準は、こういう臭いがするかどうかでしかない。

ここでで大事なのは、このカギとなるのが、「皆みんな買いに入るかどうか」という点であることだ。理屈などではなく、「みんなが買いに入りたくなる銘柄なら買い」という、非常に明確で単純な原理だ。そして、買うかどうかは、雰囲気である。投資家がみんな、この雰囲気を基準として動いている。そして、他人より先に、買いが集まる雰囲気をかぎつけ一歩でも早く買い、価格が頭打ちになる寸前に売り抜ける。基本的な行動原理は、これだけである。

では「皆が買いに入る」きっかけは、なんだろうか。その中には、読みやすいモノもある。日経でポジティブに報道されたら買い、というものなど、基本中の基本だろう。この暗黙のルールのお陰で、この新聞の構造不況の中で、日経は相対的にダメージが少なくて済んでいた。あと、「株屋の掟」みたいなものもわかりやすい。原因がハッキリしない、「気分」みたいなものが一番わかりにくいが、相場を読める人は、この「気分」を捕まえるのがウマいワケだ。

こういう、情念というか、捉えどころのないモノが、相場の原動力になっているからこそ、どう理屈をつけても合理的には理解できない相場、すなわち「バブル」が現出する。機関投資家等へのアカウンタビリティーという意味では、いまやっているような理屈っぽいIRというのも必要だろう。しかし、株価対策というのなら、こっちの方が手っ取り早い。短期の個人投資家が「儲かりそう」という気分になるようなコミュニケーションを図ればいいのだ。

虚偽の情報ではマズいが、これは基本的に気分の問題だ。同じリリースの記者発表をする場合でも、ここを刺激するような言いかたをすれば、効果は絶大だ。情報の中身より、その言いかたのほうが、株価に影響するのだ。理由はどうあれ、結果的に、買う気になる人が増えれば、平均株価も上昇する。そうすれば、短期的には企業価値は高まる。IRコミュニケーションにおいても、「雰囲気」が大切な時代になったことを、WBCは図らずも示してくれたのだ。


(09/04/03)

(c)2009 FUJII Yoshihiko


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