エフェクター・トーク(はじめに・その1)




はじめに


ギター用のコンパクトエフェクターが使われてるようになってから、30年近くが経った。その間にいろいろな原理のエフェクターが発明され、おびただしい数のブランド、モデルが市場に流通してきた。ここ数年はエフェクターでも「ヴィンテージ・エフェクター」として、初期のイクイップメントにはプレミアムがつき、高額で取り引きされている。それだけでなく、ヴィンテージもののプレミアエフェクタを専門に扱うショップさえ登場している。果して、ヴィンテージエフェクターは現行モノと違うのか。違うとすれば、どこがどう違うのか。それは金を積むだけの意味があるのか。この問題にきちんと答えてくれる情報はほとんどない。
ヴィンテージ楽器の市場が、基本的にはアメリカ市場をベースとしているだけに、日本でもヴィンテージマーケットは「買い手の自己責任」が基本になっている。何をいくらと値付けようが、それは自由。それで買うか買わないか、値切るか値切らないかは、買い手が判断する。それだけに、本当に価値があるかないかを判断する情報のないヒトにとっては、なかなかリスキーな市場でもある。それだけでなく、無責任な情報に踊らされてしまう危険性も大きい。
ぼくはプロのプレイヤーではないし、(人前に出して恥ずかしくないだけのテクニックは持っているのは確かだが)超絶技巧のテクニシャンでもない。しかし、少なくともそのギターとアンプの持つ一番ナチュラルで美しい音を出すことについては、誰にも負けないものがあると自負している。ぼくのプレイスタイルも、アンプの生音中心で、あまりエフェクターをかけまくるタイプではない。それだけに、各エフェクターについての評価は、思い入れなく、より客観的にできると思う。ここで述べる情報を、今後ヴィンテージ・エフェクターを手にとるとき、何かの参考にしていただければ幸いだ。


その1. ヴィンテージエフェクターの真実


(ディストーション・オーバードライブ編)





(1) Ibanez Tube Screamer TS-9
IbanezのTube Screamerには、いくつかのバリエーションがあり、店頭では、ヴィンテージの緑のダイキャスト製のボディーのモノ、プラスティック製のタンクボディーのモノ、ときどき再生産されるヴィンテージの復刻タイプを見かける。結論からいってしまえば、これらは回路的には全く同じで、基本的には差がない。もちろん、経年変化や時代ごとのデバイスのクオリティーの差とかがあるので、回路が同じなら音が同じとはいえないが、ことTube Screamerの場合には、実用上も差がないということができる。それは、Tube Screamer特有の使われ方による。
Tube Screamerが人気があるのは、このエフェクタ固有の音色によるのではない。TS-9からJCにでも繋いで音を出してみればすぐわかるが、これ自身のディストーショントーンは、へなへなしていてとても使えた音ではない。特にロックでの使用はかなり辛いものがある。ではなぜ、プロのロックミュージシャンに人気があるのか。それはTS-9が単体のエフェクターではなく、チューブアンプ用のブースターとして、最高の使い勝手があるからだ。
ブースターというのもけっこう難しいものがある。単にインプットレベルを上げただけでは、プリのアタマのところで歪みすぎてしまい、ブザーのように潰れた、ニュアンスのないブーミーな音になってしまう。ブースターのところで音を太くしすぎても、せっかくのチューブアンプのヌケの良さを損ねてしまう。ブースターが、ツイードやオールドマーシャルのようなシンプルなワンボリュームタイプのアンプほど必要とされることを考えると、なかなかベストフィットするモノはない。
そんな中で、Tube Screamerは実に使い勝手がいい。ドライブを0〜2ぐらいにとどめ、アウトプットを調節していい歪み具合を作る。ちょうど、アウトプットがゲインコントロールのようになる。こう使ってこそTS-9は生きてくる。ということは、TS-9自身の音のクセは余り出てこない状態で使い、アンプの持ち味を活かすということだ。これならば、もし微妙な音の違いがあったとしても、ほとんど関係なくなってしまう。かえって昔のモノだと、使用状況によってはノイズが出てしまい、使い勝手が悪いということもある。もっともプラスティックボディーのヤツは、アクションの多いステージでは使いにくい面もあるが、そういうときは復刻版を選べばいいだろう。

