政治と金





政治と金はつきものである。少なくとも現代の日本では、金で買収して政治を行なうことは、法律で禁止されている。しかし、世の中は資本主義の原理で動いている。それなのに、なぜ政治においてだけ、金を基準とした判断するのが何で問題にされるのか。よく考えてみるとおかしい。これは、絶対的な倫理観ではなく、あくまでも相対的な価値観でしかない。そういう意味では、全てを金で判断する「金権政治」こそ正義である、という国や時代があってもおかしくはない。

詐欺においては、騙した方が悪いのではなく、騙されたほうこそ、欲の皮が突っ張っていたり、単純にアホだったりと、それなりに責任がある。多くの善良な人は、そういうウサンくさい話には、そもそもアヤしいと思って近づかないのが普通だ。だいたい、有名な詐欺事件の構成は、あまりに荒唐無稽で、第三者的に見るとスラップスティックの喜劇のプロットにしか見えないものが多い。騙される人は、こういう「ありえないストーリー」にこそ惹かれる。あきらかにどっかがおかしいのだ。

そういう意味では、政治における買収も、買収する方より、金で買収される方に責任がある。市場原理が正しい以上、個人が自分の金をバラ撒くことを規制する必要はない。利益誘導で、官僚が、天下の公金である税金からもたらされた予算を、あたかも自分の金のごとくバラ撒くのは許すことはできない。しかし、自分のリスクで自分の資産をバラ撒くのは、個人の自由である。政治家が、自分のリスクで自分の金をどう使おうと、外野の第三者が文句を言う筋合いのものではない。

金を撒く方は、そういう意味で自由である。もし、買収に問題があるとするならば、その原因は、金で心がなびいてしまうような、心の貧しい人のほうにある。「買収はご自由に」とした場合、そこには競争原理が働いている以上、誰が誰にどれだけ金を渡したかはチェックができない。そうなれば、賢いヒトはどこからもみな金だけ貰いまくるだろう。候補者全員から、同じように金をもらうのが一番おいしい。その上で、棄権するなり、買収とは関係なく自分の押す候補を選んだりすればいいだけである。

みんながみんな、あらゆるところから貰いまくるようになれば、買収などというものは成り立たなくなる。これがまさに市場原理の妙味である。自由競争が成り立っている環境では、独占や囲い込みは不可能なのだ。どこからでも貰うだけ貰っとけ。その精神さえあれば、買収などなくなる。だからこそ、買収をなくすためには、市場原理の力を借りて買収を自由化することで、買収して囲い込むことを事実上できなくするのが一番手っ取り早い。

妙に律儀に、お金をもらった相手に票を入れなくちゃ、と思うからいけないのだ。買収が悪いといいながら、お金をもらったらきちんと対応する。そういう妙な倫理観の方がおかしい。これさえなくなれば、政治と金の問題など起こりようがない。ある特定の一人からもらうと、律儀になりがちだというのなら、全候補者からもらってしまえばいいだけだ。一人一票である以上、全員にお返しをすることはできない。それなら、律儀に対応する必要などない。

おまけに資金をバラ撒く方でも、自前の財布から支出している以上、多くの場合その資金源が無尽蔵ということはない。ある限られた資金を、自分の判断で使っているだけである。そんなのは、お寺や神社のお賽銭みたいなモンで、配る方の勝手、自由でなくてはおかしい。余談だが、億単位の金を横領し、女性に貢ぐ事件が時々世間をにぎわす。しかし、そういう事件の舞台となるのは、決まって地方公共団体や公益法人、組合などである。こういう組織の資金は、民間企業と違い、税金のように湧いてくるものである。そうなると、使い込んでも罪悪の意識が薄くなってしまうようだ。

この問題は、規制よりは、自由化してしまったほうが、よほど健全である。もともと、日本の庶民はそんなに律儀じゃなかった。貧しいときは、来るものは拒ますで、誰からも何でも貰いまくっていたはずだ。たぶん、今の30以下の若者なら、0円感覚になれているので、ひとまず貰うだけは何でも貰っとこう、となる。これだと、買収しようにも効率が悪くて仕方ない。誰も政治に関して、金などバラ撒かなくなる。

規制とか一切やめて、すべて神の見えざる手に任せればいい。規制・既得権・許認可。これらは、相互に強く関係し合いながらその構造を深めていく、表裏一体のものである。その一方で、そのような利権構造を無力化するものとして、市場原理・競争原理がある。大きな政府と小さな政府。利権構造と市場原理。この両者は、水と油。絶対に交わることがない。ヘンな正義感やタテマエ論で言い換えることなく、自分はどちらを支持するのか、立ち位置を明確にしなくてはいけない時期がきている。


(14/03/07)

(c)2014 FUJII Yoshihiko


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