まだいるインターネット原理主義者





さすがにこれだけインターネットが普及し、老若男女を問わず誰もが使うベタなコミュニケーション・ツールとなると、初期の頃のエッジな論客によく見られた「インターネットが社会を変え、明るい未来がやってくる」とでもいうような、楽天的・ユートピア的なヴィジョンはかなり「イタい」発言として捉えられるようになってきた。声高にそういう主張をする人達も、かなり減ってきたことは間違いない。

そもそも、普及ということはボリュームゾーンが受け入れ、彼ら・彼女らなりの使いかたをし始めるということを意味する。言い換えれば、ベタになるということである。当然、その使われ方は、エッジなアーリーアダプタだけが使っていた時代のそれとは大きく違う。そういうトンガったヒトたちのような使いかたができる利用者は、構造的に少数である。その間はマニアックな世界であり、メジャーな普及など望めない。

さてそういう時代になっても、「インターネット原理主義」みたいなヒトたちは、決していなくはならない。ネット上のバーチャルな世界のものこそ正しく優れており、リアルな世界のものは、古く劣っているという、いわばインターネット至上主義者たちである。思想信条の自由なので、別にインターネットをどう思おうと構わないのだが、この人たちの気質は、なにやらインターネットを宗教のように捉えているかのようである。

世の中全体、特にボリュームゾーンである一般大衆からすれば、もはやリアルとバーチャルには境も違いもないというのが常識であるが、こういう原理主義者はそのような現実には目をつぶり、ひたすらインターネット世界の優位性を誇示したがる。まあ、それは現実を客観的に見ることができず、「こうあってほしい」「こうであるべきだ」という脳内妄想にひたすら依存しているからである。

こういうインターネット大好きなヒトほど、レガシーメディアを批判したがる傾向がある。今でも、既存マスコミは真実を伝えていないとか、なんでこういう重要な事実を報道しないのかといった主張は、インターネット原理主義者たちが好んで声高に叫んでいる。それは、個々の番組や紙面、解説委員の言動といった、個別具体的な対象に対して行なわれることも多い。

よく考えてみると、これは矛盾している。原理主義者たちが、本当にインターネットの情報伝播力を信じているならば、既存のマスコミが取り上げようが取り上げまいが、そんなのは意味を持たないはずである。ましてや、新聞などシニア層以外は読まなくなっているし、テレビニュースをハナから信じるおめでたい人もいない。マスメディアの影響力など、今の日本社会ではほとんどないことは、社会的常識である。

実は原理主義者たちは、現実を直視できないあまり、既存のジャーナリズムを過大評価してしまっているのだ。それに加えて「敵役は強くなくては困る」という法則も働いている。「アンチ安倍」な論者ほど、安倍首相を実力以上にプレゼンスのある存在としたがる傾向が強い。ホントにアンチなら、シカトするのが最善・最強の策のはずだが、実体以上に高く評価してしまう。これも、反対のための反対をする人達にとっては、敵が強いことが自分のアイデンティティーとなるから起きる現象である。

ましてや、インターネット上では、少なくとも発言の機会は誰にも平等に与えられている。それが支持されるかどうかはさておき、発言のプレゼンスは対等なはずである。であるならば、まずやるべきは他者の批判ではなく、自分のオピニオンを主張することである。オピニオン同士を受け手が横並びで比較し、どちらを支持するかを決めればいい。これがまさに、大衆化したインターネットの民主的な点である。

本来、インターネットのメリットとは、このように直接ボリュームゾーンの意見を反映しやすいところにある。しかしインターネット原理主義者は、自分達のオピニオンがマスのトレンドから乖離し、多数からの支持を受けられないものであることを知ってか知らずか、それと対極にあるような行動を取ろうとしているのだ。メリットをメリットと認識できない。妄想はあっても現実を知らない彼等ならではのスタンスといえよう。

けっきょくは、自分の意見を既存のマスコミに取り上げてもらいたいのである。もっというと、既存マスコミのお墨付きをもらって権威づけをしたいのだ。その願望がありありと感じ取れる。それは、一見批判しているようで、実は既存マスコミの権威やプレゼンスをみとめ、それにあやかろうとしていることに他ならない。なんのことはない、自分達が一番進んでいるようなコトを言っていても、けっきょくは一番教条的で権威主義的なのだ。こういう輩はウザイが、負け犬の遠吠えをさえてほっておくのが一番だろう。


(15/03/20)

(c)2015 FUJII Yoshihiko


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