判定: 復刻版で充分、ヴィンテージの意味無し



(2) Boss Overdrive OD-1
オーバードライブの原点ともいえるBossのOD-1。これは確かに日本が生んだエフェクタの銘器といえる。これははるか昔にディスコンになってしまった。Bossの現行ラインナップには後継機種はあるものの、復刻版はない。ということで、OD-1が欲しければ、現物を手に入れるしかないことだけは確かだ。となると評価は、OD-1でなければ出せない音、できないことは何か。それがどのくらい価値のあるものかというところにかかってくる。ぼく自身、OD-1は初期型を新品で購入しているので、当時の使われ方を思い出しながら見てゆこう。
OD-1の利用には、大きくわけて2通りのタイプがある。一つはTS-9のところで述べたような、ブースターとして利用する方法。もう一つは、OD-1自身のオーバードライブトーンを活かして音作りをする方法だ。前者については、はっきりいってTS-9のほうが上だ。それは、TS-9をブースターに使った音のほうが、OD-1をブースターに使った音よりヌケが良く、チューブアンプの個性をより豊かに活かすことができるからだ。もちろんOD-1をブースターに使った音も充分個性があり、そのニュアンスが好きならこだわる価値はあると思う。だが、これは好き嫌いの問題になってしまうので、一般評価とは別のモノだと思う。
一方、OD-1固有のトーンを活かす使いかたにはどんなものがあるだろう。OD-1の音が、その後の後継機種と違っているのは、その生まれた時代背景を感じさせる音色で使った場合だ。それは、ごく軽いオーバードライブをかけたときに出てくる、かなりコンプレッションがかかった、余り歪み感のないトーンということができる。まさにフュージョン、AORを象徴するような、この甘くてクールさもあわせ持つトーンこそ、OD-1の真骨頂といえるだろう。さらにギター側にコンプレッサーをつなぎ、インプットをブースト気味にすると、このニュアンスはさらに強調される。
このサウンド自体は、コンプレッサーとオーバードライブの組合せでフォローできないこともない。事実、Bossのマルチ・エフェクターでなら、かなり似た音を作ることができる。しかし、ニュアンスという意味ではどんズバにはならない。その一方で、ドライブを上げていった場合は、OD-2、OD-3といった後継機種と余り差がなくなってしまう。従って、ドライブしたトーンのギターが中心になる音楽では、OD-1である必然性は薄いといえるだろう。

判定: フュージョン・AORサウンドにこだわるヒトにとってのみ必須アイテム



(3) Marshall Gov'ner
これまた、ヴィンテージディストーションの御三家の一つ、マーシャルのガバナー。これには、80年代のイギリス製のものと、近年韓国で作られたものとがある。しかし、この両者は外観こそ似ているモノの、回路が全然違い、音も全く傾向が違う。韓国版は、オーソドックスなディストーションの英国版とは違い、メタル的なドンシャリサウンドに向くチューニングになっている。これはこれでテイストは違うモノの、それなりの明確な設計意図を持っている。従って、復刻版というより、モデルチェンジ版、もしくは別モデルと考えたほうがいいだろう。
だから、イギリス製のガバナーの音がほしければ、本物を手に入れる必要がある。そこで、ガバナーの音の特徴について考えてみよう。多くのエフェクターがそうであるように、ガバナーもまたそれが生まれた時代の音楽的背景を抜きにしては語ることができない。ガバナーの醍醐味は、80年代のハードロックの復興期、NWOBHMブーム以降のギターサウンドにある。ガバナー自体は比較的いろいろなトーンを出し得るが、無理なく出せて一番おいしい音は、この80年代ハードロックサウンドといえるだろう。
絵にかいたようなディストーションサウンドで、中音域の倍音ももりもりついてくる。だから、当時ハヤったロック式トレモロ+アクティブPUみたいなギターでも、厚味のあるソロやリフが奏ける。そのサウンド自体は、他のエフェクターやプリアンプを組み合わせて作れないモノではない。しかし、それが一台でできるというところが魅力だ。
そういう面では、ガバナーはエフェクターというより、ペダルタイプのプリアンプと考えたほうがいいイクイップメントだ。実際エフェクトループもついているし。だから、当時よくいわれたように、JCとかフラットなソリッドステートアンプと相性がいいというのもうなずける。プリアンプである以上、音作りは良きにつけ悪しきにつけこの中で完結している。だからチューブアンプとの相性は悪い。チューブのニュアンスは死んでしまうからだ。そういう意味では、決してなんとかアンプのシミュレーターではないし、ましてやチューブアンプ的なニュアンスを期待するモノでもない。これがわかった上で使いこなせば、ガバナーを持つ意味はあるだろう。プレミアム付きでも、ディストーション・エフェクター+ラックマウント・プリアンプの組合せを買うよりは確実に安いからだ。エフェクトループもぜひ活かしたいものだ。それでこそプレミアムを出して買う意味があるというものだ。

