エフェクター・トーク(その2)




その2. ヴィンテージエフェクターの真実


(コンプレッサー・空間系エフェクター編)





(1) MXR Dyna Comp
ギター用コンパクトエフェクターに「コンプレッサー」というジャンル自体を創り出したオリジネーターといえるMXRのダイナコンプも、ヴィンテージエフェクターとして人気が高い。70年代のエフェクターらしく、その後のどのコンプレッサー・リミッターとも違う独特の効果は、クセが強い分好き嫌いはあるものの、いまでも根強いファンがいる。一瞬のタイムラグとともに強烈なコンプレッションがかかるため生まれる、「パッコーン」という感じのエンベロープは、力強ささえ感じさせ、どちらかといくとクールな音色になる他のコンプレッサーとは根本的に違うテイストを持っているからだ。ストラトとのコンビネーションで生まれる、ロウェル・ジョージ風のスライドプレイ。ES-335とのコンビネーションで生まれるタイトな16ビートカッティング。レスポールとのコンビネーションで生まれる、クリーンな鳴きのトーン。どれを取っても、クールでクリーンなトーンの中に、パワフルなドライブ感が同居しているところが身上だ。これがほしければ、Dyna Compを使わざるを得ない(今ならTECH21のComptortionという選択もあるが)。しかし、Dyna Compは長寿モデルであり、長く生産されていた上に、今も復刻モデルが販売されている。したがって問題は、ヴィンテージものにプレミアム価値があるかということになる。確かに、これだけ生産期間が長いと、時期によりパーツや仕様に変更がある。音も違うといえば違う。だが、それはギターやアンプ、奏法の差と比べればわずかなもの。どの時期の製品でもちゃんとDynaCompの音はする。それだけでなく、初期モノと現行の復刻品を比べると、コンプレッサーの命ともいえるノイズ対策で、現行品の方に一日の長がある。従って、コレクター的関心ではなく、使うために買うのなら、現行の復刻版の方がおすすめだ。

判定: 復刻版で充分、ヴィンテージはかえってノイジーで使いにくい



(2) Dan Armstrong Orange Sqeezer
これほど潔いエフェクタも他にはないだろう。本体から直接突き出た標準プラグ。on/offスイッチだけのコントロール。ギターの出力とシールドの間に直接挟み込み、on/offを選択するだけという「超デジタル(笑)」なアナログデバイスだ。しかし、そのプリセットセッティングが絶妙であるがゆえに、このエフェクタは他に代え難い味を持つし、その存在意義もある。これはコンプレッサーというより、昔あって今は死滅したエフェクターのジャンルである「サステイナー」に近い。アタックはほぼそのまま通す代り、サステインの部分はどんどんコンプレッションをかけて持ち上げる。そして、信号があるレベルを割ると、自然なリリースで減衰してゆく。音的にはナチュラルなまま、サステインの部分のみレベルを持ち上げるわけだ。その効果をコトバにするとこういうことになってややこしいが、とにかく音を聞いてみてほしい。わかる人なら、「フュージョン・AORのバッキングの音」と思ってくれればいだろう。16ビートのカッティングやワンノートバッキングが代表的な使いかただ。これを使うと音の粒がそろってくるので、その手の音楽に欠かせない、厚みがあって粒の揃ったキレのいい音になる。ラックタイプのリミッターならば、セッティング次第で同様のサウンドを作ることも可能だ。だがポケットに入る機動力もあり、プレミアムもそれほどではないので、それよりは安くてお手軽という魅力もある。一度その可愛い外観を見ると、なぜかほしくなる妙な魅力も持っている。その手の音楽が好きで、ES-335を使っているような人なら、持っていて損はない。なおOrange Sqeezerには、1980年代に入ってから日本もしくは韓国で生産されたバージョンがある。パネルの色が濃く、スイッチのつまみが白いのが特徴だ。しかし、こっちはセッティングが違い、普通のコンプレッサーになってしまっている。買うならオリジナルのアメリカ製のバージョンであることを確かめてからにしよう。

