Gallery of the Week-Jan.04●

(2004/01/30)



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ドイツ国立芸術展覧会ホール開催 「日本の美 日本の心」帰国展
東京国立博物館 上野

ドイツのボンで、2003年の8月から10月にかけて開催された日本美術展「日本の美 日本の心」。この展覧会は、東京国立博物館所蔵の国宝・重文を含む名品により構成されたが、その全容を日本でも紹介する、いわば凱旋展である。海外での反応が強く、現代日本文化とのつながりも深い内容、というという視点から、15世紀から18世紀、室町時代から江戸時代までの武士文化と関係の深い作品に絞った展示になっている。
それだけでなく、独立行政法人化を先取りしたワケでもないのだろうが、ドイツにおける展覧会として、インパクトが高く、顧客の満足度も高いように、かなりマーケティングを意識したテーマ、作品選びの跡が感じられる。内容は、「書院」「京都」「茶の湯」「能」「武士」「琳派」という、いかにも外国人が関心を持ちそうな6つのサブテーマに分けられ、それぞれ代表的な作品を選び出している。
ラスト・サムライではないが、海外での「サムライ」のブランド力はまだまだ高いものがある。そういう意味では、いわば「サムライ」文化にスポットを当てた今回の企画テーマは極めて明解だし、内容の構成もホンモノの迫力でインパクトは高い。どちらかというと日本の博物館では、まだまだ「お勉強」色の強い企画展示が多い中、エンターテイメントとしての展示を考えるようになってきたきざし、と見ることもできるだろう。せっかくの「お宝」なんだから、もっと活用すべきだし、良い傾向だと思う。



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ビックリハウス祭 「ビックリハウス住宅展」
パルコギャラリー 渋谷

日本の「熱い時代」がひとしきり過ぎ去り、ちょっとクールで醒めた視点がスタイリッシュに感じられた70年代半ばから80年代半ば。「ビックリハウス」は、その時代における、ある種の都会派の若者の、文化だったり、オピニオンだったりを代表し、「一部」で一世を風靡していた雑誌である。今年が1974年の創刊から30周年にあたることを記念して、「ビックリハウス的なるもの」を21世紀に降臨させようというイベントが、この「ビックリハウス祭」である。展示は、いろいろなカタチでビックリハウスに縁のある人々が、誌名になぞらえ、25センチ角の「ボール紙の家」を表現した「ビックリハウス住宅展」を中心に、ビックリハウス本誌をはじめとする出版物や関連イベントのポスターの展示により構成され、そこに、忽然と現代によみがえったビックリハウスの「幽霊」第131号が鎮座ましましているという寸法。
ビックリハウスが「現役」だった時代は、ぼくにとっては、ちょうど10代の終わりから20代に当たる。それは、多感な時代のほとんどとオーバーラップしていることになる。おまけにその当時(いまでもエリア的には抜け出ていないが)、ぼくはリアルタイムで「渋谷少年」だった。そんなワケで、このイベントはなかなかディープなものがある。それだけでなく、編集スタッフには、同窓生がいたり、その後仕事で知己を得たりしたヒトもいたりするワケで、ここまでくると個人的にはなかなか冷静には見られないイベントだ(笑)。
だが、20年近い年月を経て俯瞰してはじめて気付くこともある。それは、登場してくる人達が、あまりに幅広いことである。十余年の間には、いろいろな世代の人々が関わっており、その拡がりは相当なものがある。創刊当時すでにエスタブリッシュされていて「by line」で登場していた人達と、アルバイト的なスタッフだった人達の差。初期に活躍したヒトと、末期に活躍したヒトの差。そこには驚くほどの世代差があると同時に、「ビックリハウス的なモノ」とぼくらが思うものについての相当な体温差があったことに改めて気付く。
これはある種の世代論ともつながる。よく引き合いに出すが、当時封切られた「ウッドストック」を見たぼくらは、登場するミュージシャンのルーツや指向性の違いまで理解できず、ひたすら「スゴい」としかとらえられなかった。それと同じで、当時はここに登場する人達を十把一絡げにとらえてしまい、リアルタイムでその体温差に気付けなかった。それは、我々の限界であり、その後の時代に対する罪なのかもしれない。これに関しては稿を改めて述べてみたい。
しかし、会場を出て、改めて歩きながら渋谷の街を見てみると、ビックリハウスの「享年」だった85年にはすでにあったビルや店が意外なほど多いことに改めて気付く。バブル期に徒花のように生まれた店は、そのまま消えてしまったモノも多いが、その前からの歴史を持つモノはなかなかしぶといのである。言ってみれば、70年代から80年代にかけての変化は、戦略・構造的なものであったのに対して、それ以降の変化は、結局は、戦術・意匠的なものでしかなかったということだろう。それだけに、自分達がその時点で何をしたか、もう一度考え直す義務を感じた。



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life/art '03
資生堂ギャラリー 銀座

2001年の資生堂ギャラリーの再オープンにあわせてスタートした、今村源、金沢健一、須田悦弘、田中信行、中村政人の5人による共同展である、life/art。今回は、5カ年計画の企画展の三回目である。年一回という設定なので、タイトルは「life/art '03」なのだが、展示は、完全に今年になってからのスタートである。今回のテーマは、「見ること、触れること」である。
なんといっても、前回は「ホンモノの家を建てる」という掟破りの荒技で、いきなりアートのボーダラインに肉薄しただけに、今回はどこから攻めてくるのだろうか。おまけに、テーマも見る、触れるという、アート作品にとっての原点、存立基盤ともいうべきところに設定されている。
結果からいってしまえば、今までの二回より、グサッとつきささらない「イマイチ感」がつきまとうことは否めない。田中氏の「床に漆」も、中村氏の「街頭インスタレーション」も、アイディアとしては面白いのだが、今ひとつ、それこそそれが「見たり、触ったり」するインパクトとして伝わってこない。
もっとも、この企画自体が単発ではなく、「5年間を通して」というものだけに、中にはそういう年があってもいいのかもしれない。起承転結ではないが、全体のストーリーという意味では、一本調子でテンション感が高まっていくのも考えものという場合も多いからだ。次回に期待しましょう。しかし次回は、今年やるのか、来年になるのか。



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千代田区江戸開府400年記念事業 東洋文庫名品展
丸ビルホール 丸の内

東洋に関係する書籍や各種資料のコレクションとして世界的に知られる、岩崎久彌が開設した東洋文庫。その中から、江戸開府400年記念として「江戸」をキーワードに、江戸をめぐる地図や風景画、江戸時代の文化や風俗を伝える資料などをよりすぐって展示する企画展。場所も、三菱ゆかりの丸の内の中心にそびえたつ丸ビルである。
東洋文庫の性質がそうであるだけに、鑑賞するというよりは、学習するという感じにならざるをえないが、流石に88万点といわれる豊富なコレクションを所蔵しているだけあって、限られた出展物数の中でも、中々興味を惹く珍品・逸品がそろっている。それらの実物を見るだけでも、大いに好奇心をそそられる。
しかし、富というのは、集めてこそ文化を生み出すということがよくわかる。岩崎家という「大金持」がパトロンとなったからこそ、これらの文化財は海外に流出しなかっただけでなく、ますます集まってくるという集積効果を生んだのだ。この富が、戦後日本のように、数多くの小金持ちに分散されてしまったのでは、かえって文化を破壊するだけであることは、バブル期の経験が何より示している。それにしても、富みと徳を併せ持った人達というのは、日本では19世紀に絶滅してしまったのだろうか。



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