コンプレックスを、理屈で正当化するな




コンプレックスというのは、自分がそれを望んでも実現できないという不満から生まれてくる。しかし、それは当たり前の摂理。できないことを望むのが、そもそも間違っている。だから自分を客観的に見つめ、自分の立ち位置を第三者的に見られる人なら、コンプレックスを感じることはない。自分の気に入らないところ、自分の成り足りないところも、素直に受け入れることができるからだ。それができるなら、自分の不満点も自業自得というか、自分の責任だから仕方ないと思える。

すなわち、コンプレックスを感じている人というのは、「我慢できない」人なのだ。コンプレックスとは、己を知らず、分をわきまえず、高望みしているだけの状態である。自分がある状態に置かれたとき、それを幸せと思うのか、不満に思うのかは、本人の心がけ次第である。幸せと思えれば、そこからグッドサイクルが始まる。不満と思ったら、そこからバッドサイクルに陥る。どちらの道を進むかは、自分の気の持ちよう次第なのだ。

まさに、それが悟りである。足るを知れば、悟れるのだ。すなわち、悟りは自分が現状を受け入れることに他ならなない。高望みせず、分をわきまえるのが悟りである。決して、高度な修行が必要だったり、高尚な理論を学ばなくてはいけなかったりするわけではない。今を認め受け入れるという、気の持ち様一つで悟りを開けるのである。逆に言えば、悟りを開けない人は、自分自身を自ら不幸にしているのだ。

煩悩にさいなまれている人達である。そもそもその原因が自分にあるということを認めようとしない以上、こういう人達は、他人が悪い、社会が悪い、とその原因を自分の外側に求めようとする。他人のせいにしてしまうと、その瞬間から妬み・恨みが生まれる。うまくやってるヤツがいて、不幸な自分がいる。その原因はあいつだ。実は、みんな同じように楽しいこともあると同時に、辛いことも抱えている。それでもあるがままの自分を受け入れていれば、幸せになれるのだ。

この分かれ道は、より自分に厳しくするか、それとも他人に甘えてゴマかすか、という選択にある。ここが人生の幸せと不幸せの分かれ目だ。他人に甘えてゴマかそうという人が多い理由は、日本の近代史にある。すなわち、世界でも稀な高度成長の時代である。急勾配の右肩上がりで経済が急成長した高度成長期は、誰もが皆オイシイ分け前にありつけた。いわば、社会に甘えていられた時代だった。

頑張って売り込まなくても、ルートセールスでいつもの取引先から注文を受けるだけで、ノルマは達成できた。だから、平日昼の映画館は、外回りの営業マンが余った時間を潰そうと集まり、いつも満員だった。街の喫茶店も、インベーダーゲームに興じるサラリーマンがあふれていた。利益という概念がなく、売り上げとシェアだけだったので、それが許されていたのだ。

こういう時代なら、バスに乗り遅れても、次のバスがすぐにやってきた。だから甘えが許されたし、おいしい汁を吸えなかったからといって、ひがんだりすることもなかった。他人に甘えてゴマかす体質は、この時代に培われたものである。自分に厳しくしなくても、昨日の自分より今日の自分、今日の自分より明日の自分のほうが、間違いなく幸せで豊かになっている。これでは、ノブリスオブリジェの精神を持っている貴族的な人以外は、悟りを開けるワケがない。

そのような精神にどっぷり浸ったまま、バブル崩壊以降の安定成長の時代を迎えた。これとともに、チャンスを捕まえられる人の数は激減した。にもかかわらず、人々の意識は高度成長期のまま。成功した人間とそうでない人間の差が激しくなれななるほど、妬み・恨みは顕著になり、コンプレックスを持つ人間は多くなる。ある意味、この時期から企業などでメンタルヘルスが大きな問題となってきたことと理由は一緒である。

特に昨今は、コンプレックスをトンデモ理論のへ理屈で正当化しようとする人達が顕著である。SNSなどでは、陰謀論やエセ科学理論が花盛りである。こういう「理論」の支持者もまた、へ理屈でコンプレックスを解消したがっている人達である。まあ、それで気が晴れるのなら、他人に迷惑をかけない範囲なら別に勝手にやっていればいいのだが、「結論」が出ない以上、これでは永遠に解決しない。

わかる人がわかればいいのだ。悟った人だけが救われる。すなわち、分をわきまえて我慢ができるひとは幸せになれる。そういう人がだんだん増えてくれば、世の中は明るくなる。テストで、答えが出せた人から帰ってよろしい、というようなもの。今を受け入れられる人が過半数になれば、社会は活性化する。日本を元気にするには、これが一番。結局は、気の持ちようなのだよ。


(16/02/12)

(c)2016 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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