鳥取エレジー





大阪府の橋下知事が、「鳥取県の議員は6人で充分」と発言して話題を呼んだ。橋下知事はテレビでも活躍しただけあって、話題を呼ぶためのネタ発言も多いが、この発言はけっこう本質をついている。とどのつまり、鳥取が「県」であるにふさわしいのかどうかという問題である。これは、鳥取県民以外ならば、日本国民全てが、誰しもそれとなく感じていることだと思われる。

鳥取県が設置されたのは、それなりの経緯があることは間違いない。しかし、地方自治を取り巻く環境は、社会の状況により大きく変化する。かつて県をおく必要があったことと、今県として取り扱う必要があるかは別問題である。そもそも、国政の一票あたりの格差から、甲子園出場までに必要な勝ち数の格差まで、地域格差を問うとき、その一方の極として必ず登場するのが鳥取である。

市町村でも、単独で存在することが難しくなれば、周辺の自治体と合併する道が選ばれる。それは、県であっても同じはずだ。鳥取には「出雲神話」というのもあるが、所詮は遺跡の話である。遺跡で県になれるというのなら、奈良や福岡は県だらけになってしまう。今の存在感が、「県」として扱うのにふさわしいかどうかが重要なのだ。そこで、いろいろな定量指標から、鳥取の「今」を分析してみたい。まずは、おなじみの人口である。

ご存知のように、鳥取県はもっとも人口が少ない「県」だ。2009年10月1日あたりの各県人口推計値ランキングを見ると、41位以下の「下位争い」は次のようになっている。41位山梨県86万9千人、42位佐賀県85万2千人、43位福井県80万9千人、44位徳島県78万9千人、45位高知県76万7千人、46位島根県72万人。そして、47位の鳥取県は59万1千人である。県別ランキング41位というのは、面白い数字になっている。それは、東京都23区で一番人口の多い世田谷区より、人口の少ない県であることを意味するからだ。

2011年1月1日あたりの東京都による特別区の人口推計値を見ると、世田谷区は87万8千人。これは、政令指定都市以外の市町村で、最も人口が多い。それ以下のランキングを見ると、2位練馬区71万5千人、3位大田区69万3千人、4位足立区68万4千人、5位江戸川区67万9千人、そして、6位杉並区が54万9千人。さすがに島根県までは、新潟市、浜松市、堺市といった政令指定都市にも勝ってしまう超弩級の世田谷区にこそ負けるものの、他の特別区には負けていない。しかし鳥取県は、23区でも6位レベルの人口しかない。

では、もう一歩進めて、全国の市区町村全体で比べてみよう。2009年10月1日あたりの1747市区町村人口ランキングを見て行くと、26位の鹿児島市が60万5千人、27位の船橋市が60万人、28位八王子市が57万5千人となっている。八王子まできて、やっと勝負になる。この前後には、岡山、姫路、松山、宇都宮といった都市が並ぶ。59万人という人口は、比較的知られた地方の県庁所在地か、大都市圏のベッドタウンというレベルなのだ。

人口は少なくても、面積が広ければ、それなりに存在感もあるはずだ。しかし、鳥取はこの面でも苦戦している。県別ランキングをみると、面積は3507平方キロで41位、人口密度では37位にランクされている。ちなみに、面積順位42位以下のランキングは、佐賀県、神奈川県、沖縄県、東京都、大阪府、香川県という順だが、これらの県は全て、人口密度では佐賀県の15位以上の上位に入っている。東京、大阪、神奈川に至っては、ベストスリーである。鳥取は、狭いし、人口も少ないのだ。

ちなみに、市町村の面積を調べてみると、全国で面積が一番広い岐阜県高山市は、2178平方キロである。二番目の静岡県浜松市は、1511平方キロ。三番目の栃木県日光市は、1450平方キロ。いずれも山林を多く抱えている自治体だ。これらと鳥取県の3507平方キロを比較してみると、さすがに各市の面積より多少は大きいが、せいぜい倍である。決して桁が違うわけではない。充分勝負(?)になっている。

こう見て行くと、部分最適としては県として既得権はあるものの、全国レベルの視点からで言えば、この鳥取が県としての存在を主張するには無理があることがわかる。全体最適という視点からは、鳥取市で充分である。だが市になったところで、政令指定都市になるのも危うい。人口・面積だけではなく、生産・消費といった経済指標を参照してもいいが、ますますミジメになるのが関の山だ。それは、経済力がテイクオフする規模にまで達していないからだ。

いまや、経済成長が見込めない時代となった。地方自治体の収入も頭打ちだ。その一方で、地方公務員は、過疎地域ではダントツの高給取りである。地方の活性化を図るには、地方自治体のコスト削減を行い、限られた地域の生み出す富をより民間に多く廻し、経済発展に資するモノとすることが必要。このために、ここ数年、市町村合併を行って行政のスリム化を実現してきた。また、道州制というように、県単位での行政を、より広域化することで合理化し、機動的な地方分権を実現しようという動きがある。

どうせなら、売りコトバに買いコトバのような、議員定数6人などという話ではなく、折角弁護士の資格を持っているのだから、鳥取を県から市に格下げすべきだという、行政訴訟を起こす算段をして欲しかったものだ。島根県、高知県、徳島県あたりも充分対象になる。しかし徳島の人は、大阪局のテレビを受信し、自分達は「関西に属する離れ島」だと思っているようなので、全県まとめて「大阪府徳島市」にすると言い出せば、マジでノルんじゃないの。ここから風穴を開ける作戦、橋下知事の職権の範囲でもあるし。期待してまっせ。


(11/06/03)

(c)2011 FUJII Yoshihiko


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