道を拓くもの




道は、自分で拓くものであって、与えられるものではない。ましてや、与えられた道では、自分の望むこと、自分らしいことなどできない。これは、人間が生きてゆく上で最も基本的な掟といえる。人生のある時点でこれに気付いた人は、それ以降、自分らしく自分の道を歩いてゆけることになる。いいかえれば、その時点で自分を見つけたことになる。気付くのが早い人もいれば、遅い人もいる。しかし、気付くことが大事なのだ。

そこにいつどうやって気付くのか。その度合いは、人により、場合により、大きく違うであろう。明確な目標を明示的に認識し、そこに向かって意志の力で戦略的に進んでゆこうという、理性の力で自分の道を進んでゆく人もいる。その一方で、自分の好きなこと、やりたいことをひたすらやっていたら、創発的に自分の道を進んでゆくことになってしまったという人もいる。道を見つけられれば、どちらも正しいのだ。

このどちらのプロセスによって道を選んだにしろ、自分で気付いたのでさえあれば、その先に必ず答えは待っている。自分の道を進ませるモチベーションが、自分の内面から出ていることは共通しているからだ。ここが重要である。自分の道とは、誰かから教わるものではないし、形式知として学ぶものでもない。自分の外側には、答えはないのである。そこに気付かないから、「自分探しの無限ループ」にハマってしまうのだ。

学校は、仲間がいたり、出会いがあったりという意味では、自分の道を見つけるための手助けになることは間違いない。しかし、授業や勉強をいかにしっかりやっても、そこから自分の道を見つけられるわけではない。学校での「学び」は、あくまでも自分が自力で答えを見つけられるようになるための準備・訓練でしかない。それが本末転倒になり、テストで良い点を取ること自体が目的化してしまっているのが、今の教育界である。

部活も同じである。いくら必死に練習したところで、そこから自分の道が見えてくるわけではない。失敗や成功を繰り返す中から、自分の中におぼろげながら道を見つけ出す。それができてはじめて、クラブの活動の中から自分らしさを発見できる。野球部員が甲子園に出ることを目標に練習を繰り返し、まかり間違って甲子園に出場して優勝してしまうと、そこで人生燃え尽きてしまった生徒の例など、いくらでも見つけることができる。

いかに勉強し知識をつけても、その先に自分が見えてくることはありえない。だから、秀才は弱いのだ。秀才は、学ぶ能力こそ高いが、自分が見えていない。だから、学ぶことが目的化し、知識を付けて偏差値が上がれば、それで問題が解決してしまうと思い込んでしまうところが特徴である。それは、お金があれば幸せになれると思っているのと同じような「量の信仰」でしかない。どこまでいってもキリがない。上には上がある。だから、量で何かを実現することはできないのだ。

これに対し、天才とは生まれながらにして自分らしさが見えている人だということもできる。勉強はあくまでも手段である。目標があって、それを実現する一つの道として、先人の知恵を学ぶというやり方がある。これは決して間違っていないし、ムダなプロセスを省く上では大いに役立つ。しかし、先人の知恵は魔法の呪文ではない。それを知れば、全ての問題が解決するというものではないのである。

実は、これは世の中の道理である。ワープロは、文章を書く道具である。元々文章の達人で、たくさん文章を書く人なら、ワードの使いかたをマスターすれば、こと文章作成においては生産性が上がる。道具、手段とはそう言うものである。しかし、ワードの使い方をマスターしたからといって、たちどころに文章力が上がり文章が上手くなるわけではない。当たり前といえば当たり前だが、ここを根本的に勘違いしている人も多い。

学校で習う学問も同じである。目標が先にあって、それを実現する道具として学問がある。それをマスターした方が効率がいい人は、それを学ぶべきである。しかし、目的が曖昧なまま学ぶだけ学んでも、徒労に終わる。その徒労の成果を競い、そこで勝利したことに酔っているのが秀才なのだ。そして秀才にもなれず、自分が何たるかもわからず、ただただ誰かが道を与えてくれることだけを願っている人のなんと多いことか。

この分かれ道は、本当に些細なところにある。他人を信じて頼ってしまうのか、あくまでも自分の力しか頼るものがないと思うのか。学生時代にそれに気付くかどうかというのが、一つのポイントになる。いわば、最初のところのボタンのかけ違いが、最後まで響いている。しかし、だからといって気付くのはいくつになっても遅くはない。気付きさえすれば、流れは変わる。沈みゆく泥船から抜け出しチャンスは、いつでもあるのだ。


(16/02/05)

(c)2016 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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