判定: 独特な効果は他に代え難く、欲しければプレミアムも覚悟せよ



(3) Electro Harmonix Small Stone
キワモノエフェクタの宝庫として名高い、エレクトロ・ハーモニックス。その中にあってこのSmall Stoneは、比較的オーソドックスな効果を持つマシンとして異彩を放っている。基本的には、MXRのPhase90に始まるシンプルなフェイズ効果の延長線上にあるかかりだ。しかし、どちらかというとレゾナンスが強く、そのレゾナンスの効き具合も2段階に切り替えられるところに特徴がある。当時としては、これは大きな差別化のポイントだった。MXRのPhase90が、どちらかというと音が甘く太くなり、ソフトな感じの効果だったのに対し、Small Stoneはシャープでキレがよく、ソリッドな感じがでるということで使い分けられていた。フュージョン界の人気グループ「スタッフ」のギタリスト、故エリック・ゲイルが愛用し、フルアコのギブソンスーパー400で16ビート・カッティングをするときON、フルアコの甘い音を切れのいいサウンドにしていたのもなつかしい。さて、レゾナンスのかかりが珍しがられたのは、あくまでもフェイズシフターがワンコントロールだった時代のこと。TC Electronicsのフェイザー以来、コントロール可能なパラメーターが多くなってからは、できて当たり前の常識になってしまった。最近のマルチエフェクタに組み込まれているフェイズシフターならば、ほぼ同じ音をシミュレートすることは容易にできる。したがって、この音がほしいというのなら、あえてオリジナルを買う必要はない。まして再生産版など意味がないといえる。もっとも、エレハモのエフェクタの持つ、ブリキのオモチャを思わせるチープでキッチュな感覚(外観も音も)には、妙な魅力がありコレクターも多い。そこまで割り切ってコレクターとして買うならば、まずは押さえるべき定番アイテムかもしれない。

判定: エレハモ・コレクター以外にはオリジナルの必要なし



(4) Maestro/Mutron Bi-Phese
フェイズシフターといえば、フェイズシフター界の戦艦大和ともいえる巨艦、Mutron Bi-Pheseも一部でカルト的な人気を誇っている。もっとも、これは往時の新品価格が20万近くしたこともあり、それを考えればプレミアムというところまでは上昇していないかもしれないが、中古ということを考えるとけっこういい値段はついている。さてこのMutron Bi-Pheseの特徴は、その名の通り当時としてはユニークな2相フェイズ効果と、強烈なレゾナンスのかかり具合とにある。これを使いこなしていたミュージシャンというと、なんといってもリー・リトナーの名が浮かぶ。というより、これを使っていた人は彼ぐらいしかいないといった方がいいかもしれない。しかし、ミュートしたシングルノートバッキングに、Bi-Pheseをかけた彼独特のバッキングスタイルは、一度は耳にしたことがあると思う。当時は「カキクケコ奏法」とか呼ばれていたが、そのサウンドは1970年代末から1980年代初頭のソウル・AOR・フュージョン界を風靡した。そしてフォロワーも多く生まれた。やってみればわかるのだが、ミュートトーンへのかかりの良さという点では、Bi-Pheseを凌ぐモノはない。しかし基本機能自体は、現在のデジタルマルチエフェクターですべて実現していることばかりなので、一般的なフェイズシフターとしてみた場合には、こんな大仕掛けなものは必要ないともいえる。その意味では、今でもリトナー奏法をやってみたいというヒトにとってのみ、必須アイテムといえるだろう。余談になるが、リー・リトナーの愛器はおなじみ62年のドットのES-335だが、ES-335の61、62年物というのは、60年までのモデル、62年にスクエアインレイになってからのモデルのどちらとも構造が違い、独特の音がする。本当にリトナーになりたいのなら、こっちを探す方が先だろう。ちなみにこの時期の赤ドットの生産量は500本以下と考えられ、なかなか入手が難しいことも覚悟した方がいいが。

判定: リー・リトナーになりきりたい人のみ、プレミアムも覚悟せよ



(5) Boss CE-1
エフェクターにコーラスという新しいジャンルを築いたBossのCE-1。そのあまりのインパクトはエフェクターの歴史を書き換えるほどのものがあり、CE-1はそのオリジネーターという意味で歴史に残るモデルだ。もともとCE-1は、ローランドのギターアンプJCシリーズに搭載され、定評のあったコーラス回路を元に、単独のエフェクターとしたものだ。その特徴は、単相コーラスである点と、L/Rが和分/差分ではなくドライ100%とエフェクト(ヴィブラート)100%という構成になっている点だ。特に、ドライとエフェクトでL/Rという点は圧倒的にユニークで、これがその後登場した他のコーラスにはない特徴になっている。エフェクト音のミキシングを電気的ではなく、本当に空間でのアンビエンスミックスで実現しているからだ。JCシリーズの出力を、片チャンネルづつ殺してみればわかるが、片チャンネルづつでは、全くのドライ音とうねうねしたビブラート音になってしまいエフェクトにならず、両方あわせてはじめてエフェクトがかかるのだ。つまり、左右のスピーカーのセッティングやバランス等を調整することで、その「場」ならではの、独特なエフェクト効果を発生させることができる。L/Rを一つのキャビネットの中に入れた時には、スピーカー間隔や密閉、後面開放による違い。別のキャビネットに入れたときには、両者の距離や配置を変えることにより得られるエフェクト感の違い。この変化には実に深いものがある。大変使いこなしにくいともいえるが、奥義をマスターすれば、他では得られない生々しいコーラス感を生み出すことができる。従って、CE-1の達人になればなるほど、これが手放せなくなるという次第だ。ここまでわかって買うなら、AC電源内蔵でノイズも低いし、プレミアムだけの価値はある。だが普通のコーラス効果がほしいなら、かえっておすすめできない。使いこなしが難しいからだ。それなら、CE-3とかの「中古品」で充分だろう。CE-1同様のモードもついているし。さてこういう仕組みのエフェクタなので、間違ってもラインで録ってL/Rに振るなんてマネはしないこと。ヘッドホンで聞くと、気分が悪くなる録音になる。これも意図的に狙うなら面白いが……。