判定: 80年代ハードロックサウンドを狙うなら、プレミアム付きでも割安



(4) Chandler Tube Driver
これは、日本では今一つプレミアム度が低いが、アメリカでは御三家以上に人気のあるエフェクターだ。オリジナルは80年代にChandlerから出されていたが、その後モデルチェンジがあり、オリジナルタイプは一度ディスコンになった。このモデルチェンジ以降のモデルは、現在も発売されているが、ケースこそ似た外観ではあるものの、コントロールツマミの数が違うことからもわかるように、回路からトーンニュアンスから含めて、全くの別物である。しかし、近年chandlerから権利を買い戻し、Tube WorksからOriginal Tube Driverとして復刻版が出されている。従って、オリジナルモデルと復刻モデルの比較ということになる。
Tube Driverの使いかたは、一言でいえば「チューブ版のTS-9」ということになる。つまり、ディストーションやオーバードライブとしてではなく、あくまでも音に厚みをつけるブースターとして使ってこそ意味のあるイクイップメントだ。当然コンビネーションを組む相手は、これまたヴィンテージ等のワンヴォリュームタイプのチューブアンプだ。従って、TS-9等に対するアドバンテージは、アンプまで含めてオールチューブであることによる音質のナチュラルさ、レスポンスのリニアさだ。
これこそまさに、プリアンプのアタマにもう一段、ゲイン調整の増幅段を加えた状態に限りなく近い。当然、ドライブはミニマムに近い状態で使うこととなる。チューブプリは歪ませ方が難しく、単にゲインを上げただけでは、線の細いビチビチした汚い音になってしまう。だからこそSoldanoやCAEのプリアンプのセッティングはすばらしいし、それらはバカ高いということになる。しかし、歪ませない状態で増幅する分には、そんな秘伝の技法はいらない。
もうおわかりとは思うが、Tube Driverが求められる状況では、そんなに難しい回路のセッティングが必要ではない。逆に、こういうナチュラルなままゲインが稼げるチューブエフェクターが他にないからこそ、Tube Driverに人気が集まっているともいえる。確かに、全く同じ音とはいえない。それはチューブなので個体差もあり、経年変化も大きいからだ。だがこと出音と使い勝手で考えるなら、復刻版を使っても何ら違いはない。ましてや、この手のエフェクターはライブでこそ必要になる。それなら、安定感のある新品の魅力は大きい。

判定: 実用性なら復刻版がGood、余程アタリの個体ならヴィンテージも



(5) Proco RAT
RATが登場したのは、80年代の後半。それでいて初期モノにはプレミアムがついているというのだから、恐ろしいといえば恐ろしい。しかし逆に考えると、「古いから高い」というのとも違うワケがあるということだ。プレミアムがつくには、古い以外に作りが違うという理由がある。確かに、その後のRATシリーズの製品と比べると、初期モノはよくできている。というより、ヒットするまでは手間とコストをかけていたモノの、売れ出してからは、どっか手を抜かないと対応しきれないという、世のしがらみにつかまってしまったというべきだろう。
そういう意味では、RATを使いたい、RATの音がほしいというのであれば、間違いなく初期モノを使うべきだ。迷う必要はない。しかし多くのプレーヤにとってここで考える必要があるのは、「では今RATの音を使うという意味がどこにあるか」ということだ。80年代半ばから後半にかけては、RATの存在は革命的だった。音ヤセがないばかりか、充実した豊かな倍音特性は、実に太く存在感のあるサウンドをもたらした。それまでの「クリップサウンド」ではなく、アンプをドライブさせたような表現力に富んだ音だった。これだけならBossのオーバードライブシリーズ等、かなりの線にせまっていたエフェクターもあった。しかしそれだけでなく、ピッキングニュアンスを潰さず、かなりリニアにニュアンスを残したドライブサウンドが出せるエフェクタとなると、もうRATしかなかった。だから猫も杓子も使い、大ヒットした。
しかし、その後のエフェクターの技術的進歩はすばらしい。多くのオーバードライブ系エフェクターが、RATを越えるサウンドとニュアンスを目指し、それを実現してきた。今となっては、極端なセッティングはさておき、RATの出せる「いい音」「美しい音」の8割〜9割は、他のエフェクターでも、機種とセッティングを選べば実現可能だ。確かにRATでなくては出せない音はあるが、それはそんなに多くはない。どちらかというと多くのヒトがRATに期待している音は、実は他のエフェクターでも出せる音だ。これがわかっていることが、プレミアム付きRATを買うかどうかの大きな境目になる。

