Gallery of the Week-Sep.04●

(2004/10/29)



10/5w
「パワーステーション」 シムリン・ギル
資生堂ギャラリー 銀座

ゴミや漂流物を使ったインスタレーションで知られる、マレーシアのアーティスト、シムリン・ギルの東京初個展。マレーシアの実家と、その近くに古くからある発電所の写真と、得意の漂流物のオブジェクト・ワークを組み合わせたインスタレーションの「一発もの」である。
パッと見てビックリするのは、「資生堂ギャラリーって、こんなに狭かったっけ」ということ。もちろん広さが変るワケがないのだが、限られた空間をフルに使ったインスタレーションが多かっただけに、「控え目」なインスタレーション作品の分、スペースそのものが異常に存在感を主張する。
壁や床の汚れや傷、こんな出っぱりがあったっけと思わせる、配線や配管のフタ。はじめて接するアーティストなので、なんとも判断しづらいのだが、この作品のメインは、「ギャラリー自体」にあるのではないか、という気がしてくる。これほどまでに、自然のままのこの空間に着目し、それを活かした展示は、今までなかった。
しかし、気付いてみると、今月はみんな「近場・無料」で固めてしまったことになる。なんかすいません。公私ともに忙しくて、時間が取れないのも一因だし、天気が悪い日が多かったのも一因だとは思う。なんか、小粒感は否めないが、それでもこういう「場」が近くにいろいろあるだけハッピーと考えるべきなのだろう。

10/4w
疾風迅雷 杉浦康平雑誌デザインの半世紀展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

独自の世界を持つエディトリアルデザインで知られる杉浦康平氏の、「雑誌デザイン」に焦点を当てた企画展。杉浦氏といえば、一目でそれとわかるオリジナリティーで知られるが、実際、半世紀にわたるその作品を並べてみると、多くのデザイン作品で感じられる時代の影響より、一貫した杉浦ワールドの世界観の方が強烈に印象づけられる。解説のキャプションがなければ、制作年代についても前後不覚になってしまうようだ。
もちろん、商業デザインの作品である以上、そこに込められた時代性がないワケではない。使用されているフォントとか、フィーチャーしたイラストとか、微に入り細に入り見てゆけば、60年代、70年代、80年代といった時代性はキチンと見てとれる。しかし、それ以上に揺るぎないこの一貫性はいったい何なんだろう。恐れ入るかぎりだ。
もっとも、今ほど情報化が進んでいなかった時代、20世紀前半のビッグネームは、往々にしてきわめて個性的なことが多い。スポーツでも芸術でも、どんな分野でも、自分の芸風をキチンと持ち、それをジャンルとして確立することで、自分のステータスを築いている人が多いからだ。そういう意味では、「昔に比べれば、世の中全体が小粒化している」といわれても、ちょっと否定できないな。

10/3w
第23回 写真「ひとつぼ展」
ガーディアン・ガーデン 銀座

毎度おなじみ「ひとつぼ展」。この企画、写真にしろグラフィックにしろ、毎回毎回、その年のトレンドというか、空気感というか、「らしさ」が滲み出しているので期待している。で、今度は写真の方。今年の流れは、去年も感じていたんだけど、作者の透明化がますます進んだということだろうか。程度はさておき、作者の意思やイメージが、極めて曖昧になってたり、あえて曖昧にしていたりと、もはや、それが基調になっているような感じ。
犬の「マーキング」ではないが、確かに組作品の中に、「そこに作者が存在した証し」が盛り込まれているのは確かだが、作者のパーソナリティーやメッセージがどうにも読み取れない。多分、これは読み取れないんじゃなくて、「ない」のだ。ここまで、はっきりしていれば、これは確信犯だ。作品に通底する何かが、バッサリなくなってしまっているのが、イマ風、というコトなんだと思う。
もっとも、本人から本人へのメッセージと考えれば、こういう外在化を通して、はじめて自分を見つめ、知ることができるといえないことはない。メッセージも情報性もないblogが、他人とつながるための道具としてなら存在してしまうし、書いている本人にとっても、幸せになるツールになっているご時世だから、まあ、そういうのもアリかなとは思うけど、なんか、ヤな時代だなあ。



