「言論の自由」の掟





少なくとも、現代の先進国においては、なにを言うことも、主張することも、自由が認められていることが多い。これは、いわば「発信の自由」である。それが「言論の自由」の基本となっている。それは言い換えれば、ある意見を発することは自由に出来ても、相手に聞いてもらえるか、受け入れられるかについては、相手次第であり、決して発信者の自由にはならないということを意味するる。

基本的に何か主張するときには、みんな自分だけが正しいと思っている。だから、違う意見同士がタイマン張ったら、どちらかが倒れるまで戦う、デスマッチになってしまう。一対一ならそうだ。しかし、言論の自由とは腕力勝負のタイマンの喧嘩でない。だから、数の勝負に持ち込み、より多くのを味方につけようとする。より多くの支持を得た方の主張が全体のオピニオンになるというのは、一応民主主義のルールとして認められているところであるからだ。

だが、数多くの受け手の側は、送り手の思い通りにはならない。そこにあるのは「情報市場」である。送り手には、機会の平等があり、誰でも自由にオピニオンを発表できる。しかし、それが受け入れられるか、支持されるかは、受け手の選択による。この構造は、まさに市場経済のマーケットと同じである。そこは、自由競争、市場原理に基づき、送り手も受け手も、一方的に情報を支配できないようにできている。

このように、言論の自由が実現しているということは、情報発信に関する機会の平等が実現しているとともに、そのオピニオンの選択について、自由競争のマーケットが成立していることを意味する。この二つがあってこそ、言論についての「自由」が成り立つ。どの意見が「輿論」になるかは、自由競争によって決まる。この意味でも、「自由」なのである。しかし、後者についてはあまり認識が高いとはいえない。

オピニオンを発信する人は皆、自分の意見だけが正しく、他の意見は間違っていると思っているから、自分の支持されないと不愉快になり、「フェアでない」と文句をいいたくなりがちである。しかし、それは自由競争のルールに反する。一旦自分の手を離れたら、それは市場の神の見えざる手に任せるのが、自由競争におけるフェアだ。オピニオンは発信された瞬間から市場のものとなり、発信者のものではなくなるのだ。

このように、自分の意見は一旦世に問うたら、それを自分でコントロールできるものではなくなる。その意見がウケるかウケないか、それは神のみぞ知る。まさに、神の見えざる手に預けてしまうのが、市場においてた公平でフェアなのだ。ここで、じっと神の見えざる手の審判を待つことの出来ない人では、言論の自由を守ることができない。プロダクトアウトではなく、マーケットインなのだ。

さらに受け手は、正しいかどうかではなく、好きか、面白いかで決める。SNSでは、最初に本人は真面目なつもりで書き込んだツイートが、多くの読者にとってはギャグでしかなく、ネタとしてリツイートされまくり、タイムリーな話題として盛り上がってしまうこともよくある。自由な言論のマーケットとはそういうものである。そうである以上、「口角、泡を飛ばして議論」するなど、愚の骨頂である。

言論の自由とは、単にみんなが勝手気ままに好きなことを言うという意味の自由だけでなく、オピニオンの評価も上から目線の権威ではなく、自由な競争の結果として受け手の評価、つまり市場の評価に委ねるという意味なのだ。従って、自由とはあくまでも門戸開放・機会の平等であって、結果の平等などではない。リベラルを自称したり、弱者を自称する人ほど、この掟がわからず、対立意見をすぐ「悪」として圧殺しようとする。

しかし、こういうヒトたちは根本的に間違っている。言論の自由には、もう一つそれが機能するための条件がある。違う立場の人にも、それなりに共存できる居場所を提供できてはじめて、自分の居場所も作ることができる。そもそも「機会の平等」を実現するには、これが担保されなくてはならない。だから、輿論のマジョリティーの支持を得られなかったからといって、自分の存在が否定されたり、居場所がなくなってしまうことには繋がらない。

そもそも自由とは、誰かから与えられ、保証される権利ではない。義務と責任を果たすことにより、自ら勝ち取るものなのだ。それを担保するものは、自助努力・自己責任でしかない。相手を否定することに生きがいを感じているから意識的にそうなのか、あるいは無知であるがために「自由の掟や意味」を理解できないのか、その理由はわからないが、ここをはき違えている人があまりに多い。言論の自由を実践している人同士は、声高に権利など主張しない。淡々と自分の意見を述べるのみである。


(14/11/14)

(c)2014 FUJII Yoshihiko


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