役人とハサミは使いよう





総選挙は、事前の予想通り民主党の圧勝という結果に終わった。バブル崩壊以降、選挙は「お祭り」なので、投票するもしないも、結果が面白いかどうかだけの話で、政策やイデオロギーとは関係ない世界になっている。それさえわかっていれば、充分読めていた話。その部分では、特に新鮮味があるワケではない。それより、この選挙結果を受けて、民主党がどう政治を行っていくかのほうが面白い。

今回の選挙が受けた理由のひとつは、天下りや許認可利権のことしか考えない「高級官僚」と、彼らと結びつき、公共事業など税金の無駄遣いのおすそ分けにあずかっている「族議員」を叩きまくる、というところにある。連中は悪いヤツなんだから、いくら叩いても、イジメても身から出た錆である。こいつらを叩きまくれば、助さん格さんのチャンバラから、印籠を取り出すテレビシリーズ水戸黄門の名場面のように、スッキリとストレス解消し溜飲を下げられるという次第。

そういう意味では、国民の付託にこたえる意味でも、今度こそ大々的な行政改革を行い、霞ヶ関による税金の無駄遣いと利権構造を解体する必要がある。小汚い家に大発生しているゴキブリのような高級官僚を一掃し、どう「官」の世界を刷新するか。これこそが選挙に集まった国民のワクワク感の高揚に応えるポイントである。コレができなくては、一気に反発が来る。しかし、コレを成し遂げれば、さらにもう一段盛り上がった高みへ到達することもできる。

そのポイントは、官僚たちの使いかたにある。連中の特性をつかんでしまえば、ウマくコントロールすることが可能だ。というより、官僚に代表されるような「秀才」は、ツボさえ押さえてしまえば、意外と扱いやすいし、意のままに動かすことも可能である。秀才といえば、マジメにコツコツ勉強し、演繹的に理解を積み上げてゆくのが特徴だ。勉強ができて学校の試験の成績がいいのは確かだが、これはマジメに点を取る能力が高いだけである。

官僚に代表される秀才は、決して地アタマが良いワケではない。そもそも地アタマがよければ、頭かくして尻隠さずみたいな、バレバレの天下り構造に嬉々として安住できるはずがない。地アタマがいい人間なら、自分がおいしい思いをしていることは、絶対に他人に悟られないよう振舞うだろう。例の「人間は、自分より能力の高い人間を客観的に評価できない」という法則から、多くの人が、秀才と地アタマがいい人間とを区別できないだけである。

もちろん、地アタマがいい人間の中にも、テストで点を取るのがウマいヤツはけっこういる。だがそれは、マジメにコツコツ勉強して点を取るのではない。バレないカンニング法を思いつくのがメチャメチャウマかったり、出題者のクセから五択問題の正解の出現傾向を読み取るのが得意だったり、絶対にバツがつかないような記述式の回答を書くのに長けていたりして、結果的に点を取ってしまうのだ。地アタマのいい人間の点のとり方は、他人にはマネのしようがないのが特徴である。

確かにこういうタイプの人間なら、思いもよらないアイディアを生み出す可能性も高く、本人に「考えさせる」タスクを与えるコトも意味がある。実際、そういう仕事を与えれば、天才的な能力を発揮することも多い。しかし、秀才は違う。秀才は、実は、ゼロから何かを考え出す能力に長けているワケではない。彼らが得意なのは、たくさん蓄積した「問題と解法とのマッチング」をスバやく引っ張り出すことなのだ。コンピュータと同じで、データがないもの、プログラムに記述されてないものには対応できない。

ここさえわかっていれば、秀才を使うのはさほど難しいことではない。使いこなすコツは、本人に考えさせるのではなく、考える間もなく、次から次へと的確に指示し、作業させることにある。ひとつの仕事を手際よく仕上げたら、間髪を入れず次の仕事が入ってくる。ヤツらは、指示されたことを手早くそつなくこなすことに関しては、超一流である。だったら、それに専念させてしまえばいい。

その際、マラソンコースのように、ゴールと通過点をキチンと示して指示するのがポイントである。ヤツらがよからぬコトを考えるのは、経路そのものを考えさせるからである。官僚というのは、ある面マジメなところがあり、明確に指示されたことについては、キチンとこなす傾向が強い。だからこそ、考えさせなければ、それなりによい結果を生み出すことができる。考えさせない、考える余地を与えない。これが秀才を使いこなす秘訣である。

端的に言えば、所詮、「官僚」偏差値を取るのがウマいは秀才であって、たしかに「execution」のエキスパートではあるが、「planning」する能力があるワケではないということだ。planningの部分は、官僚ではない誰かが、責任をとって行い、指示する必要がある。これこそが、コトバだけはよく語られる「リーダーシップ」の本質である。となれば、問題は簡単。コレができるだけの「自立・自己責任で地アタマのいい政治家」がどれだけいるかなのだが……。


(09/09/04)

(c)2009 FUJII Yoshihiko


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