草食系





「草食男子」「肉食女子」というコトバは、一時の流行語というより、すっかり定着した感がある。まあ、1980年代から女子のほうが元気があって積極的だったのは、その時代をリアルタイムで経験した人間なら、鮮烈に記憶していることだろう。バブル期には、「アッシー君」「メッシー君」などと呼ばれたように、選択権は明確に女子の手に握られるようになっていた。

まあ、このコトバが語られるときは、男女の恋愛関係に着目した文脈であることが多いが、この傾向は、決してそれだけにとどまるものではない。「草食男子」は、心の優しい、利他的なナイスガイであることも忘れてはならない。彼らは、まさに日本社会が成熟し、豊かな安定社会となったことに呼応し、そのような環境にオプティマイズすることで生まれてきたのだ。良い悪い、好き嫌いではなく、歴史の必然なのだ。

かつて日本が貧しかった、高度成長期。こういう時代においては、他人を蹴落としても、貪欲にチャンスをモノにしようという、貪欲さが成功のカギであった。当然、他人を慮ったりする余裕はない。世の中自体が、椅子取りゲームを繰り広げていたからだ。しかし、豊かな社会が実現すれば、価値観は大きく変わる。そういう時代になると、自分だけが成功しようと目をギラつかせているヤツは、周囲から浮き上がってしまう。

自分が成功して成り上がりたい、ビッグになって金を儲けたいというのは、中国など新興国の若者に任せればいい。そうではなく、世の中のためになりたい、他人から喜ばれたいという意識を持てるというのが、経済力を持った国の若者の示すべき態度である。「草食男子」はと、そういう生きかたを体現している。まさに、豊かな安定成長の時代に育った若者ならではのメンタリティーといえよう。

阪神大震災以降、数々の地震や災害のボランティア活動でも、その特性は大いに発揮されてきた。「草食男子」世代には、確かにNPOやボランティア活動に取り組む青年も多い。海外勤務を好まないとか、モーレツビジネスマンになることを忌避するとか、いろいろ言われているが、それは古い価値観のステレオタイプに当てはめた見方であり、彼らは彼らなりに、立派な価値観を持っているのだ。

しかし、このような志向性を発揮しようとしても、日本社会においては、大きな構造的問題がある。海外では、有償ボランティアがあったり、事業としてのNPOが確立したりしており、このような社会事業に対して「一生の仕事」として取り組むことができるスキームが出来上がっている。これらは、立派な「仕事」であり、「ビジネス」として認められている。ある意味、単なる営利事業より、崇高な仕事として捉えられてもいる。

しかし日本では、この手の活動は、余裕のある人がタダで行う「慈善活動」というとらえかたがまだまだ強い。仕事ではなく、片手間だったり、余暇だったり、という目で見られがちである。世の中のために立つコトで貢献したい、他人のためになるコトで尽くしたいと思っている若者がいる一方で、それを「男子一生の仕事」と捉えない社会がある。これが、大いなるアンマッチングを引き起こしているのだ。

仕事と認められていない以上、NPO職員、専従ボランティアとして生活を維持することは不可能である。もっとも、NPO法人や福祉法人がそういうスキームを認めることにより、公的なフレームがなくても、ある程度はフォローできるだろう。しかし、そこから派生して、クレジットやローンをはじめとして、NPO職員などの社会的信用度が確立していないのだ。いわば、「肩書」になっていない状態である。

企業や社会も、社会的責任を果たし、社会貢献をするという意識は高まっている。その結果、寄付をしたり、NPOの活動を金銭的に支援したりすることも増えてきている。しかし、本当に社会のタメになることを考えるのなら、「仕事」として社会貢献活動をしている人たちに対し、事業としての社会的信用を裏書することの方が先である。このアンマッチングを解消するのは、国ではなく、企業の役割だ。

では、資金はどうするか。それはまさに、「公共事業」の名の元に無駄に使われている税金を取り戻せばいい。「公共事業」の費用の半分以上は、天下りを支え、バラマキ行政を行うための資金となっている。本当に必要なヒトのメリットになっているのは、半分以下ででしかない。このような税金の使い道に対し、厳しい監査を行い、これらの資金を、官僚たちの手から取り戻せばいい。

「官」は、決して「公」ではない。「公」ぶっているのは、天下りやバラマキをゴマかすための偽装である。このように欺瞞に満ちた「公共事業」を、その主犯たる「官」の手から取り戻し、真の意味で「公」の立場に立った「社会事業」として組みなおす。政府・行政の手を通さず、税金として取られていた金の一部を、企業や個人が直接「社会事業」に振り分ける。まさに「三方一両得」である。そのスキームができれば、「草食男子」は、日本の未来を輝かせる救世主となる。


(12/03/16)

(c)2012 FUJII Yoshihiko


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