判定: 本当にRATでなくては出せない音がほしいのか、よく見極めた上で手を出そう



(6) MXR Distortion+
近代オーバドライブエフェクターの原点ともいえるのが、このMXRのDistortion+だ。それまでにも、ファズ、ディストーションといった「歪み系」のエフェクターはあった。しかし、それらはトリッキーで非日常的な歪み感を出すためのモノだった。そんな時代に登場したDistortion+は、それら「古典的歪みモノ」と違い、チューブアンプのドライブ感をシミュレートしたような、ナチュラルで、プレイニュアンスを残したサウンドに特徴があった。今となってはなつかしいサウンドではあるが、これはこれでなかなか味わいのある音だといえる。
回路的には特別な工夫をしたモノではなく、古典的なダイオードクリップ回路ながら、セッティングの妙でサウンドを実現しているところが特徴だ。従ってハードに歪ませようとすると、先祖帰りを起こしてしまう。これはこれで裏ワザ的な使いかたができるのだが、基本的にはライト・ディストーションの範囲で使うのがDistortion+の王道だ。その意味では、クルセイダースの頃のラリー・カールトンに代表されるような、まだフュージョンというジャンルができる前のジャスロック、ジャズファンク、初期イーグルスのような70年代ウェストコーストサウンド、といった曲のソロにはベストフィットといえるだろう。
そういう音楽が今でもある以上、Distortion+も現役だ。それだけでなく、Distortion+ブースター的使用が可能になった最初のエフェクターだ。特にチューブアンプではなく、他のディストーション系のエフェクターとのコンビネーションで使うブースター的セッティングには、Distortion+ならではのものがある。当時は、OD-1とDistortion+のコンビネーションなどもよく使われた。Distortion+には70年代以来何タイプもあるし、現在も復刻版が作られている。しかし回路がシンプルなだけに、これらはそんなに音に違いがない。おまけにこのDistortion+、そんなにプレミアムがついていない。初期モノでも、せいぜい復刻版の定価+αといったところだ。そういう意味では、どれを選んでもそんなに違いはない。しいていうなら、現行モデルのほうが70年代物よりもノイズが少ないと思うので、スタジオで使うなら現行品のほうがいいかもしれない。

判定: どれでも同じ、好きなのを買えばいい



(7) DOD Preamp 250
このエフェクタ、Preampと称しているが、基本的にはライト・オーバードライブ系のイクイップメントだ。ここまで読んで頂けた方にはもうおわかりだと思うが、このPreamp 250も、チューブアンプのブースターとして使ってこそ価値が出るし、そのために人気もある。日米の住居事情の違いもあるとは思うが、彼の地では日本みたいに「ラインレベルで音を作ってしまう」というのは必ずしも一般的ではない。そういうやり方は、スタジオマンに限られると言っていいだろう。
多くのロックギタリストにとっては、「アンプはフルテン」が常識だし、それが許されてもいる。おいおいディストーションエフェクターとしても、「音を作り上げる」タイプよりは、ソロのところ、リフのところで、音を大きく太くするタイプが求められることになる。エフェクターもブースターとしての使い勝手が問われるのはこのためだ。よくブースター内蔵ギターとか、はなはだしきはブースター内蔵ケーブルなんてのが商品として成り立つのも、アメリカならではの事情がある。
さてこのPreamp 250、DODのエフェクターらしく、音が粗っぽく暴れるのが特徴だ。TS-9とかは、日本製らしく繊細なブースト感だが、これでブーストすると実に粗っぽい音になる。アウトプットのレベルも相当に高い。その意味で個性がキワだっており、これでしか出せない音というのが存在する。だが、ブースターの常として、作りの良し悪しがそんなに音に関係しないのも確かだ。70年代末からのヴィンテージモノと、90年代に入ってからの復刻版とがあるが、Preamp 250を使った音という意味では、どちらも西部の荒くれ者といった感じの、アメリカンなサウンドがする。充分個性は生きているし、多少の違いがあったとしても、感じが似てれば気にしないというほうが、そもそもアメリカンではないか。

判定: このサウンドが欲しいヒトなら、復刻版でも満足できるはず



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