上を向くジジイ





団塊世代が高齢者の中核となる時期がきた。という以前に、日本の歴史上最大の人口ボリュームゾーンである彼らが、社会に扶養される高齢者の中核となることが、長く懸念されてきた少子高齢化の危機の本質である。そこで注目しなくてはいけないのが、「彼らには、高度成長期の刷り込みが色濃く残っている」という点である。右肩上がりの時代だから許された「社会的なクレジット払い」、すなわち行政によるバラ撒きへの願望が染み付いているのだ。

それは、彼らが身分不相応の高望みをしたがるところに如実に現れる。団塊世代は、太平洋戦争後のベビーブーマーである。そのマジョリティーを成す層のライフヒストリーを要約すると、以下のようになる。戦後農村部は、荒廃した都市部からの流出者や外地からの引き上げ者を大量に抱え人口が増大した。そんな全人口の7割以上を抱える貧しい農村部に生まれた彼らは、高校卒業後第二次集団就職で都会に上京してきた。そしてその多くは、大企業の工場にブルーカラーとして就職した。

この時点ですでに、自分の出自を隠し、上昇志向で成り上がろうとしてきた横顔がありありと見える。そして高度成長の追い風に乗り、「赤信号、みんなで渡れば恐くない」とばかりに、自分の貧しいルーツを隠して中産階級と偽り、郊外の団地やニュータウンに住まうことでその中に埋没した。それができたのは、高度成長期の給与体系は、大卒ホワイトカラーも高卒ブルーカラーも、同じ年齢で比べればそれほど大きな所得差はなかったからである。

この連中はバブル以降、高卒なのに全共闘世代、歌謡曲しか聞かなかったのにビートルズ世代と詐称している。嘘つきにも程がある。成り上がるためには、過去の書き換えなんてお手のものなのだ。世の中が刻一刻と変化し続けた高度成長の申し子には、分をわきまえるという発想がない。社会全体がものスゴいスピードで変化していたのだから、そこに紛れてしまえば自分の過去など詳細に詮索されることはない。確かに、それが許される時代の空気が高度成長期にはあった。

百歩譲って、彼らが生産人口だった間は、その成り上ろうと背伸びをするエネルギーが日本の高度成長、経済発展の原動力の一つだったことは認めよう。しかし彼らの、「常に満たされない不満を持っている」状態は、安定成長の時代には極めて危険である。その裏返しとして、成功者に対する怨念は半端でない。抜け駆けはさせない世代なのだ。そして今は、こやつらがバラ撒きを受けとるだけの高齢者になっている。これほど恐ろしいことはない。

我慢を知らないジジイ、満足を知らないジジイ。その恐さを思い知る必要がある。フードファイターの胃袋のように、満足することを知らないヤツら。連中は数が多いことも問題だが、それ以上に満足することを知らないのが問題なのだ。こいつらが、もっとよこせと日本の国富を食い尽くすのだ。白蟻のように、国の屋台骨をボロボロにしてしまう。これぞ日本国最大の国難。これに対して打つ手がなく、ひたすら神風だよりというのでは、いかにも心もとない。

昨今、年金制度の破綻の問題が、迫り来る危機として叫ばれている。確かに、未来永劫右肩上がりが続くのを前提に設計された年金制度は、多くの構造的問題を孕んでいる。それはそれで大きな問題なのだが、これが解決しない裏には、一旦手に入れた既得権は絶対に離さないという、強欲な団塊ジジイのケチ臭い根性があることを忘れてはならない。彼らが一旦握ったオイシイものを死守しようとするから、年金制度の改革ができないのである。

それ以上に、貰えるものは払った分以上に何でも貰おうとする根性にも問題がある。団塊ジジイ達は、農村共同体の大家族の中で育ったため、自分の責任で自分の面倒を見る「セルフヘルプ」の発想がない。とにかく「俺のモノは俺のモノ、他人のモノも俺のモノ」なのだ。手に届くものは、見境なく自分のものにしてしまう。年金をはじめとする利権も、手放さないだけでなく、本来貰う資格のないものまで「俺によこせ」といつ言い出すかわからない。

こいつらがボケ出したらどうなるか。これこそ日本の最期、考えてみただけでも恐ろしい。その貪欲さで、日本中の資産とリソースを食い尽くす。認知症の老人施設に行くと、ボケが進みすぎて、さっきメシを食ったことすら忘れて、まだ食べてない、まだ食べてない、俺にメシを食わせないのかとばかりに、四六時中メシを食いまくって過食症になっている老人によく出会う。これと同じで、どんなにバラ撒いてもバラ撒いても、何も貰っていないと怒って、もっとくれもっとくれと迫りまくる。

そう、満足することを知らないこの世代のジジイ連中が、ボケて自分がしてもらったことも忘れて不満を爆発させるのだ。これほど、恐ろしいことはない。まるで満腹を知らない食人怪物が、片っ端から日本人を食い尽くすようなもの。まるでゾンビが迫ってくるホラー映画ではないか。いや、ゾンビはSFXの産物だが、こっちはリアルな存在。モノホンのi生きてる妖怪。今そこにある危機である。

こりゃもう、世の中の役に立てる人だけ残して、この世代の凝り固まったジジイ達には、安楽死してもらうしかないかな。これで老人問題も年金問題も解決だ。まあそれは暴論にしても、確かにこの世代、貧しかった子供時代の栄養状態の悪さが影響して、前後の世代よりも平均寿命が短いといわれている。それなら結構ではないか。自滅するまで、熟れ柿作戦で待ちますか。そうすれば、日本もバランスの取れた国になるのでは。


(15/06/26)

(c)2015 FUJII Yoshihiko


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