Gallery of the Week-Oct.05●

(2005/10/28)



10/4w
CCCP研究所=ドクター・ペッシェ&マドモアゼル・ローズ展
ギンザ・グラフィック・ギャラリー 銀座

富山県立近代美術館の「第7回世界ポスタートリエンナーレトヤマ2003」でグランプリを受賞し、そのインパクトある作風で日本でも注目されるようになった、CCCP研究所=ドクター・ペッシェ&マドモアゼル・ローズにスポットライトを当てた企画展。ポスタートリエンナーレの受賞作がそうであったように、CDNオルレアン国立演劇センターのアートディレクションを、演劇センターのディレクターであるオリヴィエ・ピから連続して任されたことにより、一躍スポットライトをあびる存在となった。
その作風は、表面的にはモチーフの選び方など、一見スタンドプレイ的に見えるところもあるものの、やっていることは実は極めてオーソドックス、かつ、伝統的な正統派である。たとえて言えば、キワモノかと思わせる「怪しい謎の覆面レスラー」が、一旦ゴングが鳴ると、極めて正統的なストロングスタイルのレスリングを披露し、その上にとても強い、というところだろうか。逆に、正統派でもこれだけ可能性がある、ということをストレートに示すのが気恥ずかしくて、あえてキワモノ的に振る舞っているのかもしれない。
とにかく、「もうやりつくしてしまって、ペンペン草も生えない」と、誰もが思っていた領域にも、まだまだやり残している可能性が豊富に残っていることを示すコト自体が、大きなインパクトをもたらしてさえいる。ちょうど、新しい採掘法が見つかると、既に見捨てられていた鉱山でも、まだまだ豊富な資源が期待できることはよくある。それと同じで、グラフィックデザインに限らないが、20世紀の産業社会においては、表面的な陳腐化のスピードが速かっただけに、まだまだ最新の方法論で掘り起こせば、資源がのこっている領域も多いというコトだろう。



10/3w
第25回 写真「ひとつぼ展」
ガーディアン・ガーデン 銀座

またまた写真「ひとつぼ展」がやってきた。今回の作品は、ある意味で「揃って」いる。作品の質という意味ではなく、視線の持ち方が、ある範囲にかたまっているのだ。これがハヤリなのかはわからないが、今の雰囲気を表現しているモノには違いないだろう。それはそれで理解し、受け入れるべきものであろう。
しかし、この対象との距離感は何なんだ。少し前から、デジカメで撮った作品には、被写体との妙な距離を感じていたのだが、今回は、銀塩も含め、一様にこの距離感が相当に拡がっている。一般のヒトが、日常的に感じている距離感に近い。もちろん、この「距離」とは単に物理的なそれではなく、精神的なモノを含めた意味だ。
だから、たとえ物理的な距離を変えようがない月や太陽を撮影したとしても、大きい距離感を感じる作品も、非常に接近した距離感を持つ作品も制作可能である。70年代から写真とつきあっているせいか、ぼくにとっては、そもそも写真が作品たり得るには、この距離感が、通常の社会通念からすると「危険」な範囲に入っていなくてはいけないように感じられる。
もちろん、時代が違うし、写真の置かれているポジションも違うので、これが「今様」なんだと思うのだが、それだけ「世の中の変化」を感じる。眠れる獅子を起こしてしまうような視線は、予定調和が最も重要視される世の中では、受け入れてもらえないということなのだろうか。



10/2w
美の伝統 三井家伝世の名宝
三井記念美術館 日本橋

この10年ぐらいは、美術館に関する話題というと、開設よりは閉鎖のほうが多かったのではないだろうか。確かに、バブル期に向かって、メセナ活動と称して美術館を開設するところ、バブルに乗じて買い漁った美術品を展示すべく美術館を開設するところ、と、雨後の筍のように設立された館の多くが、その後の10年でことごとく消えていった感がある。そういう中では、久々の大物が誕生した。日本橋三井タワーの旧三井本館部分の7階を利用して開設された、三井記念美術館である。
もともと、三井文庫別館として、三井家に伝わる美術品や資料を保存していたものが、三井タワーの建築を機に、常設の美術館として展示の場所を得た、といった方が正しいのだろう。そういう意味では、地方公共団体の「ハコモノ行政」による美術館とは正反対の、はじめに収蔵品ありき、という超正統派の美術館である。
財閥系のコレクションといえば、明治の岩崎家の静嘉堂文庫や昭和の五島美術館がおなじみだが、なんせこちらは江戸時代以来、400年もの歴史がある。当然、そのコレクションの質・量も圧倒的なものがある。今回の展覧会も、そのごくごく一部を紹介しているだけだのだが、その見応えはかなりのものである。個々の美術品という以上に、歴史的な流れまで感じさせてくれる。
また、多くの収集品が、ワンオーナーでコレクション状態にあったモノだけに、そのコンディションもすばらしい。数奇な運命を経て伝世された美術品も多い中、常に貴重なコレクションとして保存されきた作品だからこそ、作られた当時の息吹を今に伝えてくれる。日本美術に興味のある方はもちろん、そうでない人にも充分楽しめる展示だ。



10/1w
印刷解体vol.2 -失われゆく活版印刷、その「技術」の魅力-
ロゴスギャラリー 渋谷

早いモノで、このコーナーも丸7年。今月から8年目に突入ということになる。どちらにしろ、アートをはじめとする展覧会や、美術館、博物館はよく行くので、ネタには事欠かないだろうとは思って始めたが、我ながらよく続いているものだ。今度とも、御贔屓のほどをよろしく。
さて、今週は渋谷パルコのロゴスギャラリーで開かれている、「印刷解体vol.2 -失われゆく活版印刷、その「技術」の魅力-」である。活版印刷にまつわる、活字や字母をはじめ、版を組むまでに使われる道具や機材を集め、展示即売する企画である。期間中には、職人による版組の実演まで行われるという。
グラフィックデザインや印刷は近い世界なのだが、さすがにぼくが知っているのは、版下で納入すれば刷れてしまう時代になってからのこと。もちろん、活版印刷のやり方や仕組みは知っていたが、その技術的ノウハウについては、新鮮な驚きがいっぱいだ。たとえば四角い罫線は、罫線用の板を面取りして、実際にハコにしていることとか、1ページ組むのに1時間ぐらいかかることとか。
扱っているモノはテキストという「情報」でありながら、やっている作業は、鋳込みからはじめて、基本的に超アナログの「工業」なのだ。だからこそ、徒弟的な職人芸の世界にはいってしまう。日本のグラフィックデザイン教育の「出自」の一つが、工業学校の印刷科にあるのだが、なにかその潜在意識の奥深くにひそめく、「見てはいけないモノ」を見てしまったような感じだ。



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