ゴネ得





超利権社会である日本では誤解している人も多いようだが、高福祉社会の実現とは、「弱者」が、寄らば大樹の陰で、甘い汁を吸いまくれる環境を作ることではない。本来は、人それぞれが、持っている能力と、自分の周りの環境に合わせて、最大限の可能性を引き出せるような機会を作ることである。自助努力をした人間が、その努力の分だけ、かならず報われる社会こそが、福祉社会である。

何もしないでも、利権にしゃぶりついていれば、スネをかじれるだけかじれる社会が福祉社会ではない。「福祉社会=大きな政府」ではないのだ。政府に一旦金を集めて再分配するから、無駄なコストも多くかかるし、間でサヤを抜き取る悪いヤツも跋扈しだす。再分配は、コミュニティーとか、なるべく本人に近いところで行なわれるべきである。そうであれば、再分配される金額の単位も小さくなるので、そこに利権が生まれる余地も小さいし、誰かがポケットに入れる危険性も薄くなる。

利権が多く、間でサヤ取りをする人間も多いので、ムダが生じる官僚システムこそ、「大きな政府」の本質である。少なくとも、「40年体制」として、無意味な官僚が無駄な公共事業を行い、その利権に族議員の政治家や、土建業者など一部の民間人もむさぼりついていた日本においては、夜警国家的な意味での「小さな政府」以前に、ムダや一部の人間の利権にばかり税金が使われる「とてつもなく大きな政府」をどう改革するかが問題となる。

世の中のためにならず、一部の人間のフトコロだけを暖めるために税金が使われる状況こそが、問題なのだ。国民が納めた税金は、官僚が自由に使えるポケットマネーではない。しかし、そうなってしまっているのが現状なのだ。たとえば、官への納入価格というのは、一般の民間市場とはかけ離れた「タテマエ」がある。昔の文部省、今の文科省利権の典型である。学校の備品の納入価格など、その典型であろう。

量販店では、定価の2〜3割引で売っているものでも、学校へは「定価納入」が行なわれる。いや、学校利権の納入価格を作るために、「定価」を2〜3割高くつけているというほうが正しいだろう。その「利ザヤ」分は、なにも業者が独り占めしているわけではない。それは、学校利権に関わる全ての「ステークホルダー」で山わけなのだ。この意味では、文科省の官僚も、日教組の活動家も、互いに支えあう、同じ穴のムジナである。

こういうコトをやっているから、けっきょく「ゴネ得」が生まれて、エセ同和やエセ福祉が横行する。ヤクザが生活保護を申請して、生活保護費をせしめてしまう事件がよく起こる。確かに、裏稼業である以上、「表」では「無職・無収入」なので、申請できてしまうし、申請すれば通ってしまう。法治国家である以上、法の規定に則っていれば、実態はどうあれ、認められてしまうからだ。

その法律を作りだしたのが、官僚である。もともと官僚自身が、世のためを考えているのではなく、自分達の利権のお手盛り配分のことしか考えていない。だから、決められた制度は、自分達の利権についてはきっちりと決めているものの、それ以外の部分の決めゴトはユルユルになる。当然、そこには抜け穴がたくさんある。それを察知して、おこぼれに預かろうという人間が、民間でも大勢現れてくる。

コレを封印するには、元から断つのが一番である。ゴキブリが大量に発生したとき、ゴキブリそのものを潰そうとしても、きりがない。しかし、ゴキブリのエサとなるようなモノを一掃すれば、結果的に発生は止まる。それと同じコト。「官」による、中央集権的な所得配分のシステムではなく、もっと分散処理的な、発生のポイントに近いところで働く再配分システムに変えればいい。

今必要とされている地方分権化も、コレと同じ意味だ。ムダに肥大した官僚システムを、ひとまずは必要最低限の官僚システムに置き換える。これだけでも、オーバーヘッド分のコストが節約できるだけでなく、間でフトコロにガメてしまっている「利権分」を掠め取るチャンスがなくなることにより、その分まで節約することができる。それで浮いた金は、税金にとる前に、消費に回してもらえばいい。

蛇の道は蛇、ではないが、みんなが気持ちよく「自分のために」お金を消費できることが、もっとも経済を活性化する。経済が活性化すれば、補助金や公費だのみの「すねかじり」をしなくても、まっとうにビジネスをやれば、それでチャンスは広がる。政権交代は、実は官僚支配の「40年体制」を崩壊させるチャンスである。日本を劣化させたのも、経済を衰退させたのも、税収と権力を私物化した官僚の罪である。これを断罪してはじめて、第二次世界大戦下に生まれた「戦時体制」が終了するのだ。


(09/09/18)

(c)2009 FUJII Yoshihiko


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