所得の再配分





手を変え品を変え、相変わらず「振り込め詐欺」に騙される老人があとを断たない。毎週のように新しい手口の事件が、ニュースで報道されている。「振り込め詐欺」は、犯罪行為であることは確かだ。その意味では、断じて許されるものではない。しかしこれだけ社会的影響が大きくなると、法倫理的な縛りから離れて、純粋にその社会的な意味を考えることができるようになる。

その典型的な例は、経済効果であろう。振り込め詐欺を経済効果という視点からみると、「死蔵されている老人の金を、表のマーケットに引っ張り出す」という経済的意味から捉えることができる。それもこれだけ件数が多くなると、「振り込め詐欺『業界』」の規模も生半可な産業分野に匹敵するようなスケールになる。もはやその経済的影響は、産業連関表的にも捉えうるものとなっている。

確かにガメつい老人の蓄えは、そのまま棺桶に持っていってしまうことも多い。それが遺産相続されても、預貯金にまわることが多く、消費市場出使われる生きたマネーとなることは少ない。振り込め詐欺は、そういう棺桶に半分投げ込まれたような老人の貯金を巻き上げるが、それをまた溜め込むのではなく、飲み食いなり、遊興費なり、マーケットで消費している。そのまま溜め込むより、経済波及効果が大きいことは間違いない。

その意味では高い経済効果があり、広い意味では、社会的な「所得の再配分」にも貢献しているワケである。現代の日本では、所得の再分配といえば「累進課税」だが、このシステムは実は決してフェアではない。確かに、定額課税では低所得者が圧倒的に不利になる。従って、年貢や人頭税的な頭数に応じた定額の徴税は、現代社会ではあり得ない。この点はまず押えておく必要がある。

次に、定率課税か累進課税かという問題である。現代の日本社会では、一般に累進課税の方が公平だと思われているので、そういう制度が採用されているのであろう。しかし本当にそうであろうか。累進課税の方が公平なのであろうか。それは実はおかしい。客観的に見れば、定率課税でも公平性は充分に保たれている。逆に累進課税の方が公平ではない。それは税額でみればすぐにわかる。

実際に支払う税額を考えれば、定率課税でも、高所得者は所得の多さに比例して税負担が多くなる。所得が多ければ多い分だけ、正比例で税負担は多くなる。所得が10倍ならぜ税金も10倍、所得が100倍なら税金も100倍。なんとフラットで公平であることか。公平な税制なら、これでいいはずだ。こういう視点をベースに、累進課税を見て行くと、その矛盾点がよくわかる。

累進課税のように、所得が多額なひとほど高率の税金を支払わなくてはいけないというのは、所得が高いことを悪とし、それに対する懲罰を行なうという発想である。しかし、所得が高かったのは、当人がそれだけ企業家としてイノベイティブな成果を上げたからである。従って累進課税とは、努力に対する成果、すなわち人類社会の発展・進歩を否定する、社会主義的政策であるということができる。

ここで出てくるのが、この懲罰的なシステムを所得の再配分というお題目で正当化しようという論理である。しかし、これを公権力がやらなくてはいけない、公権力だけに許された権利であるとしてしまうのは、いささか短絡的である。アメリカ等で行われているように、寄付や慈善活動など、公的セクタを通さない、民間での直接的な所得移転に対し、税制上をはじめ数々の優遇措置を与えさえすれば、それでことは足りる。

分配するために官僚機構を作り、そのコストまで税金で負担するのでは、明らかにそのシステムを運用する費用の分が、丸々無駄になる。ましてや日本のように、そこに無意味な公益法人が介在し、何も仕事しない天下りの官僚の利権としてサヤを取っているのでは、何をかいわんやである。本来、困った人に再配分されるべき貴重なお金が、天下りの元官僚の私腹を肥やすために使われているのだ。

これでは、老人を騙す振り込め詐欺と、何ら変わらない。いや、まだ犯罪者は自分のリスクでこっそりやっているが、官僚たちは、罪の意識すらなく堂々と金を横取りしている。こんなことを許すわけにはいかない。官僚は、犯罪者以下である。その存在自体が悪である。小さい政府にすれば、このように悪なる存在である官僚は、自動的に一掃できる。

やはり、官僚天国になる大きな政府は、危険なだけで意味がない。無駄の巣窟である。やっていることは、「振り込め詐欺」の犯罪者集団と何ら変わらない。累進税制が所得の再配分という論理で正当化されるなら、「振り込め詐欺」も所得の再配分という論理で正当化できてしまう。これでいいのだろうか。やはり全てを市場に委ね、神の見えざる手の示すがままにするのが、やはり一番いい答えなのだ。


(15/06/05)

(c)2015 FUJII Yoshihiko


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