マスコミを批判する人達





昨今、またぞろマスコミ批判をよく目にするようになっている。一億総評論家ではないが、UGMの普及により自分の意見を主張した気になれる場面が増えたせいか、何か事が起こると、すぐマスコミのせいにする人が多い。それでは、こういうマスコミの批判者は「アンチ・マスコミ」なのかというと、決してそんなことはない。ここを読み間違ってはいけないのだ。

マスコミを批判する人は、実はマスコミが大好きな人である。それどころか、マスコミに権威を求めている人なのだ。マスコミのプレゼンスを認めているからこそ、その強さに反発することで、自分のアイデンティティーを築こうとしている。本当にアンチ・マスコミでマスコミの権威を認めていない人ならば、そもそもマスコミに言及することもないし、批判することすらバカバカしいと思うはずだ。

この構図で思い出されるのは、野球における「アンチ巨人」のことだ。昔から、野球ファンの中には「アンチ巨人」と呼ばれる人達がいた。この「アンチ巨人」の人達は、実は人一倍濃い巨人ウォッチャーであった。巨人が嫌いとはいうもの、読売巨人軍の一挙一動が、気になって仕方ないのである。その結果、一般の巨人ファン以上にジャイアンツの動向をチェックしていたりする。アンチ巨人の人達は、巨人のことなど見るのもいやなのではなく、ジャイアンツの存在を当然のものとして受け入れている。

彼らにとっては、ジャイアンツが強くて権威でなくてはいけないし、たとえば阪神がそういうジャイアンツと戦うところを見たいのである。勝てば、そういう強いスターを負かしたという喜びに浸れるし、負けても、憎々しいほど強いと恨みをぶつければ溜飲が下がる。これを味わいたいからこその「アンチ巨人」である。実は巨人軍の権威というのは、巨人ファンではなく、こういう熱烈な「アンチ巨人」野球ファンが下支えしているのだ。

これと同じである。マスコミを批判する人は、マスコミに権威を認めるし、マスコミが権威であってほしいと願っている。これを前提として、そういう「強いマスコミ」を批判することではじめて、自分のアイデンティティーが保てるのである。その一方で自分のオピニオンをキチンと持っている人は、マスコミやジャーナリズムの提供する論点も、いろいろある意見の一つであり、自分の意見と並列的に捉えることができる。

そういう意味では、マスコミ批判をする人は、権威主義的で価値観の多様性を受け入れられない。価値観の多様性を認める人なら、自分の意見とマスコミの論調は対等であり、どちらも同じ「オピニオン」として尊重されるべきものであるものとして捉えることができる。たとえじぶんと意見が違っていても、「勝手にやってくれ」と思うだけで、わざわざ批判したり反論したりといった、無駄なエネルギーは使わない。

ここでカギになるのは、「自分の意見を持たない人にとっては、マスコミはどう見えるのだろうか」ということである。この視点を見失ってはいけない。権威が欲しい人たちにとっては、マスコミが権威になって欲しいのである。その権威を批判することで、自分を権威付けしたいのだ。だから、TPOが変われば、一気に権威としてのマスコミに擦り寄ろうとする。いずれにしろマスコミのプレゼンスを認めた上で、「寄らば大樹の陰」としでそこにすがりたいのだ。

そう考えてみると、SNSとかでも、すぐ報道機関やジャーナリスティックな視点を持ったブロガーの書き込みをフォローすることで、自分の居場所を作ろうとする人が多いこともよくわかる。これもまた権威を認めてその後光にあやかりたいだけだ。こういう人達に共通するのは「自分の意見がない」ということである。自分の意見があれば、いつどこでも自分の居場所を作ることができる。しかし、自分の意見がない人は権威にすがることでしか、自分の居場所を作れない。

いわば無い物ねだりである。これが嵩じてくると、「自分を救ってほしいのに、相手にしてくれない」とか、かなり屈折した屁理屈をヒネり出してくることになる。これでは、赤ん坊が駄々をこねているのと同じではないか。全く乳離れができていない。こういう人は、子供の頃、服を着替えるのも、風呂で体を洗うのも、なんでもかんでも親掛かりでやってもらったのではないだろうか。

「自分の意見を持つ」というのは、誰かにしてもらえることではなく、自分でやらなくてはならないことなのだ。トイレで「お尻を拭いてくれない」と文句を言っているようなものである。手が届かないなら、ウォシュレットでも使えばいいのだ。誰かに拭いてもらおうと思うな。ましてや、誰かが拭いてくれることを期待するな。とはいえ、これができない人が成人日本人男性にはかなり多いんだよなあ。困ったことに。


(17/05/05)

(c)2017 FUJII Yoshihiko よろず表現屋


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