判定: これを使いこなし真価を発揮させる能力は、プレミアム以上に貴重かも



(6) テープ式エコーマシン
マエストロのエコープレックス、ローランドのスペースエコーなど、テープ式のエコーマシンも人気の高いヴィンテージ・エフェクターだ。テープエコーは、アメリカのハンドメイド・ガレージメイカーの製品(高い!)を除けば、すでに新品で手に入れることが不可能だ。欲しければ、おのずとヴィンテージものに手を出さざるを得ない。ほとんどオーディオ機器ともいえる回路に、駆動メカ部分まで持つという「超アナログ」機器なだけに、その音には機種ごとに相当のクセがあり、各機種固有の音が欲しいとなると本物を使わざるを得ない。高級オーディオの魅力と同じで、シミュレートするには本物以上の金と手間がかかってしまうからだ。昔「ソニーのデッキで録ると音が太くなる」といわれたように、ヘッドやテープの特性、プリアンプの特性などにより音質は色々な要素が加わって複雑に変化する。さらに楽器で使用する場合には、ヘッドルームの小さいオーディオ製品に楽器の入力を入れた時特有の、コンプレッションのかかったようなオーバードライブ感も加わり、これが他では出せない味を作っている。特にチューブでプリアンプを組んだ初期のエコープレックスなどはこの効果が強く、「通すだけで音が太くなる」と70年代からすでにプレミアムがついていた程だ。ポイントはここだ。単に効果としてのエコー/ディレイが欲しいなら、デジタル機器で何ら問題はない。しかし、「テープエコーによる音の変化」が欲しいのなら、現物を使わざるを得ない。ここが分かれ目だろう。本当に「その音」が必要ならば、プレミアムを出しても買うべきだ。しかし、十中八九は単にディレイ効果が欲しいだけのはずなので、デジタルディレイでも、フィルターやレゾナンスのセッティング次第でお望みの音が得られるだろう。そういう人はプレミアムを出して買っても、宝の持ち腐れになってしまうことを忘れるな。

判定: これぞ真のアナログ、チューブアンプ同様「この音」がほしければ買うしかない



(7) アナログディレイ
なぜか、若い人に人気が高いのがこのアナログディレイ。若い人は「アナログ」とつけばなんでもありがたいと思っているのかもしれないが、リアルタイムで経験した世代にとっては、なんでこれにプレミアムがつくのか理解に苦しむ。確かにBBD特有の音の変化(劣化)があり、デジタルディレイやテープエコーとは違う音はでる。しかし、この変化は端的に言って「音質の劣化+ピッチのゆらぎ」なのだから、これをデジタルエフェクタを使ってシミュレートすることは容易だ。フィードバックさせる信号に、フィルター、オーバードライブ、コーラスをかけてやればいいハナシ。このごろのデジタルマルチならたいした手間じゃないし、スタジオならば機材が安定してローノイズな分、今の機材でシミュレートした方がいいだろう。「電話みたいな声」を作るのは、イコライザでフィルタリングしてやるのが常識で、ホントに電話回線を通す人はいないことを考えてほしい。アナログディレイ自体、オーディオ的な純粋アナログデバイスから、デジタル処理デバイスへの過渡的な過程で登場した技術であり、あくまでも代用技術であったことを忘れてはならない。アナログディレイがコンパクトエフェクタとして普及した70年代末は、既にスタジオデバイスとしてはデジタルディレイが登場する一方、楽器用の高級デバイスとしては高性能のテープエコーが、その爛熟期を迎えていた。あくまでもアナログディレイは、プアマンズ代用デバイスだったことを忘れてはならない。こういうデバイスを「面白がる」のはいいことだが、「ありがたがる」のは本末転倒と言わざるを得ない。そういうことをしていると、耳が良くならない。面白い音、変わった音を活かして使うのなら、何もプレミアムのついた有名メーカーの「人気モデル」を使う必要はない。中古品として安く売っている無名メーカー製や韓国製のモデルを買い、自分で工夫して使ってみよう。こういう機材は、チープなメカを面白がって「飛び道具」的に使うのなら、使うヒトのアイディア次第でどんどん価値が生まれるが、高い金を出して買って後生大事に使うものではないことを心に念じておこう。

判定: 音自体は容易にシミュレートでき、プレミアムの意味が全くない



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