Gallery of the Week-Aug.04●

(2004/08/27)



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第23回 グラフィックアート「ひとつぼ展」
ガーディアン・ガーデン 銀座

いつも楽しみにしている「ひとつぼ展」。意図と創発と相半ばするのだろうが、ノミネート作品を見ると、微妙に時代の勢いを感じ取ることができるのが、なんとも面白い。そういう意味では、このところの景気の回復を反映しているのか、なかなか勢いを感じさせる作品が多かった。それのみならず、見てうれしくなる作品、幸せになる作品、というのは、なんか久々に出会った気もする。
トラディッショナルな表現の枠組みを使っているほど、表現の中身そのものがパワーを放っていないと、陳腐で当たり前の作品になってしまう。その分、作品そのもののインパクトについて充分に吟味しやすいのだろう。どちらかというと、そういうオーソドックスなジャンル分けが可能な作品に、表現としてのインパクトの新鮮さがある作品が多かった気がする。
その一方で、表現の枠組みそのものに新鮮味があると、今度はその目新しさに酔ってしまい、肝心の表現そのものがなおざりになりがち、というのも世の常。テクノロジーアートとかでも、「いつか来た道」である。本当は、両者が相まったところにこそ、新しい表現が生まれるのだろうが、それは、既存の手法でも新鮮な表現ができるヒトが、新しい方法論とであったときに生まれるモノなのだろう。



8/3w
横山大観「海山十題」展
東京藝術大学美術館 上野

昭和15年。紀元2600年と大観の芸術活動50周年を記念して描かれた、俗に「海山十題」と呼ばれている大観の代表作を一堂に集めた展覧会。作品は、海をテーマに十幅、富士山をテーマに十幅のあわせて二十幅。それぞれ日本橋三越と日本橋高島屋で展示即売が行われ、その収益で、海軍、陸軍に軍用機を寄贈したという、いわくのある作品でもある。
もちろん、作品そのものは、売上のために描かれたものではなく、観念的なテーマに、斬新な構図や画風を加えた、オリジナリティーも完成度も高いものである。しかし、その由来や時代との関りから、戦後は奇異な運命をたどり、最近まで所在が不明になっていた作品もあったという。
そもそも、芸術作品は政治やイデオロギーから自由でなくては作品としての価値を図れない。政治やイデオロギーがかったモノは、純粋芸術ではなく、党派や政治集団がクライアントの商業芸術である。こと戦争がらみになると、「臭い物には蓋」になってしまうのは、明らかにオカシい。
そもそも、戦後の文化人が左傾していて、反戦、平和でなくては文化的価値がないような、ユガんだ価値観を流布させたことから、ボタンのかけ違いが始まっている。芸術家であっても思想心情の自由はある。好戦的な芸術家がいたっていいではないか。それを認める心の広さを持たない人間には、そもそも芸術を鑑賞する心の余裕がないハズだ。



8/2w
フレンドリー・ファイアー バーンブルック・デザイン展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

現在のイギリスで、もっとも影響力のあるデザイナーの一人であるジョナサン・バーンブルックの代表作を集めた展覧会。日本でも、いくつかの企業のVI担当するなど、そのタイポグラフィーを中心に据えた作風はけっこうなじみがある。特に、ヨーロッパの伝統を踏まえつつ、現代的な新解釈を加えたフォントは、現地の人にとっては、非アルファベット圏のわれわれ日本人には図り知れないような、伝統の継承と破壊という、深いインパクトを持つのだろう。
さて、地階は反広告活動とよばれる、政治的なメッセージを持ったグラフィック作品の展示。個人的には思想心情の自由は大事にしているので、誰がどういう意見を持ち、それをどう主張しようと、尊重し大事にしなくてはいけないという主義なので、意見の中身が自分と違っていても、その心意気は大いに評価する。そこに対しては、何らコメントするものではない。
しかし、主としてパロディー的な手法を用いてプロテストするときには、常にクリアしなくてはいけない壁がある。それは、パロディーのパロディーたる由縁ともいえる、「自分の立場を声高に主張するのではなく、ギャグのセンスで相手を笑いの対象にしてしまうことで、心の余裕を見せて勝つ」という点である。自分のメッセージ性からは一歩退いて斜に構え、自分も観客になって笑ってこそ、そのセンスは生きる。
しかし、ここに展示されたバーンブルックの作品群は、パロディーの余裕を感じさせる前に、メッセージの主張がストレート過ぎて、笑うに笑えない。もしかすると、西欧文化やキリスト教的価値観の素養がある人にとっては、共有できるギャグが含まれているのかもしれないが、それでは、世界平和を主張する立場としては、メッセージがユニバーサルでなさ過ぎる。確かに、フォントの使いかたとか、デザイン手法はいいかもしれないが、その点がとても気になった。



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