10/2w
国立公文書館所蔵資料特別展 鉄道
国立公文書館 竹橋
貨物ターミナル 汐留
旧新橋停車場 鉄道歴史展示室 新橋

「鉄道の日」にちなみ、鉄道をテーマにした展示会が二つ、どちらも小型の展示なので、まとめて紹介する。国立公文書館の特別展「鉄道」は、日本の近代化になくてはならなかった鉄道発展の姿を、それを支えた法制度に関する公文書から見てゆこうという企画展。鉄道趣味の世界は幅広く、写真や模型、乗り潰しといった、今を楽しむホビーだけでなく、歴史をたどるというのも、そのジャンルの一部としてかかえている。おまけにその内容は、産業史や企業経営史、あるいは地域史といった、アカデミックな内容を凌駕するようなモノも少なくない。
そういう意味では、鉄道の歴史を語るいろいろな本で、写真や内容はみたことがある資料の実物を、鉄道創成期、鉄道国有化期、戦時期、戦後期の4つに分けて紹介している。場所は公文書館一階の回廊という限られたスペースだが、展示物も文章であり小さいので、なかなか密度の濃い展示となっている。明治天皇をはじめ、伊藤博文、大隈重信といった、歴史上の人物の直筆のサインが、間近に見られるだけでも、結構貴重かも。
鉄道歴史展示室の展示「貨物ターミナル 汐留」は、この地最後の鉄道施設である貨物駅の「汐留駅」の歴史を振り返ることで、日本の鉄道貨物輸送と、近代日本の発展の中でそれが果たした役割を振り返る企画展。この場所でやる展示にしては珍しく、鉄道貨物に関する現物、資料、模型を駆使した、交通博物館の企画展のような、本格的で硬派な展示となっている。
実際、交通博物館蔵の資料も多いが、貨物は決して派手なものではないので、こういう機会でなくては見られないモノも多い。模型も、交博の大型ディスプレイモデルだけでなく、安達製作所提供の16番による「昭和の車扱貨物時代の車輌」、カトー提供のNによる「JR貨物のコンテナ時代の車輌」も多々展示されている。これなら、ジオラマがあってもいいかも。たから号のヘッドマークをはじめ、一般の人はさておき、マニアにはそれなりに見応えのある展示品が楽しめる。



10/1w
ギンザ・フォト・ストリート 1930s/2004
HOUSE OF SHISEIDO 銀座

資生堂の銀座の元本社ビルの1Fと2Fを改装した、HOUSE OF SHISEIDO。銀座で資生堂二つ目のギャラリーと、ショールームとが一体化した施設。今回の展覧会は、銀座という土地柄を活かし、銀座にコダわった昭和の写真家、師岡宏次氏の残した1930年代の作品と、長野陽一氏、森本美絵氏、長沼敦子氏が銀座を撮りおろした2004年の新作とで構成される企画展。
師岡氏の作品は、有名なカットも多いが、これだけ物量で攻められると違ったモノも見えてくる。それは、昭和初期の大衆の自画像だ。歴史として語られるモノからは、大衆のホンネはなかなか伝わらない。しかし、写真にはそれが表情と共に残っている。そうだろうとは思うのだが、日本人の大衆は、本質的には戦前も戦後もそんなに変っていないということがよくわかる。
しかし、一番面白かったのは、師岡氏が1966年に撮影したという8ミリ映画だ。当時の銀座は当然知っているし、出てくるネオンや街の景色もけっこう懐かしい。それより発見されるのは、1966年の銀座は、今の銀座より、1930年代の銀座に近いということだ。でもよく考えてみれば、それも当たり前。30年対40年で、1930年代の方が現実にも近いのだ。なんか、考えさせられるな(笑)。



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